栃木県の佐野市医師会(秋山欣治会長)はこのほど、新型インフルエンザパンデミック時における治療方針を固めた。パンデミック時には抗インフルエンザ薬が枯渇する危険性が高いため、重症度に応じて、ザナミビル(商品名;リレンザ)とオセルタミビル(商品名;タミフル)を使い分けるとしたのが特徴だ。また、両者の併用は避けて、必要に応じ麻黄湯を補助剤として使用することも盛り込んだ(図1)。

図1 佐野市医師会が固めた新型インフルエンザのパンデミック時の治療方針

 佐野市医師会は、この春から医師会内の感染症対策委員会(坪水敏夫委員長)で新型インフルエンザ対策について議論を重ね、地域での行動目標を具体化しつつある。治療方針は、こうした議論から固まってきた。

 特徴的なのは、患者を軽症、中等症、重症の3段階に分けて、それぞれを担当する医療機関を定めるとともに、各段階での治療方針を示した点だ。また、パンデミック時には抗インフルエンザ薬が枯渇する危険性が高いことから、軽症ではリレンザ、中等症および重症ではタミフルと使い分けることを明示した。

 まず、起点となる発熱スクリーニング外来を設置。そこで、軽症、中等症、重症のトリアージを行う。

 トリアージ後、軽症例(気道感染が中心)には地域の開業医が治療に当たり、在宅での療養とする。在宅隔離という考え方を盛り込んだ対策で、治療にはリレンザを用い、20mg/日を10日間投与する(必要に応じ麻黄湯を補助剤として使用)。パンデミックの初期では、感染者との接触機会をいかに抑えるかが大きな課題となる。治療しながら在宅で療養し、開業医がフォローするという在宅治療は、初動対策として重要な役割を担うことになる。

 中等症例(全身症状があるが呼吸管理は不要)では、地域の協力病院が治療を担当する。全身症状があるため入院治療とし、タミフル(150mg/日)を10日間投与する(必要に応じ麻黄湯を補助剤として使用)。

 重症例(呼吸管理が必要)では、陰圧室での治療を前提とするため、感染症指定病院が担当する。治療には、タミフルと麻黄湯を使用し、全身症状をみながらステロイド薬による治療も考慮する。また、細菌性の二次的肺炎に対処するため広域抗菌薬の使用も盛り込んでいる。

 今後の課題としては、発熱スクリーニング外来の実際の運用、さらには、開業医と協力病院あるいは感染症指定病院との連携などが挙げられる。特にトリアージした後の対応、例えば軽症患者の症状が悪化した場合、または中等症の患者が重症化した場合の対処法については、開業医と協力病院、さらに感染症指定病院の間で議論を重ねていく予定だ。

感染症対策委員会副会長を務める佐野厚生総合病院副院長の山口佳寿博氏

 感染症対策委員会副会長を務める佐野厚生総合病院副院長の山口佳寿博氏(写真)は、今回の治療方針について、以下の5つのポイントを指摘した。

 1つ目は、耐性発現の可能性が低く、かつ気道からのウイルス侵入阻止効果が最も確実と考えられるリレンザを第1選択薬と定めた点だ。

 厚生労働省の新型インフルエンザ対策ガイドラインでは、第1選択薬をタミフルとし、リレンザはタミフル耐性の場合に限って使用するとしている。しかし、タミフル耐性が明らかになるまでの間に、耐性を前提としない初期治療が行われてしまう危険性がある。「耐性」を考慮し、リスク分散を図る意味から、リレンザを第1選択薬としたわけだ。なお、耐性については、2007/2008シーズンに流行したAソ連型インフルエンザウイルス(H1N1)に、高い割合でタミフル耐性ウイルスが見つかったことも考慮に入れている。

 2つ目は、予防と軽症の段階では、リレンザを第1選択薬とする点だ。「耐性」と「気道感染阻止」を重視したもので、実際の治療に携わる医療従事者が診療時に服用する予防投与、あるいは軽症患者への初期治療ではリレンザを使用する。

 3つ目は、治療が遅れウイルスが全身に広がった状態(ウイルス血症、中等症、重症)では、タミフルで治療すべきとした。気道感染時にはリレンザ、全身症状にはタミフルという使い分けで、抗インフルエンザ薬の枯渇をできるだけ回避しようとの考えが根底にある。

 4つ目のポイントは、抗インフルエンザ薬同士の併用、つまりリレンザとタミフルの併用はせず、必要に応じ麻黄湯を補助剤として使用すべきとした点。

 5つ目は、抗ウイルス薬の投与量は常用量とするが、投与期間は感染を完全に抑えることを考慮して2倍(10日間)に延長すべきとした点だ。確実に治療効果を挙げるための措置といえる。期間延長に伴い使用する抗インフルエンザ薬は、倍量必要となる。が、リレンザとタミフルを使い分けるを徹底することで、効率的に治療を行い、それぞれの量を確保するという考え方に拠っている。

 佐野市医師会の試みは、隣接する足利市医師会にも刺激を与えている。10月半ば、足利市医師会は学術集会の講師に前述の山口氏を招いた。講演のテーマは「流行を食い止める――地域医療にできること――」だった。地域医師会が主導する形で進む新型インフルエンザ対策の具体化は、点から線、そして面へと確実に広がっている。