発熱外来での利用を想定しているクリーンブース「バリフロー」(仙台市内のある病院で撮影)

 高砂熱学工業と国立病院機構仙台医療センターは共同で、気流を制御することで感染防御を実現したクリーンブースバリフロー」(写真)を開発し、このほど製品化にこぎつけた。新型インフルエンザ対策の柱の1つである発熱外来での利用を想定している。

 開発に携わった仙台医療センターウイルスセンター長の西村秀一氏(写真)は、「発熱外来というと個人防護具を身にまとった“フル装備”での診察を想起させるが、頭の先からつま先までの全身を包まれたような状態を強いられるのは、長時間の診療を考えると医師の立場からみるとあまりにも過酷だ」と指摘する。特に「地域医療の最前線にある開業医の先生方に、発熱外来への理解が広がらない原因の1つ」との認識も示す。

 こうした問題意識から、個人防護具と同レベルの「安全と安心」を実現しつつ、日常の診察装備レベルで発熱外来にあたれる装置の開発に取り組んできた。

仙台医療センターウイルスセンター長の西村秀一氏

 当初は温度と湿度の制御で、診察室ごと感染フリーにすることも検討したという。しかし、それはある程度の時間、空気中を浮遊するウイルス粒子を吸い込むことによる感染に対しては有効であっても、くしゃみや咳と一緒に口元から勢い良く出すエアロゾルを介した瞬時の感染には役立たないと考えられた(図1)。これは主に、患者が必ずマスクをはずすことになる「検体採取」の際に深刻な問題となる。

 こうした「瞬時感染」(西村氏)を防ぐために検討したのが、気流の制御だった。生命工学などの実験室では、環境微生物の混入(コンタミネーション)を避けながら作業を行うための装置としてクリーンベンチが使われている。いっそのこと診察ブースをまるごとクリーンベンチ化して、その中に医師が入って診察すればどうかという発想だった。

図1 ヒトの咳で飛び出したエアロゾルは0.1秒後には口から30cm以上前方まで到達。これを吸い込むことで感染する。

図2 クリーンブース「バリフロー」の模式図

 試行錯誤の末、昨年秋口には試作品が完成した。模式図(図2)にあるように、医師は、背後から気流(初期風量26/32m3/分)が流れる診察ブースで診療にあたる。

 気流は、医師と患者との間に垂れ下げた透明なカーテンによって整流され、ちょうど医師の頭部から顔、胸、腹部へと小さな滝のように流れる。このため、患者がくしゃみや咳をしても、そのしぶきは、医師との間にあるカーテンでさえぎられるほか、さらに「気流の滝」によっても医師への接近が妨げられる格好となる(図3)。なおカーテンは、クリアな視野を確保し診察が普通にできるよう工夫している。

 カーテンと気流の滝という二重の壁で「瞬時感染」の遮断に成功したわけで、「このブースを使えば、防護具フル装備による窮屈な診療は避けられる」(西村氏)のだ。

図3 くしゃみや咳による「瞬時感染」を、カーテンと気流の滝という二重の壁で遮断する

 高砂熱学工業の設計課担当課長の阪田総一郎氏は、「診察空間をブース化することで、清浄空気域を確保することが可能になった。また、HEPAフィルタによる高速循環ろ過が行われるので診察室全体の清浄化も実現、他の医療関係者の感染リスクを低減することも可能になった」と特徴を挙げている。

 また、患者との間にあるカーテンは簡単にたくし上げることができ、気流の乱れを最小限に抑えた上で、インフルエンザ診断キットによる検体採取や聴診器の使用など、様々な診療行為も可能になった(図4)。

図4 カーテンをたくし上げ、気流の乱れを最小限に抑えた上で様々な診療行為も可能(仙台市内のある病院で撮影)

 阪田氏によれば、当面は注文を受けてからの製造となるが、大量生産も可能とし、各都道府県で検討が進んでいる発熱外来への導入を提案したいとしている。

 基本仕様は、電源が単相100V(50/60Hz、295/455w)、初期風量が26/32m3/分、サイズが幅1080mm、奥行き1461mm、高さ1940mm(保管時:幅1080mm、奥行き660mm、高さ1970mm)、重量約107kg、騒音60dB(A、50Hz運転時)など。