東京都健康安全研究センター所長の前田秀雄氏

 昨年12月に開かれた厚生労働省の新型インフルエンザ専門家会議でのこと。委員の一人、東京都健康安全研究センター所長の前田秀雄氏(写真)は現行のサーベイランスシステムが抱える問題点を指摘し、早急な改善を求めた。各地の保健所では、季節性インフルエンザの定点報告を集約し、専用ネットワークを通じて登録業務を行っているが、その際タイムアウトしてしまうことが多々あるという。新型インフルエンザが発生した場合は、現状のシステムを前提にサーベイランスが行われる。そのときタイムアウトが多発していたら、「致命的な事態に陥る」(前田氏)のは明白だ。

 2月。新宿にある東京都健康安全研究センターで、前田氏にあの発言の真意を聞いた。

 新型インフルエンザ対策の重要な位置を占める「サーベイランス等ガイドライン(案)」をみると、新型発生時には、現状の季節性インフルエンザで使っているサーベイランスの仕組みをベースにすることになっている。前田氏は改めて、現状の仕組みが抱えている不備を指摘した。

疫学情報室長の神谷信行氏

 同センター疫学情報室長の神谷信行氏(写真)の解説によると、季節性インフルエンザの定点報告の流れはこうだ。定点医療機関からの症例データは、ファクスで管轄の保健所に送られる。保健所では、週単位でデータをまとめ、「感染症発生動向調査システム」のサーバーに登録する。たとえば2009年8週(2月16日〜2月22日)の場合、定点医療機関からデータを受け取った保健所は、23日から24日、都道府県によっては25日午前中ぐらいまでに登録業務を終えることになる。

 登録の際に使っているのが、LGWANという統合行政ネットワーク。地方公共団体を相互に接続する行政専用のネットワークで、各省庁のLAN(ローカルエリアネットワーク)を結びつける府庁間WAN(ワイドエリアネットワーク)とも相互接続されている。

 2006年4月から、感染症発生動向調査システムは、このLGWANを利用したものに切り替わった。

 だが、登録件数が増える流行期に、特に問題が頻発するようになったという。保健所でデータを登録している際にタイムアウトしてしまい、業務が滞ってしまうのだ。

 タイムアウトの問題については、地方衛生研究所側から、これまでも繰り返し厚生労働省に対し改善を申し入れてきた。しかし、いまだにタイムアウトはなくならない。

 タイムアウトの原因は、LGWANの回線の細さにありそうなのだが、管轄する総務省は「十分な回線容量を持っている」との認識にある。

 前田氏は、「この問題を放置しておくと、とんでもないことになる」と警告する。「新型インフルエンザの流行の際に、せっかく医療機関から報告してもらった情報が、保健所で止まってしまう危険性が高い。都道府県あるいは地域衛生研究所などは、現場からあがってくる情報に基づいて対策実行の判断を下すことになるのに、それが不可能になる」。

 神谷氏もこう続ける。「新型が発生したら、(改善がなければ)LGWANではなく、東京都の独自のシステムで対応せざるを得なくなるのではないか」。

 専門家会議の席上、前田氏の指摘に対し厚生労働省は、「問題点を認識し、他省庁と協議したい」などと回答していた。スピード感のある対応は必要なことは言うまでもない。