新型インフルエンザA/H1N1が豚からやって来たというのを知らない人はいない。だから、人間から豚に感染するだろうというのは、ほとんどの人の想像力の範囲内だろう。でも、フェレットだ、犬だ、猫だ、ミンクだとゾロゾロ登場して来たらどうだろうか。

 2009年11月、米オレゴン州ポートランドで、ペットクリニックを受診したフェレットからA/H1N1が検出されて海外報道を賑わせた。

 フェレット。インフルエンザ関連の医学論文で頻繁にお目にかかる“常連さん”だ。フェレット血清がどうのこうの、フェレット感染がどうのこうのと。人間に反応がよく似ているから実験室で重宝されるのだけれど、だから、「インフルエンザ研究のための実験動物」というのが筆者の認識だった。読者の皆さんの多くもそうだろう。「ふ〜ん、実験動物可愛くなって持ち出しちゃったわけね」と。

 違うのだ。検索サイトで「フェレット ペット」「フェレット ブログ」で検索かけてみたら、ものすごいヒット数だ。実を言うと、筆者は(フェレットをペットにする)物好きのブログに注意喚起の意味でトラックバックでも送ろうと思ったのだが、そんな考えは一瞬にして萎えるほどの数なのだ。それらには、フェレットと抱き合わんばかりの日常が熱愛写真とともに微に入り細に入り綴られている。

 問題は「フェレットを材料にインフルエンザの知見を明らかにしよう」と考える人々と「フェレットと熱愛しよう」と思う人々がお互い関係なく(情報の交通なく)違う世界を形成していることだ。だから、一方の人々は、無邪気にフェレットに飛沫をかけてしまうかもしれない。

表1 人のインフルエンザウイルスの感染が確認されたペット(勝田氏による)

 こういう現実に嘆息つくひまもなく、海外報道には、表に示すごとく犬、猫、ミンク・・・と登場してきている(表1)。それらが報告された場所も米国、中国、デンマーク・・・とバラエティに富むが、実はこれらの地名はあまり重要ではない。自分のところに受診したペットが新型インフルエンザじゃなかろうかと考えて大学なり研究施設に検体を送るという、普通の獣医がまずやらないことをやった人がそこに居たという以上の意味はない(日本の流行にあたり、一番の功労者はPCR検査を強く主張して国内発生第1例を見つけ出した神戸の開業医だという説をどこかで読んだが、筆者もそれに同意する。この先生と同じぐらい明晰かつ機転の効く獣医がこれらの地にいたという意味)。実態は、「氷山の一角」なんて言葉じゃとても表現できない数―recombinomicsの表現を借りれば、in the thousands, if not millions―あるのだろう。

 そして、ペットたちがウイルスのプールの働きをして、新たなウイルスが出現するという悪魔のシナリオもWHOから警告され密接なモニタリングが呼びかけられている注)

 身の回りにペットを飼っている人がいたら教えてあげよう。家族同様に咳エチケットを守って接しようと。インフル症状の受診者があなたの診察室にやって来たら説明にワンアイテム付け加えよう。

 「ペットはどうですか。元気がない? じゃあ、すぐにペットクリニックへ!」

注)
・WHOから警告
http://www.who.int/csr/disease/swineflu/notes/briefing_20091105/en/index.html


 過去のパンデミック時と今回の大きな違いの1つは、インターネットによる情報提供が力を発揮していることだろう。2003年のSARSの流行時に、北京で日本大使館医務官だった勝田吉彰氏(近畿医療福祉大学)は、「ちぎっては投げ方式でこまめに情報提供をすることで、現地の日本人社会の不安を和らげた」と振り返る。新型インフルエンザが騒がれるようになってからは、このときの経験を元にブログを立ち上げ、日々情報を発信し続けている。勝田氏に「今、忘れてはならないこと」を綴っていただく(「パンデミックに挑む」編集)。