鳥栖保健福祉事務所保健監の中里栄介氏。4月から杵藤(きとう)保健福祉事務所に。

 佐賀県鳥栖三養基地区健康危機管理対策幹事会は2月、新型インフルエンザ対策の課題をまとめ公開した。幹事会のメンバーであり、最前線で対策の実行に当たった鳥栖保健福祉事務所保健監の中里栄介氏(鳥栖保健所長、写真)は、年度替りを迎え対策メンバーの入れ替えも想定されることから、「次に活かしてもらうために課題を抽出しておくべき」と考えたという。その中里氏はこれまでを振り返り、「ドライブスルー型発熱外来の亜型が対策の一環として実施された」ことを成果の1つに挙げた。

―― 鳥栖保健福祉事務所では、「新型インフルエンザ対策 現場からの報告」を発信し続けてこられました。その中で、この1年間を振り返り、今後に活かすための課題の検証をしたことを報告しています。

中里  鳥栖保健福祉事務所が管轄する地区では、医師会をはじめ、核となる病院、薬剤師会、さらには消防、警察、市町村などで構成する「鳥栖三養基地区健康危機管理対策委員会」が組織されています。新型インフルエンザ発生後も、この枠組みの中で地域での協議あるいは連携を進めてきました。その下部組織である幹事会で、今後に向けた課題について議論しました。

―― 新型インフルエンザの流行も落ち着きを見せてきており、この1年を振り返るチャンスだと思います。

中里  この時期に課題の検証を行ったのは、年度替りを迎えて、対策メンバーの入れ替えも考えられたからです。体制も変わるかもしれませんので、これまで対策に取り組んできたメンバーとして、今後に向けた課題を検証しておくのは必須だと考えました。

―― 体制の連続性を重視したということですか。

中里  課題を抽出しておけば、来年度以降、地域で引き続き新型インフルエンザの対策を進めていく中で、貴重な足がかりになると思います。

―― 報告をみると、まず、新型インフルエンザの発生以降の対策について、国と佐賀県、さらに管内(鳥栖三養基地区)ごとに一覧表にまとめています。たとえば国内発生第1例は5月16日でしたが、佐賀県内第1例は6月27日でした。鳥栖三養基地区で初めての例(県内6例目)は7月6日でした。それぞれに対応して、国、佐賀県、鳥栖三養基地区がどのような対策を打ったのかが一目瞭然です。その上で、「新型インフルエンザ対策の課題等について」をまとめています。全部で11項目におよぶテーマを挙げ、それぞれごとに課題を取り上げています。

中里  たとえば、「1 住民への広報、情報提供について」ですが、まずは実際に取り組んだことを確認し、その上で何が課題かを議論しました。

―― 実際に取り組んだこととしては、住民への広報や情報提供は県庁が担ったこと、情報提供の方法としてテレビ、ラジオ、さらに広報誌やチラシ、ホームページなど多岐にわたる手段を使ったこと、10月の「世界手洗いデー」にあわせて、ショッピングセンターや鳥栖駅などで啓発用のチラシを配布したこと、などが挙がっています。

中里  幹事会のメンバーは、実際の取り組みを見直す中で、課題も見えてくると考えました。住民への広報、情報提供の面で課題は、ホームページによる情報提供でした。ホームページは適宜更新され、情報としては早く的確に伝わると考えられます。しかし、高齢者や年少者には、アクセスが難しいといった面があったのです。

―― そこで「対象に合った情報提供の方法を検討すること」が課題となったわけですね。

中里  たとえば高齢者の世帯には、チラシの配布が適していたとの意見もありました。ただ、どんどんチラシが配布されてくるので、どれが新しいのか分からなくなるといった問題も出てきました。

―― チラシ1つとってみても、まだ工夫の余地はあるということですか。では11のテーマのうち、もっとも重要なものはなんでしょうか。

中里  すべてのテーマが重要なのですが、強いてあげるとすれば、対策の要となる「医療体制の確保」でしょうか。

―― 発熱外来の対応、全医療機関の対応、一次救急の対応、入院体制の4項目に分けてまとめています。他のテーマが1テーマ1項目であることをみると、分量的にも「医療体制の確保」が重要だったことが分かります。

中里  発熱外来については、初期の対応時になりますが、保健福祉事務所を通じて事前に連絡をして受診する体制だったにもかかわらず、連絡なしで直接受診する事例もありました。また、一度に複数の受診者があった場合に1つの発熱外来では受け入れが難しい場合もありました。保健福祉事務所としては、特定の職員が携帯電話により対応せざるを得ず、負担が大きかったことも課題の1つでした。

―― 7月21日から、一般医療の受診が可能となりました。全医療機関の対応となったわけですが、この部分では、こちらの地域の対策案として注目されたドライブスルー方式の発熱外来にも触れています。

中里  新型インフルエンザが発生する以前から、他の患者さんとの接触を防ぐことを狙って、ドライブスルー型発熱外来を検討していました。しかし、今回の新型インフルエンザのウイルスの病原性が明らかになるにつれ、当初想定していた強毒型ではないことが分かってきましたので、その段階で地域で協議をし、ドライブスルー方式の発熱外来はやらないこととしました。

―― 実際の対応の一環として、ライブスルー方式の亜型が実行されたと記されています。

中里  患者さんに自家用車で医療機関に来てもらい、そのまま車の中で待機した状態で、医師が診察するという方法です。抗インフルエンザ薬が必要な場合は、ファクスで近くの薬局に処方せんを送り、その薬局の薬剤師さんに薬を車まで持ってきてもらうようにしたところもありました。

―― 「一般の患者さんと新型インフルエンザの患者さんを完全に分離して受診してもらうことは、困難だった」が課題に挙がっていますが、その解決策の1つとして、ドライブスルー方式の亜型を取り入れた医療機関があったことは、今後につながる工夫だと思います。

中里  発熱外来自体をどうするのか、という大きな課題もありますが、ドライブスルー型発熱外来の亜型が対策の一環として実施されたことは成果の1つに挙げたいと思います。

―― 職員の負担については、それぞれのテーマに散見されていますが。

中里  たとえば相談体制ですが、県の24時間体制は当番制でした。しかし、保健福祉事務所での時間外は、特定の職員が対応せざるを得なかったのが実情です。そのため職員の負担は大きかったのです。「特定の職員が長期間にわたり対応するのは、困難だと思われる」が課題に挙がりました。

―― 「ワクチン接種体制の確保」では、薬局薬剤師が優先接種の対象ではなかったことを問題としています。

中里  これは現場の声として特に強いものの1つでした。佐賀県は院外処方率が全国的にみても高水準にあります。つまり、薬局薬剤師さんが直接、新型インフルエンザの患者さんに接する機会が多いわけです。

―― さきほどのドライブスルー方式の亜型の発熱外来では、薬局薬剤師さんが直接、薬を届けています。かたや医師はワクチン優先接種の対象なのに、同じチームとして現場で患者さんに接する薬局薬剤師さんがワクチン優先接種の対象外という現実があったわけですね。

中里  課題としては、「薬局薬剤師も優先接種の対象とすべきではないか」として挙げました。

―― 今後、幹事会がまとめた新型インフルエンザ対策の課題は、どのような扱いとなるのでしょうか。

中里  市長等が出席する委員会(親部会)に報告することになります。その後は、新年度の対策委員会で検討を継続することになると思います。

■参考
「新型インフルエンザ対策 現場からの報告13 佐賀県鳥栖保健所」