新型インフルエンザA/H1N1については、患者の背景、臨床症状、治療などの各領域で最新知見が集積されつつある。ここでは、2009年6月3日7:00現在で、世界から発信されたエビデンスをQ&Aとしてまとめた。解説は、北里大医学部衛生学・公衆衛生学助教の和田耕治氏にお願いした。

解説者からのコメント

 新型インフルエンザA/H1N1に感染した患者の臨床疫学的な特徴について、わが国や外国で公開されている報告をもとに暫定的なレビューを行った。これは、患者数、入院適応症例や重症化しやすい基礎疾患に関する知見などを示し、わが国での臨床現場での判断材料の1つを提供するものである。諸外国での報告が多いので、わが国の実状に合わない点については注意が必要である。


Q1 潜伏期は何日間か

A1 潜伏期間は様々な文献より、1〜7日(中央値3-4日)と考えられる18)
 
 米国での臨床所見では、2日〜7日と考えられる1)。スペインでは中央値3日(範囲:1から5日)、イギリスでは4〜6日との報告がある15)

Q2 感染可能期間は

A2 季節性インフルエンザでは発症1日前からウイルスを排出し、発症後5〜7日程度感染させる可能性があると推定されている。小児ではやや長く10日程度。免疫不全者、重症化した患者では感染可能期間は長くなると考えられる1)。不顕性感染の患者、抗インフルエンザウイルス薬によって治療された患者の感染性については不明である1)
 
Q3 患者の背景は

A3 ほとんどの国で、感染した患者の年齢の中央値は16〜20歳と若年に多いのが特徴である。男女差はないとする報告が多い18)

 神戸市の患者43人(2009年5月19日現在)では、年齢の中央値は17歳(範囲:5〜44歳)で、ほとんどが10代後半だった6)。男女比は1:1.3だった。

 大阪市のK中学・高等学校の生徒1942人、職員143人に(2009年5月19日現在)おいては、64人が確定診断された7)。確定診断された患者の年齢中央値は16歳(範囲:13〜53歳)で、男性が49人、女性が15人だった。大阪府においては小学校での感染事例として、5月19日現在、5人の小学生の感染が確認されている7)

 米国での642人の報告では、患者の年齢の中央値は20歳(範囲:3カ月〜81歳)だった1)。患者の年齢で10〜18歳が40%を占め、19〜35歳が35%だった。51歳以上は5%にとどまっている。

 カナダでは、患者の年齢の中央値は17歳(範囲:1歳未満〜86歳)だった8)

 基礎疾患は神戸市の患者43人のうち、気管支喘息のある人が6人(15.8%)だった。糖尿病、心疾患、免疫不全、悪性腫瘍などの基礎疾患のある人はいなかった6)。妊婦も1人もいなかった。大阪市での調査では、小学生5人については特に既往歴はなかった7)

 基礎疾患と重症化については、わが国では現段階では明らかな関連については報告されていない。

Q4 具体的な臨床症状は

A4 感染した際の症状とそれぞれの頻度について、報告されている文献をもとに分類すると以下のようになった。

(1) 80%以上の患者に認められた症状

 発熱:94%1)、97%5)。38度以上約90%6)、38度以上82.8%7)、87%-97%10)
 :92%1)、81%7)、77-92%10)。(77%との報告もある5)

(2) 60〜80%未満の患者に認められた症状

 熱感、悪寒:71%7)、28-80%10)
 咽頭痛:66%1)、65%6)、33-82%10)
 鼻汁・鼻閉:60%6)、27-30%10)

(3) 40〜60%未満の患者に認められた症状

 全身倦怠感:58%7)、35-80%10)
 頭痛:50%7)、38-81%10)

(4) 20〜40%未満の患者に認められた症状

 関節痛:32%7)、13-56%10)
 下痢または嘔吐:38%1)

(5) 20%未満の患者に認められた症状

 筋肉痛 :18%6)。(35%との報告も10)
 下痢:25%1)、10%5)、10%弱6)、12.9%7)、5-28%10)
 呼吸苦: 43%(入院症例30人5))、14%10)
 嘔吐:25%1)、46%5)、6.5%7)、15-25%10)
 : 16%10)
 腹痛: 10%7)
 結膜炎:10%5)

 なお、数例の確定症例には発熱がなかったことから、季節性インフルエンザと同様に無症候性および非常に軽症の感染例がある可能性がある15)

Q5 明らかになった検査所見は

A5 神戸市の調査では、23人を対象にRT-PCRを行った結果、インフルエンザ迅速診断キットでは、発症日の陽性率57.1%、発症から1日後は87.5%、同2日後は57.1%だった。

 カリフォルニアの入院症例24人のうち、16人は病院での迅速診断キットで陽性、5人は陰性。残りの3人は別の方法(2人は直接免疫蛍光法、1人は培養)での確認だった。

 発症の初期においては、偽陰性になることがあるため注意が必要である。

Q6 入院適応となる患者は

A6 わが国では、第2段階(国内発生早期)ですべての患者で入院措置がとられるため、臨床的に入院が必要となった件数については明らかにされていない。

 神戸市からの報告では、入院例は20歳代女性の1例のみだった。人工呼吸器管理を必要とする対象者はいなかった6)

