林﨑良英氏らの研究グループ(正面真ん中が林﨑氏。左から2人目がSMAP法開発リーダーのAlexander Lezhava氏)

 外来初診において、インフルエンザウイルスのタミフル耐性を30分ほどで診断できる検査キットの開発が進んでいる。スマップ(SMAP;Smart Amplification Process)法という新たな遺伝子検査技術を応用したもので、理化学研究所オミックス基盤研究領域の林﨑良英氏らのグループが取り組んでいる。今シーズンの流行で、日本でも検出されているタミフル耐性Aソ連型(H1N1)ウイルスも診断できるもので、成果の一部は、2008年12月に開催された第31回日本分子生物学会で報告している。

 SMAP法とは、血液一滴以下(数μL)程度の検体を前処理試薬と混合し加熱処理した後、そのまま増幅試薬に添加し、60度で反応させることで、簡便かつ迅速に特定の遺伝子を診断する方法(一塩基多型;SNPも判定可能。表1参照)。

 これまでに、株式会社ダナフォームを通じて、研究用遺伝子検査試薬キットとして、肥満遺伝子診断試薬、抗癌剤(ゲフィチニブ)について効果と副作用の可能性を診断するEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異検出試薬、アルコール感受性などの体質に関わる遺伝子(ALDH2)のSNPタイピング試薬などの販売を実現している。

 タミフル耐性診断キットでは、耐性マーカーであるH274Y、R292、N294Sなどに着目。SMAP法を応用し、それぞれのマーカー特異的な遺伝子配列が存在した場合に、遺伝子の増幅反応が起こるように設定した。咽頭や鼻腔から採取した検体を用い、簡便な前処理をした後で反応液に加え等温(60度)で増幅させる。既存のリアルタイムPCR装置をそのまま利用できるため、PCR装置にて耐性マーカー遺伝子の増幅が確認できる。

 現在、東京大学医科学研究所の河岡義裕氏らと共同研究を行っており、医療機関の協力を得て昨シーズンにさかのぼってインフルエンザ流行株の検体を収集し、タミフル耐性診断キットの評価に取り組んでいる段階だ。H274Y(H1N1型)については、1時間以内での診断が実現できており、耐性ウイルスの診断においてもSMAP法の有用性が確認されている。

 並行して、PCR装置を使わないで増幅を可視化する技術開発も進めており、「近いうちに、専門的な大病院だけでなく、最前線の診療所などでも手軽に使える診断キットにしていきたい」(林﨑氏)と話している。

表1 SMAP法の特徴

(1) 短時間で診断
 DNA増幅法の致命的な欠点であるバックグラウンド増幅を完全に抑制し、DNA増幅そのものがSNPのシグナルであるという基本原理の応用を実現した。独自に開発した新型酵素が細胞懸濁液に阻害効果を受けないためDNAを精製する必要はない。さらに、高いDNA合成能力を持つため、採血後30分以内という短時間で診断結果を得ることが可能となった。従来は診断時間として半日以上必要としていた。
(2) さまざまな遺伝子診断にも応用可能
 DNA伸長に欠かせないプライマーを変えるだけで、DNA上のすべての一塩基の違い(SNP)の検出が可能。
(3) 省エネ型技術
 等温(60度)増幅法であり、エネルギーを消費する冷却装置が要らない。将来的には、携帯電話接続型マイクロカードの作成も視野に入っている。
(4) 操作が簡便
 血液などからDNAを精製する必要はなく、直接2種類の試薬を混ぜるだけである。
(5) 精度が高い
 一塩基の違い(SNP)を正確に判定できる。
(6)サンプルは微量
 診断に必要な血液などの量は一滴以下(数μL程度)と微量で済む。
(7)研究支援
 プライマー設計ソフトを無料公開しており、研究目的のために、自由に利用することが可能。
(8)将来性
 きわめて少量の反応液で結果が出るため、将来は携帯電話もしくは携帯電話サイズの超小型で安価な装置で診断が可能に。