静岡こども病院小児集中治療センター長の植田育也氏

 まずABCDアプローチの重要性を再確認してほしい――。これは、新型インフルエンザ流行で目立っている重症患者の救命のためにすべきこととして、静岡こども病院小児集中治療センター長の植田育也氏(写真)が力説する点だ。PICUの立場からの提言として、11月に開かれた日本小児科学会の緊急フォーラムで報告した。

 同センターでも重症患者の症例が蓄積されてきている。その中で、臨床的な特徴が明らかになってきた。たとえば重症呼吸器不全では、既往歴として「気道過敏性の存在を示唆される患者が多い」という特徴が分かった。理学所見では、呼気性喘鳴や片側呼吸音減弱にcrackle(異常呼吸音)が聴取される、胸部X線写真では、過膨張や片側無気肺に浸潤影が混在する、などがあった。臨床上時に遭遇する「年長児の細気管支炎様の病像」も特徴の1つだった。

 呼吸障害として、「多彩な病態が報告されている」点も注目すべきだという。植田氏は、「まず肺の理学所見や胸部単純X線写真よりその病態診断を行い、病態に応じて治療の方向性を決定する必要がある」とする。また「全ての病態に一律共通の治療法はない」とも指摘している(表1)。

表1 2009H1N1インフルエンザ重症呼吸不全の呼吸管理(植田氏)

(1)気管支喘息発作
 明らかな気管支喘息の既往と喘鳴があり、呼吸障害を来たす場合は気管支喘息の治療を確実に行う。喘息重積発作・呼吸不全の人工呼吸管理については、次項(2)参照。
(2)ウイルス性細気管支炎
 明らかな喘息の既往はないものの、過去に「喘息性気管支炎」と言われるなどの気道過敏性の存在を示唆される患者が、酸素化障害(酸素投与下でもSpO2≦93%以下)、呼吸音減弱と呼気終末のわずかな喘鳴といった「年長児の細気管支炎」に似た症状を呈する場合がある。胸部CT では気管支の粘膜や、さらに末梢の細気管支の肥厚がみられる。
 細気管支炎に対しては酸素投与と理学療法による排痰が治療の中心である。症例によっては気管支拡張薬かエピネフリンの吸入が奏功することも経験される。ステロイドの使用については議論のあるところだが、細気管支炎の治療という観点ではRSV細気管支炎で入院率を下げるとの報告が最近出ている*1)。ましてや死亡症例が相次いで報告されている2009H1N1 インフルエンザ細気管支炎については試みられてもよい治療法かもしれない。
 (1)および(2)に対する人工呼吸管理は次項(3)、(4)とは大きく異なった戦略をとる。まず、(1)(2)に特徴的な閉塞性呼吸障害では、気道閉塞による内圧上昇からエアリークを起こし、気胸や縦隔気腫を伴うことがある。この場合はまずNPPVも含め陽圧換気の適応に対し慎重になる必要がある。
 しかし酸素化障害が著しければ、気管挿管のタイミングを逸さず、人工呼吸管理を導入する。人工呼吸器の設定は長い呼気時間と低い換気回数で呼気相を確保する。換気回数を増加させてもCO2 は下降しないことが多い。吸気時間と吸気圧はしっかりと取り、呼気一回換気量で6-8mL/kgを確保するよう努める。
(3)ウイルス性肺炎
 ウイルス性肺炎にもやはり酸素投与と排痰が治療の中心である。ステロイドの一律投与は推奨せず、症例によって判断する。人工呼吸管理に際しては、最重症例でなければエアリークに注意しつつNPPVの使用が可能である。通常の人工呼吸管理では無気肺の解除を目的とするPEEP管理を行うが、気胸・縦隔気腫に注意し、(4)のようなアグレッシブなlung recruitment は控える方がよいと思われる。
(4)ARDS
 小児科学会HP、「小児インフルエンザ重症肺炎・ARDS の診療戦略」を参照。

