北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教の和田耕治氏

 医療機関での新型インフルエンザ対策を考えるにあたり、新型インフルエンザ専門家会議が公表している「医療体制ガイドライン」と「医療施設等における感染対策ガイドライン」がまず参考になるだろう。しかし、これらのガイドラインでは、パンデミック期において医療機関が、どのようにして急激に増加する患者に対応し、感染拡大を抑えながら、限られた人員で事業を継続するかという点については十分に触れられていない。事業継続のあり方については、2008年7月末に改訂案が出された「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」が参考になる。一般企業を対象にしたものであるが、事業継続の考え方は医療機関にも適用できる。そのポイントを北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教の和田耕治氏に解説していただいた。

 本稿は、このガイドラインを医療機関で事業を継続するという点について検討する際に活用するきっかけを作っていただくことを目的としている。

 事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドラインのポイントは、感染予防策と事業継続計画(BCP;Business Continuity Plan)を共に進める点である。事業継続計画とは、本来脅威の種類を問わずに策定するものとされているが、わが国の企業では地震災害を主な対象に策定を進めている例が多い。しかしながら医療機関では、こうした事態においてどのように事業を継続するかということをあまり考えてこなかったように思う。

 事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドラインの第2章は、新型インフルエンザの説明や感染経路が示されている。この部分は、職員の新型インフルエンザに関する基礎知識の教育にも活用できる。

 事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドラインの第3章は、行動計画の立案として、(1)新型インフルエンザ対策体制の検討・確立、(2)感染予防策の検討、(3)新型インフルエンザを対象とした事業継続の検討、(4)教育・訓練、(5)点検・是正−−が示されている。この章では事業継続についてより詳細に説明されている。それぞれの項目について触れる。

(1) 対策を検討する体制については、「経営責任者が率先し、危機管理・労務・財務・広報などの責任者を交えて行うことが必要である」とされている。医療機関でも同様に院長や理事長が率先して対策を進めることにより、様々な部署で横断的な取り組みが可能になる。

(2) 感染予防策については、感染リスクが高いため臨床の場では医療施設等における感染対策ガイドラインを主に参照する。しかしながら、ガイドラインの3章にあるように、訪問者の立ち入り制限や検温、手洗い、訪問者の氏名や住所の把握も必要である。職場とともに家庭生活や通勤におけるリスクを下げることなども検討する。医療機関では、感染リスクの高い業務を中止にすることはできないかもしれないが、様々な対策によりリスクを低減させるためにできることがある。

(3) 新型インフルエンザによる社会への影響は、地理的にも広範囲に及び、時間的にも長期に及ぶ。それゆえ、医療機器や薬剤の販売業者や食事を提供する業者とも事業継続について話をする必要がある。

 パンデミック時には重要な業務を継続して行う必要がある。医療機関の中で流行時における重要業務を選定する。具体的には待機可能な手術の延期や、出産や透析など不可欠な医療サービスについては、自院で受け入れるか地域と連携して提供できるようにするかなどの仕組み作りが必要である。また、重要業務を行うためにどういう職種の人がどの程度必要かを算定する一方で、例えば従業員が40%が出勤できない状況で重要業務が提供できるかということについても検討しておく必要がある。

(4) 教育・訓練は、流行時の行動計画と、事業継続に必要な人員確保のために多くの従業員が複数の業務を実施することができるように行う。

(5) 点検・是正は、計画を立てたなら演習などを行うことで、常に更新して実効性のある計画にすることを目指すということである。

 第4章では実際に流行がおきた際の行動計画の実施についてのポイントが示されている。詳細についてはガイドラインを参照していただきたい。
 
 対策作りをはじめた医療機関も少しずつ増えてはきたが、こうした医療機関の事業継続の視点も含めて検討いただきたい。

(まとめ;三和護=日経メディカル別冊)