福島県立医科大学小児科教授の細矢光亮氏

 感染症の流行曲線をみると、インフルエンザRSウイルスが重なり合う可能性が出てきた。新型インフルエンザに目を奪われがちだが、インフルエンザ様の症状で来院する患者、特に乳幼児の中には、RSウイルスの感染者が紛れていることもありうる。「RSウイルスの場合は、乳幼児では重症化しやすい。これからの流行はインフルエンザだけじゃないことを忘れないで欲しい」。福島県立医科大学小児科教授の細矢光亮氏(写真)は、こう警告する。

−− RSウイルスオンラインサーベイ(プロジェクトリーダー:国立感染症研究所主任研究官・砂川富正氏、DB管理人:西藤小児科こどもの呼吸器・アレルギークリニックの西藤成雄氏)などをみますと、インフルエンザの流行とRSウイルスの流行がかぶって来ているように見えます。

細矢  国立感染症研究所のデータ(図1、2)を見ても、報告数こそインフルエンザよりは少ないですが、この秋冬の流行は、完全に重なっていくと懸念しています。

図1 RSウイルスの流行(報告件数。国立感染症研究所のデータから)

図2 インフルエンザの流行(定点当たり届出数。国立感染症研究所のデータから)

−− 「懸念」の理由は何でしょうか。

細矢  新型が中心となっているインフルエンザの流行の陰で、RSウイルス感染症が見過ごされてしまうのではないかと思うからです。

−− インフルエンザ様の症状を呈して来院する患者さんの中に、RSウイルスに感染した患者さんが紛れているのに、気づかれないということでしょうか。

細矢  RSウイルス感染症の特徴はいくつかありますが、まず温帯地方では主に冬季に流行します。症状としては、鼻腔・咽頭粘膜に感染し上気道炎を起こします。乳児や高齢者の場合は、気管、細気管支、肺胞で増殖し、下気道炎を引き起こします。感染経路は、接触感染が主で、飛沫感染もあります。

−− 新型インフルエンザは夏も流行しましたが、お話をうかがう限り、症状などはインフルエンザと変わらないようです。

細矢  症状は若干違うのですが、今のように「インフルエンザ様の症状であれば新型インフルエンザ」と考えがちであると、見過ごしてしまうのではないかと懸念するわけです。

−− どのように見分けていったらいいのでしょうか。

細矢  まずは年齢です。RSウイルス感染では、生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%が感染します。症状としては、多くは上気道炎ですが、およそ30%は下気道炎を引き起こし、3%が重症化して入院加療が必要となります。生後3カ月までが、より重症です。もう一つの特徴は、一度の感染では終生免疫は獲得されませんので一生の間に何度も感染を繰り返すことです。

−− 特に乳幼児の場合は、インフルエンザ様の症状があり、かつ、重症化の懸念があれば、RSウイルスの感染も疑うべきということですか。

細矢  入院が必要かどうかは、症状や検査所見から判断します。湿性の咳や喘鳴があり、肺炎や細気管支などの下気道炎と診断すればRSウイルス感染を疑い入院を考えます。入院と判断したら、抗原検査をしてRSウイルス感染であることを確定します。なお、けいれんなどの神経系の症状がある場合は、脳症の合併を疑います。

−− どのような場合に、RSウイルス感染を疑うべきでしょうか。

細矢  流行動向に気を配るというのが、第一でしょう。近隣でRSウイルス感染が確認されたとなれば、RSウイルスを疑う判断材料になります。

−− 治療はどうなりますか。

細矢  残念ながら実用化されたワクチンや抗ウイルス剤はありません。ですから、感染した場合は症状を緩和する対症療法のみになります。ただ、早産や慢性肺疾患、先天性心疾患では、抗RSウイルスモノクロナル抗体による予防が可能です。

−− 今、重要なことは何でしょうか。

細矢  まず、このような感染症があることを一般の人に知って欲しいと思います。その上で、感染予防対策に取り組んで欲しい。さきほども指摘しましたが、RSウイルスの場合、一度の感染では終生免疫は獲得されませんので一生の間に何度も感染を繰り返します。ただ、歳を重ねるにつれ、たとえば大人では「ただの鼻かぜ」ぐらいで終わってしまうことも多いのです。注意していただきたいのは、「大人の鼻かぜ」が赤ちゃんに感染すると大変なことになるということです。ですから、帰宅後や調理時、食事前には家族全員が手洗いを励行すべきです。家族内感染が少なくありませんから、鼻かぜなどの感冒症状がある家族は、マスクを着用すべきです。決して鼻を触った手で赤ちゃんに触れることは、してはいけません。赤ちゃんの周りのものはアルコールなどでこまめに消毒するとか、赤ちゃんを人ごみに連れて行かないなども感染予防として重要です。赤ちゃんがいるご家庭では、特に気をつけていただきたいと思います。

−− 感染症対策は、まずは知ることからというのがよく分かりました。ありがとうございました。