自治医大病院臨床感染症センター感染制御部長の森澤雄司氏

 自治医大病院では、新型インフルエンザ対策用に抗インフルエンザ薬の備蓄に着手した。国の進める備蓄とは別に、医療従事者を守るために、オセルタミビルザナミビルの両方を千単位で確保する。対策を主導する立場にある臨床感染症センター感染制御部長の森澤雄司氏(写真)は、「不対応病院」の選択も視野に入れてのことと説明する。大学病院の新型インフルエンザ対策の対応の先行例として、その動向が注目される。

 現在、新型インフルエンザ対策のガイドライン案は、パブリックコメントを求める段階にある(参考;パブリックコメント画面)。12月30日まで受け付けているが、読者の中にはすでにコメントを寄せられた人もいるに違いない。

 森澤氏が言及した「不対応病院」は、医療体制に関するガイドライン案の中に出てくる「新型インフルエンザの診療を原則行わない医療機関」のことを指す。新型インフルエンザ以外の疾患の患者に対する医療サービスを破綻させないために、都道府県は、新型インフルエンザ不対応病院を定めることができる。

 自治医大病院は、栃木県にあっては、地域での中核病院の一角であるばかりでなく、高度医療あるいは先進医療の受け皿としての機能を発揮している。日本全体でみると、全国の自治体に、医療の最前線で働く若い医師を供給する立場にもある。

 その自治医大病院が「不対応病院」を検討するのはそれなりの理由がある。森澤氏の説明を続けよう。

 理由の1つは、新型インフルエンザが大流行しパンデミック(感染爆発)になったら、たとえ自治医大病院であっても、パンデミック時の圧倒的な数の患者に対応しきれないという点だ。「パンデミックに挑む」で伝えてきた重要なポイントは、医療体制の破綻をどうやって防ぐか。新型インフルエンザ以外にも、治療の必要な患者は常に存在する。新型インフルエンザの患者に対応する一方で、それ以外の患者にどう対応するのか。

 「蔓延期になってしまったら、地域の医療機関が総出で新型インフルエンザに対応せざるを得ない。その一方で、新型インフルエンザ以外の患者さんにも対応せざるを得ない。地域の医療体制を破綻させないためにも、地域ごとに新型インフルエンザに対応する医療機関とそれ以外の疾患に対応する医療機関を決めなければならない」(森澤氏)。ガイドライン案に盛り込まれた新型インフルエンザ不対応病院の意義は大きいわけだが、実際にどの病院がその役割を担うかは、各都道府県に任されている。

 誤解があってはいけないが、自治医大病院が「不対応病院」を志向するということは即、新型インフルエンザ診療から手を引くということでは決してない。 

 森澤氏は続ける。「私見ながら、自治医大病院としては、栃木県内の新型インフルエンザに対応する医療機関に、応援に出向くことが使命だと考えている」。自治医大病院という「機関」としては不対応病院を目指すが、臨床感染症センターが持つ感染症対策の「機能」は、地域の医療体制の支えとして生かそうという発想だ。

 まだ流動的な面が少なくないのだが、森澤氏の掛け声もあって、地域として新型インフルエンザに対峙する体制整備にも動いている。栃木地域感染制御コンソーシアム TRICKを立ち上げ、地域の医療機関とともに、新型インフルエンザだけでなく、さまざまな感染症に対応するためのノウハウを互いに検討し情報を共有しあうネットワーク作りに着手した。

 森澤氏の言葉を借りるとこうなる。「普段から、さまざまな感染症対策に取り組む体制が整っていることが大切だ。新型インフルエンザだからなにか特別なことをするというプロセスではなく、常にすべての感染症に対応するシステムを身に着けていることが大事。まだ間に合う」。

(三和 護=日経メディカル別冊)