追加接種の場合で、交叉免疫は「示唆」

 一方の追加接種試験では、「交叉免疫を示唆するデータ」が得られ、一定の効果が認められた。3年前のベトナム株の治験に参加した200人を対象に、インドネシア株や安徽株を追加接種し効果をみたところ、二次免疫応答が認められた。

 追加接種試験は、インドネシア株の追加接種群102人、安徽株の追加接種群108人の計210人に対して、それぞれ試験薬0.5mLを上腕三角筋に1回筋肉内接種した。

 追加接種後7日、21日に効果の判定を行ったところ、インドネシア株の追加接種群では、インドネシア株に対する中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)は、7日後に65.7%、21日後に92.2%に達していた(表2の上段)。初回接種試験の結果と見比べると、中和抗体の発現が早いことが分かった。なお、ベトナム株に対する中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)は、7日後に56.9%、21日後に93.1%だった。

表2 追加接種試験の結果(中和抗体価)
試験薬であるワクチン株の追加接種によりどれだけ中和抗体価が陽転したかを示す。⇒の前の数字は、それぞれのウイルス株に対する陽転率を示す。

 同様に、安徽株の追加接種群では、安徽株に対する中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)は、7日後に60.2%、21日後に75.0%に達した。ベトナム株に対する中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)の方は、7日後に30.6%、21日後に58.3%だった(表2の下段)。

 交叉免疫については、インドネシア株の追加接種群では、安徽株に対する中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)も、7日後に70.6%、21日後に95.1%となっていた(表2の上段)。

 一方の安徽株の追加接種群でも、インドネシア株に対する中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)が、7日後に23.1%、21日後に51.9%となっていた(表2の下段)。

 なお安全性の面では、追加接種によって新たな副反応は認められなかったという。

 交叉免疫の効果を示唆するデータが得られたことから、発生前にあらかじめワクチンを接種しておく「事前接種」を対象を拡大して実施する案も検討課題に上る。ただし、今回検討したプレパンデミックワクチンの効果は、あくまでもH5N1型がヒトの新型インフルエンザにつながった場合に限られる。

クレードが離れるほど交叉免疫が薄れる?

 公表されたデータ(表2)を見る限り、追加接種した株によっては効果にバラつきがある点に気づかれた方も多いに違いない。

 H5N1ウイルスは、抗原的に、また遺伝子的に区別されたウイルスのグループ(クレード)に細分化されている。ベトナム株はクレード1.0に属し、インドネシア株はクレード2.1、安徽株はクレード2.3に分類されている。

 今回の追加接種試験をクレードの組み合わせでみてみると、ベトナム株(クレード1.0)+インドネシア株(クレード2.1)に対して、ベトナム株(クレード1.0)+安徽株(クレード2.3)の方は免疫応答が劣っているように見える。クレードの相違が交叉免疫にどのような影響を与えるのか、さらにはどの組み合わせなら期待する交叉免疫性を獲得できるのか、今後の検討が必要だろう。

 なお、世界保健機関(WHO)が最近発表した論文(Weekly epidemiological record、No.9,2009,84,65-76)によると、H5N1ウイルスはクレード9まで確認されている。このうち、クレード1、2.1、2.2、2.3.2、2.3.4のグループと7のいくつかのH5N1ウイルスは、抗原的にも遺伝的にも異なった種類であることが示されたという。クレード7のH5N1ウイルスは現在、アジアで鳥から検出されている。

 いずれにせよ、今回の3試験を通じて、医療関係者や検疫の担当官ら6000人がH5N1のバージンワクチンを受けたことにはなる。クレード2.1、2.3と抗原的にも遺伝的にも同様の種類のH5N1ウイルスが新型インフルエンザウイルスとして出現した場合は、備蓄している流行前ワクチンを追加接種する効果は、ある程度期待できるのだろう。ただし、クレード7など、抗原的にも遺伝的にも異なった種類のH5N1ウイルスの場合は、現時点でその効果は不透明としかいえない。