「マニュアルは出発点」と話す長谷川氏

 名古屋大学医学部付属病院松尾清一病院長)は1月、「新型インフルエンザ対策マニュアルVer.1」をまとめた。病院機能を維持するための対策も盛り込まれており、職員用にリレンザ2000人分を備蓄するなどすでに具体化したものもある。作成責任者である名大呼吸器内科学教授の長谷川好規氏(写真)は、「全国の大学病院に先駆けて形にしたもので、今後、それぞれの大学病院が自らの役割を明確化する上で参考資料となるはず」と話す。地域医療の中核的な存在でもある国立大学病院が、いよいよ動き出した。

 名大病院は、国立大学附属病院長会議(委員長;千葉大学医学部附属病院長の河野陽一氏)に設置されている感染対策協議会の事務局を担っている。新型インフルエンザ対策において意識が高いのは言うまでもない。病院長の松尾清一氏はことあるごとに、「大学病院間ではパンデミック・インフルエンザが起こったときの対策も十分に検討している」などと発言。けん引役を果たそうとする強い意志を表明している。

 組織のトップの思いは、病院全体に行き渡る。病院長の補佐であり、病院内の感染症対策委員会の委員長でもある長谷川氏は、「院長のリーダーシップがあるからこそ、病院全体の対策が進む」と話す。

 その長谷川氏に、マニュアルの作成に当たってもっとも苦労した点を尋ねた。返答はこうだ。「新型インフルエンザ対策として、1つの医療機関にできることは限られている。地域として立ち向かわなければならないのだが、その中で大学病院ができることを想定すること自体が大変な作業だった」。

 名大病院は、感染症指定医療機関ではない。国の行動計画に照らすなら、まん延期(パンデミック時、フェーズ6B)に対応する医療機関となる。この段階に至ると、感染症指定病院に限らず、すべての医療機関が新型インフルエンザの診療に打って出ることになる。

 名大病院としては、有熱者のための外来を設置し、入院治療が必要な患者は、新型インフルエンザ(疑い)専用病棟で対応する方針だ。病棟は現在の講堂を充てることにしている。ピーク時には100人まで対応可能な体制をとる(文末の表1参照)。

「大学病院が持ちこたえられるかどうかは、地域の医療体制に左右されうる」と指摘する八木氏

 長谷川氏とともに新型対策の立案に携わる中央感染制御部准教授の八木哲也氏(写真)は現在、患者発生のシミュレーションに取り組んでいる。パンデミック時に対応する名大病院に、どのぐらいの患者が押し寄せるのかを想定しない限り、限られた資源の中で有効な診療体制を組むことはできないからだ。しかし、その数字をはじき出すのが、なかなかに難しい。

 名大病院が引きうけられる患者数には限りがある。「病院として医療体制を維持し続けることが使命だが、持ちこたえられるかどうかは、地域の医療体制に左右されうる」(八木氏)のだ。

 今回作成したマニュアルは、名大病院の地域への意思表示との側面もある。長谷川氏、八木氏ともに、マニュアルはきっかけに過ぎないと話す。「私たちはいつも言っていることですが、ここが出発点なのです」(長谷川氏)。

 マニュアルについては、3月までに院内全職員を対象とした説明会を開催する予定だ。来年度には、パンデミック時の訓練の実施も見込んでいる。また、院外に向けては、地域の大学病院や名古屋市などとの協議会も計画している。「一般市民の理解も欠かせないので、新型インフルエンザの啓蒙活動ももちろんだが、実際の対策についての説明会などにも取り組んでいきたい」(長谷川氏)。新型インフルエンザ対策をテーマとした地域カンファランスの開催も、実現したいとしている。

 なお、名大マニュアルについては、国立大学附属病院長会議の感染対策協議会メンバーに提示ずみ。千葉大学病院も同様のマニュアルを作成、名大マニュアルとともに提案されている。感染対策協議会では今年の6月をめどに、それぞれの大学病院の対策の進捗状況を確認し合うことにしている。地域医療の特徴を反映した新型インフルエンザ対策のマニュアルが出揃うことを期待したい。