 これまでの海外の報告によると、感染確定例の2〜9%が入院適応となっている1),5),8),10)

 基礎疾患については、米国では入院患者の40〜70%が、メキシコでは死亡した45人のうちの46%が何らかの基礎疾患があった1),5),10)

 入院を必要とした患者には、急速に進行する肺炎がみられた。新型インフルエンザ・A/H1N1感染による重症例の中で、合併症は2次性の細菌感染症、腎不全を伴う横紋筋融解症、心筋炎、そして基礎疾患(例えば、喘息や心血管疾患など)の増悪などがあった14)

 病状悪化に対するリスクが高いことを予見するような特異的な危険因子は、十分に解明されていない。臨床的な症状悪化の可能性のある所見、例えば、呼吸困難、胸痛、色のある痰を伴う咳、意識状態の変化、混迷などを観察した場合はすぐに医療機関を受診させる。基礎疾患(免疫不全状態、慢性的な肺あるいは心血管系疾患、糖尿病など)に配慮すべきである。

 妊婦は、死亡例に加え、何人かの入院症例が報告されている。

 米国での調査では、399人の感染が確定した患者のうち36人(9%)が入院を必要としていた1)。詳細なデータのある22人の入院患者のうち4人(18%)は5歳以下、1人は妊婦であった。9人(41%)は、以下のような基礎疾患があった。

 41歳の女性;自己免疫疾患により免疫を抑制する薬を内服
 35歳の女性;ダウン症と先天的心疾患
 33歳の女性;喘息、リウマチ性関節炎、乾癬のある35週の妊娠女性
 1歳の新生児;重症筋無力症、嚥下障害、慢性の低酸素症
 残りの5人は喘息のみ

 詳細なデータのある22人の入院患者のうち、11人(50%)は胸部レントゲン写真で肺炎が認められた。8人はICUに入院し、4人(18%)が人工呼吸器管理となった。5月5日現在、18人(82%)の患者が回復し、2人の基礎疾患のない23カ月の子どもと30歳の女性はまだ重篤だった。33歳の妊娠女性と1歳の重症筋無力症の患者は、死亡した。

 米国カリフォルニアで確認された553人患者(333人確定症例、220人感染の疑いが濃厚な症例)のうち、30人(5.4%)が入院した。この集団に関する報告では、死亡は確認されていなかった5)。23人は、5月17日現在、全員が退院している。

 入院期間の中央値は4日(範囲:1〜10日)だった。入院した30人のうち、21人(70%)が女性であり、年齢の中央値は27.5歳(範囲:生後27日〜89歳)だった。入院時診断で最も多かったのは、肺炎と脱水だった。

 入院した人のうち何らかの基礎疾患のある人は19人(64%)だった。基礎疾患については、慢性肺疾患11人(37%)、免疫が抑制される疾患6人(20%)、慢性心疾患(先天性心疾患、冠動脈疾患)は5人(17%)、糖尿病4人(13%)、肥満4人(13%)だった。5人の妊婦のうち2人は、自然流産(13週)や前期破水(35週)が見られた5)

 米国では、妊娠女性の20人の感染例(感染の疑いが濃厚の5人を含む)が報告され、そのうち情報の入手可能な13人のうち3人が入院し、1人がARDSを発症して死亡した4)

 メキシコでも入院した17〜33%の患者が人工呼吸器管理を必要とした10),15)

 カナダでは5月25日現在、921人の確定例のうち29人(3.1%)が入院し、1人(0.1%)が死亡した8)。初期の症例においては、15〜44歳に重症肺炎が認められた15)

 入院患者の基礎疾患の割合は表1にまとめた。

表1 入院患者の基礎疾患の割合

慢性肺疾患(喘息、COPD、BOOP、シェーグレン症候群、睡眠時無呼吸症候群など)37%5)、喘息が27%1)
免疫低下(免疫抑制する薬の内服、悪性腫瘍、先天性の免疫低下)9%1)‐20%5)
慢性心疾患17%5)
糖尿病13%5)
肥満13%5)
てんかん等(seizure disorder)10%5)
妊娠17%5)

Q7 実際に行われた治療は

A7 一般的な治療の注意点としては、以下となる。

 新型インフルエンザ・A/H1N1ウイルスは、今のところ、オセルタミビル(タミフル)やザナミビル(リレンザ)といったノイラミニダーゼ阻害薬には感受性を持つ。アマンタジンには耐性である。

 ノイラミニダーゼ阻害薬の早期投与は、疾患の重症度と有病期間を減少させる可能性がある。さらに、重症化や死亡を防ぐことにも寄与すると期待される。

 抗インフルエンザ薬は、特に次の群において有益と考えられている。

 * 妊娠中の女性(患者に説明同意のうえ、投与が勧められる16))
 * 進行性の肺炎の患者
 * 基礎疾患のある患者

 サリチル酸(アスピリンやアスピリン含有薬剤など)はライ症候群のリスクがあるため、小児や若年成人(18歳以下)には使用すべきではない14)。解熱には、アセトアミノフェンまたは非ステロイド性抗炎剤(わが国では、ボルタレン、ポンタールの使用が禁止されている)を使用する17)
 
