日本臨床内科医会インフルエンザ研究班長の河合直樹氏

 11月時点で、分離されたインフルエンザウイルスのほとんどが新型インフルエンザとなっている。しかし、このままの状況が続くのか、あるいは季節性のA型やB型が出現するのか、今後の展開は不透明だ。昨年の流行でタミフル耐性Aソ連型がほぼ100%だったことも懸念材料の1つだ。2009/2010シーズンの抗インフルエンザ薬治療はどうすべきなのか。日本臨床内科医会インフルエンザ研究班長の河合直樹氏(写真)に、日常診療での対応を聞いた。

―― 国立感染症研究所のインフルエンザウイルス分離・検出状況(2009年11月19日現在)によると、28週以降に分離されたウイルス株のほとんどが新型インフルエンザとなっています。

河合  このままの状況が続くのであれば、新型インフルエンザに感受性があるオセルタミビル(商品名;タミフル)かザナミビル(商品名;リレンザ)の投与が推奨されます。アマンタジンは耐性があることが分かっていますから、推奨はできません。

―― A香港型やAソ連型の報告も、まったくないわけではありません。

河合 現在の迅速診断キットでは、A型の場合、H1N1亜型の新型とソ連型、H3N2香港型の鑑別はできません。症状からみても鑑別は困難なのです。ですから、国立感染研究所や各地の衛生研究所で発表されるウイルス分離状況を、今後も注視していかなければなりません。

―― 医療現場では、これからの抗インフルエンザ薬による治療をどうすべきか、悩まれている方が多いのではないかと思います。

河合 日本臨床内科医会インフルエンザ研究班では、これまでの研究結果などを踏まえ、亜型別の抗インフルエンザ薬の有効性をまとめています(表1)。私案なのですが、2009/2010シーズンに向けて参考にしていただければと思います。

表1 亜型別にみた抗インフルエンザ薬の有効性(日本臨床内科医会。2009/10シーズンへ向けての私案)

―― リレンザはすべての亜型で「推奨」となっています。

河合 吸入薬であるリレンザは、ウイルスの増殖部位である気道系に直接、かつ迅速に作用するため、全身への影響が少なく、また耐性ウイルスの報告もまれです。日本臨床内科医会の研究では、A型では香港型、ソ連型、新型のいずれに対しても有効性が高いことが明らかになっています。B型の場合は、タミフルよりもやや有効性が高いという結果もでています。注意点としては、適応が5歳以上であること、気管支喘息やCOPDなどの慢性呼吸器疾患では、使用後に気管支けいれんや呼吸機能低下がみられたという報告がある点です。

―― 一方のタミフルは、Aソ連型で「要注意」としています。

河合 Aソ連型では、タミフル耐性ウイルスが出現しているからです。2009年2月に、日本でもAソ連型がほぼ100%耐性化したことから、急遽、厚生労働省は特別研究班を設置し、現状の把握と対策について協議を重ねました。われわれも参加したのですが、日本臨床内科医会インフルエンザ研究班の検討結果については、海外の論文(J Infect,59:207-212,2009。Clinical Infectious Diseases 2009;49:1828?1835)にも掲載されました。

―― J Infect誌掲載の論文(参考文献1)は、H274Y変異が見つかったタミフル耐性ウイルスの感染者では、タミフルによる治療を行った場合、体温低下の有意な遅延を認めることを報告されていました。

河合 タミフル投与後のウイルス残存率をみたところ、H274Y変異がまったくみられなかった2007/08シーズンと全例にH274Y変異がみられた2008/09を比較したところ、2008/09の方が高い傾向にありました。また、15歳以下では15歳超より有意に高いことも分かりました。つまり、タミフルの効果減弱が確認できたわけです。最高体温の経過を比べたデータでも、タミフル耐性群(2008/09)の方が、15歳以下の第3、4病日において有意に体温が高くなっており、タミフルの効果減弱が示されました(参考文献3)。

―― 感受性は200分の1に低下していたという結果でした。

河合 文献的には投与後の血中濃度は500〜1000nMとの報告があります。この血中濃度はタミフル変異群の投与前のIC50(300nM)より高いことを考えると、感受性が200分の1に低下していても、ハイリスクではない成人ではある程度は有効であると考えられます。ただし、変異群においては、感受性の低下は15歳以下と15歳超で差がなかったものの、15歳以下ではウイルス残存率が高く、解熱の遅延も認めたことから、注意が必要なわけです。

―― 非耐性ソ連型と耐性ソ連型、さらに新型で、抗インフルエンザ薬の効果を比較されています。

河合 非耐性Aソ連型(2007/08)と耐性のAソ連型(2008/09)、さらに現在の新型(2009)の3群について、タミフルとリレンザの効果を比較しました。その結果が図1です(Clinical Infectious Diseases 2009;49:1828-1835、参考文献2)。投与開始から解熱までの時間(解熱時間)をみたところ、リレンザではすべての群で、30時間前後となっていました。一方、タミフルの方は、Aソ連型(2007/08)と新型では、やはり30時間前後だったのですが、耐性のAソ連型(2008/09)では、49±30.2時間と他のすべての群に比べて解熱の有意な遷延がありました。

図1 非耐性ソ連型、耐性ソ連型、新型に対するタミフル、リレンザの効果(参考文献2)
*;他のすべての群と有意差がある(p<0.001)

―― 新型については、タミフルもリレンザも推奨となっています。

河合 われわれの研究でも両薬とも、新型インフルエンザウイルスに感受性があることが確認されました。このまま新型が流行していくのであれば、タミフルやリレンザを使い分けていくことになります。ただ、まだ散発的ですが新型でもタミフル耐性株が報告されていますので、繰り返しになりますが、新型ウイルスの耐性化にも気を配るべきです。今後とも状況変化が起きる可能性は高いわけですから、正確な情報の把握と臨機応変の対応が求められます。

■参考文献
1)J Infect,59:207-212,2009
Clinical effectiveness of oseltamivir for influenza A(H1N1) virus with H274Y neuraminidase mutation
2)Clinical Infectious Diseases 2009;49:1828-1835
Clinical Effectiveness of Oseltamivir and Zanamivir for Treatment of Influenza A Virus Subtype H1N1 with the H274Y Mutation: A Japanese, Multicenter Study of the 2007?2008 and 2008?2009 Influenza Seasons
3)Aソ連型タミフル耐性ウイルス感染、タミフル治療例で体温低下に有意な遅延