福田氏は「新型は大したことがないという雰囲気になってしまった」と憂いている。

 サッカーファンとして、2010年ワールドカップ南アフリカ大会が、新型インフルエンザの影響で中止になったりしてほしくない――。埼玉県戸田市で開業するふくだ内科・循環器科福田純氏(写真)は、新型インフルエンザの発生以前から、地域ぐるみの対策を訴えてきた一人だ。発生後、初めて訪ねると、福田氏は「新型は大したことがないという雰囲気になってしまった。これまでの対策を検証し、今後へ向けた対策を練る大切な時期なのに」と嘆く。この風潮は日本だけではないのではないか。このままでは来年の今頃に開催される南アフリカW杯も危うい。福田氏の懸念は深まるばかりだ。

―― 先生のところには新型インフルエンザの患者さんが来院しましたか。

福田 まだ来ていません。

―― 現状は、どのような診療体制をとっていますか。診療所の入り口には、「発熱や咳などのある方は受診前に感染症室入口のインターホンでお話ください」という案内がありました(写真1)。

写真1 感染症室の入口に誘導する掲示

福田 だいぶ前に用意したのですが、通常の診察とは別に、感染症を診るための診察室と待合室を用意しています。入口も分けました(写真2)。待合室も独立させました。現状の新型は低病原性と言われていますので、感染者が通常の待合を通る際は、マスクをしてもらったり、入室前に消毒液で手を洗ってもらったりして対処したいと思っています。

―― もしも今、感染された方が来院した場合、どのような診療の流れとなりますか。

福田 患者さんには事前に連絡してもらえればいいのですが、直接こられる方もいると思います。まずは感染症室の入口に誘導し、そこでインターホン越しにスタッフが対応します。通常の待合室とはドアで区切られた感染症室用の待合に入ってもらいます。スタッフは、サージカルマスクでの対応となります。

写真2 感染症室の入口 左側のドアを開けると感染者用の待合室となっている

―― 診察はどうなりますか。

福田 現状の診療ガイドラインでは、38℃以上の発熱となっていますが、37.5℃以上と厳しくしています。日本の感染例をみても、熱がそれほどでもない症例が報告されているからです。発熱があれば、同意が得られた患者さんには迅速診断キットでの診断を行います。その結果、A 型であった場合に、保健所に連絡することにしています。新型なのかどうかの判断は、県の衛生研究所にゆだねることになります。治療は、インフルエンザ陽性であれば、タミフルあるいはリレンザによる治療となります。

―― 今冬に流行した場合、病原性が強くなっている危険性があります。その際はどうされますか。

福田 程度によっては、時間差で対応することを考えています。うちは循環器疾患の患者さんも多いですから、ハイリスクの人への感染は防がなければなりません。ただ、病原性が一挙に強まったりした場合は、一診療所で対応できる範囲を飛び越えてしまいますから、このような場合に備え、地域ぐるみで対応を検討すべきだと思います。

―― 今冬へ向けた具体的な検討は、進んでいるのでしょうか。

福田 行政も医療関係者もそうですが、「新型インフルエンザってこんなもの、大したことはない」という風潮が広がっていると感じています。これまでの対策を検証し、今後へ向けた対策を練る大切な時期なのに。

入院が必要な患者さんを診るための病床が圧倒的に少ない

―― 先生は以前、「新型インフルエンザの大流行で今、埼玉が一番危ない」などという考察を発表されていました。H5N1型のパンデミックを想定した論説でしたが、(1)人口当たりの医師数あるいは医療機関は全国で最低レベルである、(2)東京に通う若い学生や就業者(いわゆる埼玉都民)が多い、(3)新型が発生した場合に出勤・通学をしない人は自宅近くの医療機関を受診する、(4)そのため医療過疎状態に拍車がかかってしまう――など、埼玉県の特殊事情を挙げて、このままでは「埼玉が一番危ない」と訴えていました。

福田 埼玉県は、入院加療が必要な患者さんを収容する医療施設の病床が圧倒的に少ないのです。特に埼玉県南部では、さいたま市立病院(感染症病床10、結核病床20、一般病床537)で受け入れる計画ですが、県南の人口が200数十万人であることを考えると到底足らないのです。運よく入院できたとしても、人工呼吸器は29台しかないのです。中央医療圏でもせいぜい200台に届かないのではないでしょうか。つまり、重症化症例に対応する体制は、今も進んでいないのです。

―― 先生は厚労省のパブリックコメントに投稿された意見の中で、「発熱相談センターの電話はパンクし、発熱外来は機能せず、まったくの幻想に終わる」などと指摘されていました。

福田 神戸では、私の予想通りのことが起こってしまいました。結局、医師会の先生方のがんばりがあったからこそ、事態の悪化を食い止めたのだと思いますが、この辺りを検証してこれからの対策に反映させるべきなのです。今度、神戸市医師会の先生に来ていただいて、お話をしていただきますが、検証とその情報共有も大切です。

―― 一般の医療機関が新型に対応する上で、検証のポイントとなるのはなんでしょうか。

福田 一般患者と感染者の区分けを実現するための設備費、防護具や迅速診断キット、抗インフルエンザ薬の提供、風評被害への対応、休業補償や医療従事者死亡時の補償などでしょうか。これらの各項目で、行政の支援が得られるのかどうかが、もっとも重要なポイントだと思います。

―― 先生は、来年の南アフリカW杯の開催が危惧されるとも指摘しています。

福田 サッカーファンとしては心配です。日本は、南アフリカをはじめとする途上国に対して、ワクチンや抗インフルエンザ薬の提供などの面でも、支援を拡充していくべきです。途上国の新型対策では、日本としてできることはたくさんあるのです。特にワクチン製造については、ワクチンそのものの提供だけではなく、製造技術などの支援も考慮すべきではないでしょうか。途上国支援の巻き返しのチャンスだと思います。