手元に1通の手紙がある。「私は普通の主婦です。この2月に、夫の勤め先が新型インフルエンザが発生したときの対応病院であったことを知り情報を集め出しました。新型の候補になっているH5N1のヒト感染例では、若い世代の死亡率が高いことが分かりました。夫が罹患すれば家族も感染するかもしれません。わが家には小学生の子供がいます。この子をどうやって守ったらいいのか・・・」。その答えを見つけるために、「新型インフルエンザから子供を守る会」が立ちあがった。

 9月28日。茨城県の取手市文化福祉交流センターで、守る会と取手市医師会の共催による特別講演会が行われた。講師は、国立感染症研究所感染情報センターの岡部信彦氏。

 守る会としては初めての講演会で、できるだけ多くの一般市民に新型インフルエンザのことを知ってほしいとの思いから、教育委員会の協力を得て、各学校の生徒にチラシを配布した。その数は800枚ほどだったという。配布の甲斐あって、当日は日曜日にも関わらず200人を超える人が参加し、キャンセル待ちがでるほどの盛況だった。

会の代表である福島成雄さん

 会の代表である福島成雄さん(写真)は、塾の講師を職とする。新型インフルエンザについて勉強するにつれ、事の重大さを認識するようになったと話す。「大勢の子供たちが死んでしまうのです。どうやって守っていくのか。まず、新型インフルエンザのことを、市民レベルでよく理解することが大切だと思う。そして、新型インフルエンザの対策について、多くの人に伝えていかなければならない」。講演会に先立ち、あいさつに立った福島さんは、情報の共有が対策の第一歩であると訴えた。

 守る会が発足したのは7月。新型インフルエンザから子供たちを守るために、親として何ができるのか−−。この問いかけの答えを見つける活動に、1人、また1人と参加者が増えていった。現在、守谷市に10人、取手市に2人の会員がいる。

 活動の柱は、(1)情報の周知と共有、(2)抗ウイルス薬の備蓄の2つ。

 「市民自らが、新型インフルエンザから身を守る術を知る必要がある」との問題意識から、まず新型インフルエンザとは何かを理解し、その対策を学ぶ場を設けている。月1回の勉強会に加え、9月の講演会を皮切りに、10月にはマスクの装着と効果的な手洗いの講習会を、11月には、新型インフルエンザ発生時の地域の対策について、医師会新型インフルエンザ対策委員長に聞く会を予定している。

会場の入口では備蓄類の展示も行われた。守る会の活動の成果の一つだ。

 市民が動いて門戸をたたき、行政あるいは保健所、地元医師会がそれに呼応してと、新型インフルエンザに立向かうための知識を得る活動の輪が広がっている格好だ。 

 2つ目の活動では、人口当たり6割備蓄の実現を目指す。現在の茨城県の備蓄率は8.3%と心もとないからだ。子供たちにも行き渡る量を確保するには、せめて「人口当たり6割備蓄」が必要と訴え、市議会などへの働きかけをしている。

来賓のあいさつにたった取手市長の藤井信吾氏。市民とともに新型インフルエンザ対策を進めて行きたいと話す。

 守る会の発起人の一人である鈴木万紀子さんは、冒頭に紹介した手紙の中でこう記している。「新型インフルエンザは個人を超えて、国民全てが運命共同体として対応することが必要です。でも、先進国に比べて日本での危機意識の薄さや対策の立ち遅れを知り、愕然としています」。

 守る会としての活動は始まったばかり。だが、行政も保健所も地元医師会も、市民とともに新型インフルエンザ対策を考えていくべきという点では共通認識を持っている。セクションごとの取り組みはもちろん必要だが、実際の対策を考えた場合、こうした地域という面としての活動が必須になってこよう。その意味で、守る会の第一歩は、決して小さくはないはずだ。

(三和護=日経メディカル別冊)