急性脳症では、まず気道・呼吸・循環状態の安定化を

 植田氏は、けいれんや意識障害の発症から数時間で死亡に至る重症例についても解説した。この病態は、「脳症というよりもインフルエンザウィルスによるSIRSと表現するのが適切」と指摘する。感染症に伴うSIRSは“sepsis”と定義されるもので*2)、従来いわれる「敗血症」より広義の概念となる。このsepsisの治療については、呼吸循環管理を含めた迅速な全身管理が肝要となるのだという*3)。

 まず機を逃さない気道確保、補助換気により充分な酸素化を維持することが求められる。特にけいれんや意識障害が続くときは、気道を保護できず誤嚥のリスクが高くなり、また無呼吸を起こすことがあるので、「GCS≦8を目安に確実な気道確保を行うべき」という。

 また、「ショックの早期認知」も大切となる。頻脈や末梢循環障害がある場合は、血圧が正常でも代償性ショックが疑われることもあり、「発熱だけに理由を求めずに急速輸液を行い、ショックへの早期介入を心がけるべきだ」(植田氏)。

 呼吸障害、意識障害があってもショックで循環状態が不安定ならば、急速輸液、カテコラミンで強力に循環サポートをする。「治療早期の急速輸液が肺水腫、脳浮腫を引き起こすことはない」という。もちろん、循環状態安定後は漫然とした水分過負荷は避け、厳密な水分管理に努める*4)ことはいうまでもない。

 これら全身管理の重要性については、「インフルエンザ脳症ガイドライン改訂版2009.9 月」の「支持療法の項」にまとめられている。

ABCDアプローチの重要性の再認識を

 植田氏は、重症脳症の支持療法では、ABCDアプローチの重要性を訴えた。重症の救命救急患者を診療する現場では、ABCDEアプローチを採る。これは、常に「A;気道」「B;呼吸」「C;循環」「D;意識の障害」「E;環境要因」の順に診察、評価、介入を繰り返すことを指す。

 ABCの状態が不安定であれば、それだけで中枢神経に病変がなくてもDの異常=意識障害が生じる。つまり、Aの異常=窒息状態、Bの異常=低酸素血症があれば、それだけで意識障害を生じる。

 同様に、Cの異常=ショックがあればまた、それだけでも意識障害を生じる。ショックに関しては、低血圧に至る前の代償性ショック(頻脈・末梢循環不全・毛細血管充満時間延長を呈する)の早期認知と介入が大切となる。つまり、低血圧・徐脈まで進行する前に手を打たなければならないのだ。大原則として、Dの評価はABCが安定化していることが条件となるという。ABCが不安定なうちは、「Dの評価は暫定所見に過ぎない」ことになる。

科間・施設間の連携を

 植田氏は、重症脳症の救命のためには、「科間・施設間の連携が欠かせない」とも指摘する。その上で、3次転送の目安(表2)を提示し、協力を求めた。

 なお、困難な症例については、日本集中治療医学会(JSICM)の新生児・小児集中治療委員会傘下にJSICM PICU-network(略称;JPICU-net)という専門医集団があり、コンサルテーションに応じていることを紹介し、発表を締めくくった。

表2 重症脳症の3次転送の目安

- 発熱・けいれんから意識障害遷延
- 気道・呼吸が不安定な児
- 循環状態が不安定な児
- 高濃度酸素投与でもSpO2≦93%
- 重篤な呼吸窮迫症状 多呼吸・陥没呼吸
- リスクファクター(基礎疾患 肥満)
- 気管挿管後

■参考文献
1) Plint AC. Epinephrine and deamethasone in children with bronchiolitis. N Engl J Med. 2009 May14;360(20):2079-89.
2) Goldstein B. International pediatric sepsis consensus conference: definitions for sepsis and organ dysfunction in pediatrics. Pediatr Crit Care Med. 2005 Jan;6(1):2-8.
3) Dellinger RP. Surviving Sepsis Campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2008. Crit Care Med. 2008 Jan;36(1):296-327.
4) National Heart, Lung, and Blood Institute Acute Respiratory Distress Syndrome (ARDS) Clinical Trials Network,Wiedemann HP. Comparison of two fluid-management strategies in acute lung injury. N Engl J Med 2006 ; 354 :2564-2575.