2009/2010シーズンは、季節性インフルエンザの流行があるのか、現段階では不透明だ。主流はAソ連型なのか、A香港型か、それともB型なのか−−。Aソ連型の場合は、タミフル耐性(H275Y変異)株への警戒も必要となる。その「H275Y変異」の臨床的意義については、いくつか知見が積み重なってきた。小児感染症研究グループの解析もその1つで、タミフル耐性株の感染者に対してタミフルを投与した群では平均解熱時間、解熱率、再発熱率などの指標が、抗インフルエンザ薬の無投与群とほぼ同様の経過であったことを報告している。

生嶋こどもクリニックの生嶋聡氏

 小児感染症研究グループには、京都市の日比小児科クリニック、生嶋こどもクリニック、亀岡市のふじわら小児科内科医院、木津川市のつなもと医院、神戸市のはしだ小児科医院の5施設が参加している。新潟大学大学院の斎藤玲子氏らとの共同研究で、タミフル耐性の臨床面について検討を重ねてきた。11月に福井で開催された日本小児感染症学会では、生嶋こどもクリニックの生嶋聡氏(写真)が「タミフル耐性H275Y変異の臨床的意義」について報告している。

 季節性インフルエンザのAソ連型でタミフル耐性(H275Y変異)が注目されたのは、2007/08シーズンだった。北欧を中心に耐性株の感染が広がり、世界に拡大していった。日本では0.2〜3%程度と局地的な流行にとどまっていたが、翌2008/09シーズンは、ほぼ100%がタミフル耐性ウイルスとなっていた。

 タミフル耐性(H275Y変異)については、ノイラミダーゼ阻害剤感受性試験(IC50)において、薬剤が効きにくくなっていることが報告された。しかし、臨床の現場からは「症例によっては効いている」などの指摘もあり、試験結果と臨床とのギャップが指摘されていた。小児感染症研究グループは、このギャップを埋める目的で研究に取り組んできた。

 期間は2008年12月から2009年3月で、グループ内の5施設で症例を登録した。対象は、迅速診断キットでA型インフルエンザと診断された症例で、患者または保護者の同意を得た上で検体の採取と臨床経過表の記入を依頼した。ウイルスは分離培養後型別判定とH275Y変異の有無を検索した。治療は、抗インフルエンザ薬の投与の有無、種類については、患者または保護者の希望を尊重した上で、厚生労働省の勧告に従った。なお、2007年12月から2008年3月にも同様の検討を行っており、今回は対照と位置づけて比較検討した。

 解析にあたっては、(1)1歳以上20歳未満の症例、(2)ウイルス分離成功例、(3)タミフルまたはリレンザは発熱後48時間以内に開始し5日間で8回以上の投与例を対象とした。「解熱」の定義は、37.5℃以下が24時間以上持続した場合とした。

 図1は、2007/08シーズンのAソ連型(H275Y変異なし、n=316)における治療別の有熱患者率をみたものだ。抗インフルエンザ薬を投与しなかった無治療群(n=75)に対し、タミフル投与群(Os、n=178)、リレンザ投与群(Za、n=63)とも、有熱患者率の減少が有意(p<0.001)に早かった。

図1 2007/08シーズンのAソ連型(H275Y変異なし、n=316)における治療別の有熱患者率の推移

 一方、図2は、2008/09シーズンのAソ連型(H275Y変異あり、n=251)における治療別の有熱患者率をみたもの。リレンザ投与群(n=83)は、無治療群(n=38)に対して有熱患者率の減少が有意(p<0.0001)に早いことが分かる。ただし、タミフル投与群(n=130)は、無治療群(n=38)とほとんど同様の経過をたどっていた。

図2 2008/09シーズンのAソ連型(H275Y変異あり、n=251)における治療別の有熱患者率の推移

 生嶋氏によると、平均解熱時間、49時間解熱率、90%解熱時間、再発熱率などの指標をみたところ、Aソ連型(H275Y変異あり)へのタミフル投与群は、リレンザ投与群より成績が悪く、無治療群とほぼ同様の経過だった。Aソ連型(H275Y変異なし)の場合は、タミフルとリレンザは同様の臨床効果が観察されている。

 これらの結果から研究グループは、「Aソ連型のH275Y変異は、in vitroのみだけでなく、臨床的にもタミフル耐性を示すことが確認された」と結論している。