 入院患者については、適宜酸素飽和度を測定する。酸素投与は90%以上の酸素飽和度を保つ。臨床的状況を加味し、妊婦などでは、92〜95%までに増やすことも検討する。重症の低酸素血症の患者は、マスクによる高流量(例えば10L/分)の酸素投与が必要である。

 抗菌薬の予防投与は行うべきではない。肺炎には、抗菌薬による治療は市中感染による肺炎に対するガイドラインを参照する。

 コルチコステロイドは、新型インフルエンザ・A/H1N1患者の治療の際には、日常的に使用すべきではない。低濃度のコルチコステロイドは、昇圧剤を必要としたり、副腎不全が疑われたりするような場合の敗血症性ショックの患者には考慮して良い。長期にわたる、あるいは高濃度のコルチコステロイドの使用は、日和見感染の可能性など、インフルエンザウイルス感染の患者において重症の副作用を起こすことがある14)

Q8 致死率はどうなっているのか

A8 2009年6月1日現在の報告によると、WHOには1万7410人の感染例と115人の死亡が報告されている(死亡が確認されているのは米国、メキシコ、カナダ、コスタリカの4カ国)。致死率は0.66%と計算できる。しかし、多くの軽症例が報告されていないことを考えると実際の致死率は、この値よりも低い値になる11)

 死亡が74人の段階で、ほとんどは60歳未満であった13)

 国別の致死率でみると、メキシコでは1.93%、米国では0.17%と大きな値の差が見られる。Fraserらの推計では、2万3000人(6000人から3万2000人)がメキシコで4月末までに感染し、その時までに報告された確定例と疑い例の死亡数から、致死率(CFR)は0.4%(0.3%から1.5%の幅)と推計された3)

 メキシコでの年齢階層別の致死率は、50歳以上で5.5〜5.9%、30〜49歳で3.9〜4.1%、20〜29歳で2.8%、10歳未満で0.4〜0.6%だった。メキシコで死亡した45例のうち54%は、基礎疾患のない患者で、ほとんどが20〜59歳であった。そのうち1人は妊娠34週であった。

Q9 ワクチンの効果で分かっていることは

A9 従来の季節性インフルエンザのワクチンは、現段階では新型インフルエンザ・A/H1N1には効果がないと考えられている。

■参考文献
1) Novel Swine-origin Influenza A (H1N1) virus investigation team. Emergence of a novel swine-influenza A (H1N1) virus in humans. N Engl J Med. May 7 2009.
2) CDC. Update: Novel influenza A (H1N1) Virus infections- Worldwide, Morbidity and mortality weekly report (MMWR) May 6, 2009. Vol 58 (17), 453-458. May 8 2009.
3) Fraser C et al.Pandemic potential of a strain of influenza A (H1N1): Early findings. Science 2009.
4) CDC. Novel influenza A(H1N1) virus infections in three pregnant women-United States, April-May 2009. Morbidity and mortality weekly report (MMWR).Vol 58(18)497-500.
5) CDC.Morbidity and mortality weekly report (MMWR) Hospitalized patients with novel influenza A (H1N1) virus infection. California, April-May 2009. Vol 58(19), 536-541. May 18,2009.
6)国立感染症研究所感染症情報センター,神戸市保健所.2009年5月19日現在の神戸市における新型インフルエンザの臨床像(暫定報告).2009年5月20日
7)国立感染症研究所感染症情報センター.新型インフルエンザの大阪における臨床像.2009年5月21日
8) Public Health Agency of Canada. Cases of H1N1 flu virus in Canada.(Accessed on 27 May 2009)
9) 日本感染症学会.各地からの緊急報告.西神戸医療センターからの報告.
10)World Health Organization. Human infection with new influenza A (H1N1) virus: clinical observations from Mexico and other affected countries, May 2009
11) World Health Organization.Influenza A (H1N1)
12)国立感染症研究所感染症情報センター.新型インフルエンザ.
13)World Health Organization. Summary report of a high-level consultation: new influenza A(H1N1).18 May 2009.
14)World Health Organization.Clinical management of human infection with new influenza A (H1N1) virus:initial guidance.2009年5月21日日本語
15) WHO Technical Consultation on the severity of disease caused by the new influenza A(H1N1) virus infections.(日本語)
16)日本産婦人科学会.妊婦もしくは褥婦に対しての新型インフルエンザA(H1N1)に対する対応Q and A
17)CDC. Interim Guidance for Clinicians on the Prevention and Treatment of Novel Influenza A (H1N1) Influenza Virus Infection in Infants and Children.(日本語)
18) World Health Organization.Considerations for assessing the severity of an influenza Pandemic.29 May 2009.
19)厚生労働省.新型インフルエンザ患者数.2009年5月31日