発生段階別に展開される医療体制をみると、「入院勧告措置解除」の前後で大きく切り替わることが分かる。いわゆる「封じ込め」から「被害の最小化」に対策の重点が移るためだ。発熱外来もこの前後で性格が変わり、あわせて入院の目的も変更となる。患者の視点で見るなら、まず「発熱相談センター」へのアクセスが第一歩となるが、その後の医療体制は段階によって様変わりすることを今のうちから理解しておくべきだ。

 医療体制は、大きく3つの機能に分かれる。発熱相談センターと発熱外来、そして入院医療機関だ(図1)。

図1 発生段階別に展開される医療体制(改訂行動計画、防衛医科大学校内科学講座2感染症教授の川名明彦氏の講演等より作成)

 発熱相談センターは、第1段階(海外発生期)から登場する。各都道府県の保健所に整備されるもので、患者にとっての最初のアクセス先になることを期待されている。役割は重要でかつ、第3段階の終了まで長期にわたっての活躍が求められている。

 発熱外来は、発生の段階に応じて、役割と形態が大きく変化する。第2段階(国内発生早期)になってから、主として感染症指定医療機関等に併設する方向にある発熱外来は、「新型インフルエンザの患者とそれ以外の患者を振り分けること」が目的となる。感染が疑われる患者は、入院措置の対象となり、感染症指定医療機関等に入院し、検査や治療観察を受けることになる。

 ただし、この段階での発熱外来には、疑問の声も根強い。その理由の最たるものは、発熱だけで一カ所に集約するということは、新型インフルエンザによる発熱患者とそれ以外の疾患による発熱患者を同じ空間に集めてしまうことになりかねず、その結果、発熱外来を通して感染が広がっていく危険性が高いというものだ。

 発熱外来のもともとの発想は、2003年に発生したSARS対策にある。図2をご覧いただきたい。発病以降、どれぐらいの期間、ウイルスを排泄し続けるのかを、通常のインフルエンザとSARSの場合で比べたものだ。

 一目瞭然だが、SARSではウイルス排泄量のピークは発熱後10日目ごろにピークがきている。このため、発熱後速やかに感染者を発見することは、ウイルスの排泄量の少ない段階での把握につながり、感染拡大を防止する決め手ともなった。事実、ベトナムなどでは、発熱外来の設置が感染拡大防止に功を奏したと評価されている。

図2 SARSとインフルエンザのウイルス排泄量の推移(防衛医科大学校内科学講座2感染症教授の川名明彦氏の講演より作成)

 では、新型インフルエンザの場合はどうか。新型もまたインフルエンザの1種ということで、図は通常のインフルエンザを例に挙げているが、発熱時にはすでにウイルスの排泄量がかなりの量に上っていることが分かる。これでは、SARSのときのような効果は期待できず、かえって発熱というだけで集まってくる新型インフルエンザ感染者ではない人に、感染が拡大していってしまうのではないかという懸念があるのだ。

 この懸念を払拭する決め手は、発熱外来の前方で活躍する発熱相談センターにゆだねられている。国内発生早期では、新型インフルエンザ感染者の迅速な疫学調査が可能で、疑い例の発熱なのか、それ以外の発熱なのかは、疫学調査の結果に照らせばかなりの確度で把握できるとの見方だ。

 迅速な疫学調査と発熱相談センターとの連携で、かなり絞りこんだ感染疑い例を発熱外来に集約できれば、感染拡大防止の効果は期待できるのだろう。前提としては、一般市民の理解と協力が欠かせないことは言うまでもない。

入院勧告措置の解除後に来る医療体制の大転換

 残念ながら、「発生患者の接触歴が疫学調査で追えなくなった時点」を迎えると、第3段階(感染拡大期、まん延期、回復期)に突入する。発熱相談センターと発熱外来、感染症指定医療機関等のコンビネーションは、第3段階の感染拡大期まで続けられる。その先はまん延期だが、前回みたように、この転換点は「入院措置を続けていても市中での感染拡大を防ぐことができない」と判断した時点となる。この判断は各都道府県が下すことになる。

 ここにいたっては、第2段階(国内発生早期)から続けていた入院措置は解除となる。医療体制にとっては、大転換を迎える。これまで感染症指定医療機関等にゆだねられていた入院治療は、原則としてすべての入院医療機関に広がる。発熱外来も、新型インフルエンザの感染疑い例を把握するのではなく、感染者のうち軽症者と重症者を振り分けることに重点が移る。このため、「形態も地域の特性に応じて柔軟に対応する」となっている。

 もうひとつ大事な点は、発熱外来に患者を集中させることで、通常の診療を続ける医療機関の外来がパンクするのを防ぐ意味合いもある。ここでも、発熱相談センターが「患者の第一歩」の受け皿となり、患者の流れが混乱しないよう導線を保つ機能が求められる。

 患者の視点で見るなら、発熱があった場合、まずは発熱相談センターに電話で相談し、行動のアドバイスを受け取るべきだ。そして、発熱外来に行った場合、重症であれば入院、軽症であれば在宅療養に振り分けられる意味を、今から覚悟しておきたい。