WHOパンデミック(世界的大流行)の警戒水準がフェーズ5のまま、9日目を迎えた。スペインや英国の流行状況によっては、最終段階であるフェーズ6に引き上げられる可能性がある。もし仮にフェーズが引き上げられた場合、対策はどのようになっていくのか。米国では「流行の深刻さ」に応じた対策が発動するが、果たして日本はどうするのか。

 日本は、検疫の集約化と強化などの対策が機能しており、4月28日の「新型インフルエンザの海外発生」の認定以降、国内へのウイルス侵入を許していない。ゴールデンウイークで海外に出かけた人が帰国後、疑い例がいくつか報告されたものの、今のところ国内での感染者は確認されていない。

 この状態で、WHOがフェーズを6に引き上げた場合、日本の対策は現状の水際対策を強化する一方で、次の段階である「国内発生早期」に向けた対策の準備を急ぐことになる。

 問題は、国内で第1例の感染者が確認された場合だ。行動計画では、WHOのフェーズに関わらず、国内発生早期に入ると、(1)感染者の感染症指定病院への入院措置、(2)学校の臨時休業、不要不急の集会などの自粛要請、(3)事業者に対しては不要不急の業務の縮小要請−−などの対策の実行が予定されている。要請とはいえ、(2)と(3)によって国民生活や企業活動に大きな影響が出るのは必至だ。

 これに対しては、想定される被害規模に応じた弾力的な対策を考えてもいいのではないかとする意見も出ている。

 今回の新型インフルエンザは、多くの患者が「軽症」、つまりは季節性インフルエンザの症状(発熱、呼吸器症状、筋肉痛など)とそれほど変わらないと報告されている。米国から、25%ほどに下痢や嘔吐などの消化器症状がみられたとの報告があるぐらいだ(感染症情報センターの発表、IDSC2009.5.1)。

 死亡例については、4月29日に米国で確認された1歳11カ月の幼児も5月5日に確認された2例目の女性の場合も、どちらも基礎疾患があったことが分かっている。一方、42人の死亡例が確認されたメキシコでは、死亡例を含む重症例の中には基礎疾患のある症例が含まれると報告されている。つまり、季節性インフルエンザでハイリスクとされる集団(幼弱小児、高齢者、基礎疾患を持つ人)と同様の集団が重症化していると考えられているのだ。

 加えてメキシコでは、コルドバ厚相が5月6日の会見で「20〜50代の人々は、初期症状が出ても病院にいかず、自己診断で薬を飲むなどしており、これが手遅れにつながっている理由と考えられる」との見解を示している。メキシコで死亡者が多い理由は、こうした受診の遅れにあるとの見方を示したものだ。また、死亡者多くは、肝臓や心臓などに複数の疾患を患っていたことも分かっていると言及している。

 もちろんまだ不明な点が多く、結論的なことは言えないが、現在発生している新型インフルエンザによる被害規模を見極めた上で、どの対策を実施するかを検討すべき時期に来ているようだ。

「流行の深刻さ」を致死率で評価

 参考になるのは、米国の「流行の深刻さ」に応じた対策だろう。米国では、致死率をもとにパンデミックの被害規模を5段階で評価し、「Pandemic Severity Index」(図1)という指標(カテゴリー)として提示することになっている。患者の自宅待機や学校の臨時休業、不要不急の集会などの自粛や企業の不要不急の業務縮小などのソーシャルディスタンス関連の対策は、それぞれのカテゴリーに応じた対策が発動する。

図1 「流行の深刻さ」を示すPandemic Severity Index(CDC)

 これはハリケーン対策を元にした考え方といわれているが、今回の新型インフルエンザがWHOによってフェーズ6、つまりパンデミックの段階に至ったと判断されれば、米疾病対策センターがパンデミックの「流行の深刻さ」を評価し、どのカテゴリーに該当するのかを発表する。

 たとえば、学校の休業はカテゴリー2〜3で4週間以内、カテゴリー4〜5では12週以内などとなっている。また、室内イベントの中止や劇場などの閉鎖は、カテゴリー2〜3では状況に応じて実施し、カテゴリー4〜5では実施を推奨するなどとなっている。職場の対策については、カテゴリー2〜3では状況に応じて実施し、カテゴリー4〜5では実施が推奨とされている。

 こうした被害の深刻さに応じた対策の実施は、合理的とする専門家は少なくない。実際、日本の企業の中にも、事業継続計画に「被害規模の想定」を盛り込み、それぞれの段階に応じた対策を立てているところも出ている。

 社会的あるいは経済的な活動を可能な限り維持しながら、パンデミックの被害の最小化を図る対策が求められている。