表1 各フェーズごとの名大病院の対応

フェーズ3A(現状)、3B
「鳥インフルエンザ疑い患者対応マニュアル」に基づき行動する。
新型インフルエンザ発生に備え、以下のように対応する。
・新型インフルエンザ対策WGを設置する。
・ 「名古屋大学医学部附属病院新型インフルエンザ対策マニュアル」を策定する。
・ 新型インフルエンザについてのリスクを共有し、感染予防策などの周知を図る。
・ 疑い患者を診療した際には、原則として速やかに愛知県内感染症指定医療機関へ移送する。
<備蓄>
世界的大流行により、流通が止まるおそれもあるため、新型インフルエンザ発生に備え、対策物品の備蓄を開始する。
(1)N95マスク
通常の使用量に比し、必要数量が極めて増大するため、備蓄が必要である。使用者は、診療に従事する者とする。
(2)新型インフルエンザ予防薬(リレンザを中心に)
当院の病院機能の維持を目的とする。診療に従事する職員への予防投与および曝露対策のため使用する。なお、患者用治療薬は、地方自治体の備蓄から供給される。
(3)入院対応用簡易ベッド
入院対応施設(講堂)において使用する簡易ベッドであり、患者用に使用する。

フェーズ4A、5A、6A (海外発生期)
疑い患者をトリアージし、適切に愛知県感染症指定医療機関に搬送する。
・外来受診患者のトリアージためのテントを正面玄関横に設置する。雨天等の場合には、外来駐車場1階の一部をトリアージ外来にあてることも考慮する。
・ フェーズ4Aで「フェーズ6Bにおける有熱者のための外来」の設置を開始する(2号館前に、テントを2−3基)。
・ 患者からの電話問い合わせは、終日テープ対応にして、原則自治体の設置する相談窓口へ案内する。
・ プレパンデミックワクチン接種の準備を行い、また接種を遂行する。

フェーズ4B、5B(国内発生期)
・ 名古屋大学病院は発熱外来を設置しない。また新型インフルエンザ疑いの患者が来院、もしくは院内発生した場合には、速やかに感染症指定医療機関に搬送入院させる。
・ 当院で新型インフルエンザ疑い患者が発生し、診療する必要がある場合は3W病棟に収容する。主科とICTメンバーを含む診療対策チームを編成し、任命する。

(フェーズ4Bでの対応)
・ 4Bでは数パーセント(学校や保育所などが休校、休園に伴い欠勤者が出始める)、5Bでは20%(職員とその家族が感染、休校や休園に伴い就労継続困難になる)の欠勤者が出ると想定される。状況によって本部長である病院長の判断で診療体制を休日対応にする可能性がある。
・ 電話での問い合わせは終日テープ対応とする。
・ フェーズ6Bでの入院対応施設(講堂)を確保する。

(フェーズ5Bでは、さらに以下の対応を追加)
〔外来〕
・ 慢性疾患のフォローアップや待機的医療(外科手術や内科的検査)外来受診は延期する。
・ (上記のための)電話サポート体制などを整備する。
〔入院〕
・ 待機的検査入院、待機的手術を控える。
・ パンデミック期(フェーズ6B)での病棟、診療の体制を事前に明らかにする。
・ 原則として新型インフルエンザを診療する医療従事者は、他の新型インフルエンザ以外の患者の診療を行わない。

フェーズ6B(パンデミック期)
・ 有熱者のための外来開設。発熱患者を誘導する。患者数に応じテントを追加設置する。
・ 有熱外来患者のうち新型インフルエンザ(疑い)で重症者は、新型インフルエンザ専用病棟(講堂)に入院させ、軽症者は原則として帰宅させる。

(有熱者のための外来及び講堂での入院治療を行う者)
本部は、新型インフルエンザの診療において中心的に活動する「トリアージ班」および「治療班」の結成を指示し、その編成を明らかにする。
 トリアージ班班員:救急部・集中治療部・総合診療部の医師、看護師、事務職員
 治療班班員:救急部・集中治療部・総合診療部及び内科全科の医師、小児科の医師、老年科の医師、看護師
 医師については、上記の部・科の長が班員を指名する。
 看護師については、看護部長が指名する。
 事務職員については、各課の長が推薦し、事務部長が指名する。

<人員配置案>
※医師:有熱者のための外来は3交代制(3名勤務)
 内科医が外来を担当(但し、救急外来は除く)
 入院は2交代制(日勤4名、夜勤4名)
※看護部:2交代制(日勤10人、夜勤10人)
 15日間(5日間勤務、5日間待機、5日間休暇)
 4〜6回転で2カ月間継続(終息期まで)