静岡こども病院小児集中治療センター長の植田育也さんから、「嬉しいお便り」が届きました。「新型インフルエンザの“最重症患者”を救命できました」とのこと。手紙は、「広域をカバーする小児の重篤患者の救命救急システムが有効に働いた成果と思われます」と結ばれています。以下にご紹介します。

 ひとつ嬉しいお知らせがあります。
 愛知県の6歳の女の子が、新型インフルエンザで重症呼吸不全になりましたが、静岡西部ドクターヘリとの連携で迅速に遠距離搬送することができ、12月1日から当センターで治療しておりました。状態は改善し、12月8日には人工呼吸器から離脱し、12月9日にはPICUより一般病棟に退出できました。広域をカバーする小児の重篤患者の救命救急システムが有効に働いた成果と思われます。
 お子さんは、風邪を引いたときに少し喘息症状の出たことのある、普段は元気な6歳の女の子です。
 11月30日より発熱、咳がありました。その日の夜から呼吸困難となり、愛知県東部の近隣小児科2次病院を受診、A型インフルエンザの迅速診断で陽性となり、日付けが変わる頃に入院となりました。入院後も呼吸不全状態が進行し、12月1日の昼過ぎに気管挿管を行い、人工呼吸管理が必要となりました。近隣の小児科3次施設に相談しましたが、「状態が悪いため人工心肺装置が必要になる可能性」もあり、それであれば静岡こども病院に相談をする方が良いだろうとのアドバイスがあり、同日午後に、静岡こども病院へ連絡がありました。
 私が電話で話を聞いても、やはり最重症患者であり、人工心肺をスタンバイしながらPICUで呼吸管理をした方が良いと考えました。搬送法に関しては、原則として依頼元の県で取り扱うルールですので、愛知医大のドクターヘリを要請するよう依頼元病院の医師にアドバイスしました。夕闇の迫る中、飛行経路を考えると静岡西部ドクターヘリがより短く迅速であることが判明したため、静岡西部ドクターヘリが出動しました。運行時間ギリギリで、患者さんを遠距離搬送しました。そのためヘリが帰投したのは、もう真っ暗な17時10分でした。ヘリは夜景を頼りに浜松まで帰ったそうです。
 当センターでは今シーズン30人近くの新型インフルエンザの重症患者を診ましたが、この患者さんは最重症でした。
 気管チューブを通してバッグで呼吸をさせても、肺が硬くて気管が狭くて、酸素が入っていきません。大量に出てくる痰を吸引しつつ、気管支拡張薬を吸入させつつ、何とか呼吸器に載せ、その後も定期的にバッグで手押しをしながら痰取りをして肺を広げました。いわゆるARDSの診断に合いますが、気道閉塞の病態が強く、通常の典型的なARDSの呼吸管理ではうまく行かなかったと思います。
 人工心肺も本格的に準備しなければ、という危ない時期もありました。しかし、1、2日で山を越え、肺も綺麗に改善してきました。その後も、一部肺が拡がらない部分もあり、しばらく時間がかかりましたが、最終的に8日間の人工呼吸管理で改善しました。
 12月9日に酸素使用のままPICUより一般病棟に出ましたが、肺に関して後遺障害はなく、もちろん脳症もなかったので、近々全く元の通りに戻って退院できると思います。

 植田氏はこの便りに添えて、「最重症患者を救命できたポイント」として以下の4点を挙げています。救命救急システムが有効に働くためには何が重要なのかを考える上で、とても貴重な情報だと思います。

 1つ目は、ドクターヘリでの県境をまたいだ迅速な広域搬送が実現できたこと。時間切れで依頼元病院でもう一晩、あるいは救急車で地上搬送だったとしたら、かなり危険性が高かったと思います。

 2つ目は、県境をまたいででもPICUに相談をする体制が取れたこと。小児科学会のホームページや緊急フォーラムで、PICU専門医の存在を周知したり、コンサルテーションシステムを作ったことが役立ちました。

 3つ目は、新型インフルエンザの重症患者に関する情報交換が出来ていたこと。同様に小児科学会の緊急フォーラムで、新型インフル重症患者の病態についてかなり詳しい情報をあらかじめ得られてたことは有用でした。

 4つ目は、PICUで専門医が診療できたこと。人工心肺のバックアップというハードはもちろんですが、重症患者の情報を得たPICU専門医が複数名で、目の前の患者さんの刻々変わる病態を診ながら、ディスカッションしつつ診療しました。決まり切った診療プロトコールではなく、かなり「専門医のさじ加減」が必要でしたので、そういうソフトの部分でも専門性が発揮できたことは大きいと思います。

■参考
日本小児科学会のホームページ
日本小児科学会のコーナー「新型インフルエンザ」