個人防護具(PPE)の備蓄には、300床規模の病院で5500万円以上の費用が必要との試算が示された。新型インフルエンザが発生した場合に医療従事者の感染防御の柱となるPPEだが、その備蓄量、あるいは費用などについては参考データが少ないのが現状だ。今回示された試算は、各病院が検討する際の重要な資料になるに違いない。2月に開かれた日本環境感染症学会で、慶応大薬学部実務薬学講座の橋倉万由子氏らが報告した。

 演者らはまず、国内外の感染症関連のガイドラインを調査し、新型インフルエンザの推定流行期間、医療従事者の感染リスク分類、感染リスク別に必要なPPEの種類と量に関するデータを抽出した。

 その結果、各種のガイドラインの多くは、推定流行期間を最低8週間を想定しており、最低でもこの8週分のPPE備蓄が必要であることが分かった。たとえば、カナダは6〜8週、フランスは8〜12週、ギリシアが6〜8週、米も6〜8週などとなっていた。もちろん、これは第1波を想定したもので、当面備えが必要な期間となる。

 感染リスク分類は、患者との接触リスクに応じて「高」「中」「低」と3分類とした。「高」は、気管内挿管、気管切開、吸引などの処置にあたる医師や看護師が対象となる。また、感染患者のレントゲン撮影などを行う診療放射線技師も「高」に含まれる。「発熱外来」で業務にあたる医師や看護師も同様だ。

 「中」には、入院患者の経過観察等を行う医師や看護師のほか、受付の職員、発熱外来などの清掃員も含まれる。「低」は、感染患者の診療には直接関与しない医療従事者らとなる。

 次に感染リスク別に必要なPPEの種類と量を分析したところ、感染リスク「高」では、N95マスク(換気バルブ付き)、ゴーグル、プラスチックガウン、ニトリル手袋(2枚重ね)となった。量はそれぞれ4セット(米厚生省)となった。手袋については、高リスクの医師が治療可能な患者数は、5〜10人/日との報告があるため、必要となる備蓄量は20手袋/人/日となった。

 同じく「中」は、N95マスク、ゴーグル、プラスチックガウン、ニトリル手袋(2枚重ね)でそれぞれ2セット。「低」は、サージカルマスク、プラスチックガウン、ニトリル手袋となった。量は2セット。

 これらの結果に基づいて、医療従事者の職種ごとに1日に必要とされるPPEをまとめたところ、表1のような結果となった。外来患者や入院患者の項目も設けられているが、患者のマスク着用も新型インフルエンザの感染拡大阻止に寄与すると考えられているからだ。具体的には、外来患者は1サージカルマスク/人/日となり、入院患者は直接患者と接触しない職員と同様、2サージカルマスク/人/日となった(表1)。

表1 医療従事者の職種ごとに1日に必要とされるPPE(スリーエムの資料を一部改訂)

表2 最低8週間という流行期間に必要となるPPEの種類と量(300床の病院の場合、スリーエムの資料を一部改訂)

表3 必要となるPPEの備蓄費用(スリーエムの資料を一部改訂)

 演者らは最後に、最低8週間という流行期間に必要となるPPEの種類ごとの量とそれらを備蓄するための費用を試算した。その結果が表2、3だが、総額で5534万2000円となった。

 今回の結果をもとに演者らは、「パンデミックに備えたPPEの確保は、医療経済面でも重大な課題であることが示された」と結論した。その上で、各病院がPPEの備蓄を検討する際の参考資料になることを期待していた。

 なお、今回の研究は大磯フォーラムの研究費補助金に基づく研究成果である。