「今冬の本格的流行時の被害は決して看過できるものではない」と押谷氏

 病原性が季節性インフルエンザを上回った場合、日本での新型インフルエンザの感染者は3000万人、死者は12万人に達する――。7月初めに都内で開かれた第23回インフルエンザ研究者交流の会で登壇した東北大学の押谷仁氏(写真)は、「A(H1N1)新型インフルエンザの世界の現状と今後予想される展開」と題して講演。その中で、今冬の本格的流行時の被害は、決して看過できるものではないことを強調した。

 世界の現状で、押谷氏がまず強調したのは米国における死者数の増加だった(図1)。「米国では最近、毎週40人から50人もが死亡している事実に目を向けるべきだ」(押谷氏)。5月1日時点で1人だった死者は、6月5日時点で27人に増加、その後1週間ごとに、44人、87人、127人と増え続け、7月2日時点では170人に達してしまった。感染者数が大幅に拡大したことを考えれば、たとえ致死率が低くても死者数の絶対数は増えてしまう。今後、「日本でも同様のことが起こりうる」(押谷氏)と覚悟すべきだろう。

図1 米国における死者数の増加(CDCのデータより作成)

 次に、感染の「量の変動」だけでなく「質の変化」にも言及。ニューヨーク州のデータを示しながら、感染拡大に伴い入院事例も増加し、人工呼吸器の装着が必要な事例やICU入院事例など重症例も目立ってきている点を指摘した(表1)。

表1 ニューヨーク州の入院患者および死亡者数の推移(押谷氏の発表より作成)

 入院例を年齢別にみると、5〜24歳の年齢層が主流だったものが、25〜64歳が主流となり、さらに5〜24歳、0〜4歳の層も増加し、各年齢層に広がってきているのが分かる。

 また、入院事例877例について基礎疾患の有無を見た場合、21%(877例中182例)には基礎疾患がなかったとし注視すべきとした。

 なお、死亡38例の危険因子をみたところ、糖尿病が13例(34%)でもっとも多く、喘息あるいは他の呼吸器障害が11例(29%)、免疫不全が9例(24%)、心疾患が8例(21%)で続いた。

 翻って日本の現状に触れた押谷氏は、(1)海外からの感染者の継続的な流入がある、(2)一部に地域での流行が見られる、(3)いわゆるくすぶり流行の状況にある、(4)こまめに感染者を発見し、学校閉鎖などを行うことで大規模な地域での流行が未然に防がれている−−などと総括した。

 その上で今後に目を向け、これまで健康な10代の高校生などを中心に感染が拡大していたのが、米国のように地域に感染が拡大し、リスクのある人にも感染が起こり始め、ICUでの管理を必要とする重症化はある一定の割合で起こる−−との見通しを示した。

 さらに被害予想も示し、本格的な流行が起きた場合、たとえ病原性が季節性インフルエンザと同じ(致死率0.1〜0.2%)でも感染者は3000万人、死者は3〜6万人となるとした。最悪の場合は、病原性が季節性インフルエンザを上回り、たとえば致死率0.4%となると、感染者は3000万人と変わらないが、死者は12万に達すると警告した。

 最後に対策面に言及する中で、「重症化例に対応する医療体制が大きな課題」との認識を示した押谷氏は、地域で起こっている医療崩壊や産科医不足などに象徴される日本の医療の弱点が「被害拡大につながる危険性が高い」とも強調。「防げるはずの死を防ぐための体制を今確立することが、専門家や行政、医療関係者の責務」と講演を締めくくった。