H5N1型新型インフルエンザに備えるための流行前ワクチン、いわゆるプレパンデミックワクチンの今後に影響を与える研究成果が4月6日、公表された。試験は、6000人規模で実施した「安全性試験」、200人を対象にした「初回接種試験」、さらに免疫的に初期済みの200人を対象にした「追加接種試験」の3つ。安全面では副反応は予測された範囲内だったが、対策面で期待された交叉免疫については、初回接種で「不十分」、追加接種で「示唆」という結果だった。

 安全性試験は、インドネシア株(クレード2.1)を接種した2726人、安徽(アンフィ)株(クレード2.3)を接種した2835人を対象に行われた。その結果、予測された局所副反応や全身性副反応は、種類および頻度とも、ベトナム株(クレード1.0)の治験時に得られた結果と同等だった。また、0.1%以上の確率で出現する新たな副反応は認められなかったという。

 結果をみると、重篤な有害事象(入院)は、インドネシア株を接種した2726人で4人(0.15%)、安徽株を接種した2835人で4人(0.14%)に確認された。

 たとえば、インドネシア株(ビケン)では、入院理由は、発熱・喘息(27歳男性、気管支喘息の既往歴)、痙攣・心室細動(50歳男性、既往歴なし)、腸炎(45歳男性、既往歴なし)、腹痛(21歳女性、既往歴なし)だった。それぞれ、ワクチン接種の1回目から9時間、9日後、約10時間、ワクチン接種2回目から24時間後に発現・継続していた。

 一方の安徽株(北研)では、四肢末梢のしびれ感・薬剤アレルギーの疑い(40歳男性、既往歴なし)、両側尿路結石(32歳男性、右腎結石の既往歴)、静脈洞血栓症(28歳女性、アトピー性皮膚炎の既往歴)、意識消失・急性硬膜外血腫・急性くも膜下出血(58歳男性、既往歴なし)だった。それぞれ、ワクチン接種の1回目から4時間、7日後、2回目から12日後、26日後に発現・継続していた。

 こうした入院の発生率は、追加調査の結果、接種していない医療関係者の場合と大きな違いはなかったという。

 予測された局所副反応や全身性副反応は、ベトナム株の治験時に得られた結果と同等で、また、0.1%以上の確率で出現する新たな副反応は認められなかったことから、研究グループでは安全性は確認できたとしている。

 ただし、ギラン・バレー症候群については、「300万人規模で接種しないと証明は不可能」との指摘もあり、接種規模の拡大を検討する上での大きな課題のままだ。

交叉免疫は、初回接種では「不十分」

 今回の研究のポイントは、安全性の評価が大きな目的だった。同時に、効果の面で「交叉免疫性」を確認することも重要なポイントだった。交叉免疫性とは、一つのウイルス株の接種で誘導した免疫反応が、クレードの異なる他のウイルス株に対しても中和活性を示すことだ。

 まず初回接種試験だが、これまでH5N1型ウイルスに出会ったことのない免疫学的にバージンな集団を対象に行われた。バージンワクチン試験ともいえるものだが、インドネシア株ウイルス接種群100人、安徽株ウイルス接種群100人の計200人に対して、それぞれ試験薬0.5mLを上腕三角筋に3週間±7日間の間隔を置いて2回筋肉内接種した。

 その結果、インドネシア株で初回接種した群では、2回目の接種後21日時点で、インドネシア株に対する中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)は74.0%の人に確認された(表1の上段)。ただし、他のウイルスであるベトナム株、安徽株に対する中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)は、それぞれ7.0%、49.0%に過ぎなかった。なお、インドネシア株ワクチンの第I相試験(筋肉注射、2回接種後)では、中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)は95%だったが、これに比べると今回の74.0%という数字は若干低いという印象だ。

表1 初回接種試験の結果(中和抗体価)
試験薬である初回ワクチンの接種によりどれだけ中和抗体価が陽転したかを示す。⇒の前の数字は、それぞれのウイルス株に対する陽転率を示す。

 同様に、もう1つの安徽株で初回接種した群では、2回目の接種後21日時点で、安徽株に対する中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)は77.0%の人に確認された。しかし、他のベトナム株、インドネシア株に対する中和抗体価の陽転率(40倍以上かつ変化率4倍以上)は、それぞれ0.0%、3.0%に過ぎなかった(表1の下段)。

 初回接種の交叉免疫については、マウスの実験では認められていたが、今回のヒトの試験では確認できなかったことになる。このことはプレパンデミックワクチンの政策上、大きな意味を持つ。初回接種に使うワクチン株は、新型インフルエンザの株に限りなく近い株でなければ効果を期待できないからだ。

 なお、初回接種による安全性の面は、ベトナム株の治験時と同じ副反応に留まっていたという。