北里大学医学部衛生学公衆衛生学の和田耕治氏

 新型インフルエンザ対策は、どのように進めたらいいのか−−。今回は、北里大学医学部衛生学公衆衛生学和田耕治氏(写真)らがまとめた医療機関向けのチェックリストから、「パンデミック時に医療を継続するための体制作り」について紹介する。今回は、外部とのコミュニケーション体制、トリアージ、増加する医療ニーズに対応するための方針と地域との連携などがポイントとなる。

 和田氏らは、米国疾病管理予防センター(CDC)がまとめた医療機関向けのチェックリストを基に、日本の医療機関を想定したチェックリストを作成した。

 前回紹介した項目は表1の通り。今回はまず、外部の関係機関とのコミュニケーションについて取り上げた(表2)。ここでのポイントは、コミュニケーションをとるべき機関を具体化することと、相手方の担当者を明確化する点にある。また、院内の体制としては、広報担当者、情報伝達に関する責任者を決めることが第一歩となる。

表1 新型インフルエンザ対策計画の構成要素

 感染拡大を予防するために、職員や患者に情報提供する
 医療機関での感染予防策を徹底する
 医療機関内の患者や医療従事者の新型インフルエンザの感染サーベイランスを行う
 医療機関の職員の健康管理を行う
 流行時に極端に増加する医療機関への需要に対応する
 プレパンデミックワクチン、抗ウイルス剤に関する計画を行う

表2 外部とのコミュニケーションをとれる体制を作る

□ 新型インフルエンザ流行時に連絡が必要になる管轄の保健所などの相談窓口や報告先を特定する。(氏名、所属、連絡先を記入すること)
 保健所:氏名    所属      連絡先
 都道府県の新型インフルエンザ担当部局:氏名    所属      連絡先
□ 医療機関の広報担当者を決める(それぞれの第一責任者およびバックアップの氏名、所属、連絡先を記入すること)
 広報担当者
  第一責任者:氏名    所属      連絡先
  バックアップ:氏名    所属      連絡先
□ 流行時に連携が必要になる近隣の医療施設医療施設(例:ほかの病院、長期療養施設、診療所など)のリストを作成する。
□ 流行時の医療施設間の情報伝達に関する計画と責任者を決める。
□ 患者やその家族への情報伝達に関する計画と責任者を決める。
□ 情報を伝達する相手(例:患者や地域)と伝達手段(例:インターネット、新聞記事)を決める。

 次はトリアージと患者受け入れについて。国のガイドラインでは、国外あるいは都道府県外で新型インフルエンザの患者が確認された段階で、発熱外来や発熱相談センターなどが保健所ごとに設置される。和田氏は、患者の確認が公表された段階で、医療機関へも患者からの問い合わせが殺到するとみる。そのために、「流行時のトリアージと患者受け入れについて計画」を立てておくことが重要となる。

 和田氏はトリアージの場所について、「広い場所が必要。飛沫感染予防のためにお互いが一定の距離(約2m)を保てる広さが求められる」と指摘する。また、「ドライブスルーの方式で対応することも有効」とみるが、自家用車を持たない人への対応が大きな課題となる点も忘れてはならないという。

 受け入れについては、実行可能な計画を持っておく必要がある。中には「入院を必要とする患者の選別基準」「新規患者の受け入れの停止とほかの施設への紹介を行う基準」など、自院だけでは対応が難しい点もある。関係者らとの議論を前提に、可能な限りほかの医療機関と共有できる基準としておきたい。

表3 流行時のトリアージと患者受け入れについて計画する

□ 新型インフルエンザ感染が疑われる患者のトリアージの場所を確保し、飛沫感染予防のために患者と一定の距離を取れるようにする。
□ 電話によるトリアージ・システムを作る。
□ 医療機関に入院を必要とする患者を選別する基準を作る。
□ 新規患者の受け入れの停止とほかの施設への紹介を行う基準と手順を定める。
□ 新型インフルエンザ感染が疑われる患者の搬送に関して救急隊と連携する。
□ 入院中の家族の面会や訪問者の制限について規則を定め、周知する。
□ 行政との連携により新型インフルエンザ患者の受け入れにより病院が隔離された場合に、その隔離の施行と、必要物資や備品、必需品の輸送および供給とを確実にする計画を定める。

 表4に挙がった項目は、新型インフルエンザの流行期(パンデミック)での対応となる。殺到する新型インフルエンザの患者に対応する間にも、インフルエンザ以外の患者に対応しなければならない。新型インフルエンザ以外の患者の治療方針、あるいは、入院や待機手術の延期を判断する基準、医療資源の配分などについては、幅広い議論が求められる。

 特に和田氏は、限りある医療資源の配分については今から、一般市民を交えた議論をしておくべきだと主張する。たとえば、パンデミック時には、人工呼吸器をどの患者に優先的に使うのかといった倫理的にも難しい判断を求められるのは必至だからだ。 

表4 極端に増加する医療ニーズに対応するための医療機関の方針を定め、地域の担当者と協議する

□ 慢性疾患のある患者(例:血液透析など)、妊婦、新型インフルエンザ以外の治療を必要とする救急の患者への治療を継続することについて医療機関としての方針を作る。
□ 急を要しない入院や待機手術の延期を判断する基準を設ける。
□ 病院以外での医療の提供(例:往診やほかの医療施設への搬送)に関する計画を地域の担当者と議論する。
□ 数に限りのある医療資源の配分にあたって、判断に関わる倫理的な問題について検討する。
□ 治療を必要とする患者の増加に応じて、医療施設の病床数を増加することを関係当局と討議する。
□ 重症患者の治療を効率的に行うために、同じ地区のほかの病院や長期療養施設と連携し、引き続き入院加療が必要なインフルエンザ以外の患者の転院に応じるよう求めたり、受け入れたりする計画を作る。
□ 治療のための病床の確保と、それに伴って必要となる医療機器、職員、薬剤の確保に関する計画を立てる。
□ 医療施設の役割、人材配置、必需品の供給について、地域の計画担当部署との間で協議をする。

 このほか、警備の問題や死者への対応も検討事項に挙がっている(表5、6)。パンデミック時には、院内でもある程度の混乱は避けられない。警備体制の整備は、パニックへの対応とも言える。議論の俎上にはのせておくべきだ。

 残念ながら死者数も相当数に上ると考えられる。日本でも最悪64万人もが新型インフルエンザで死亡するとみられている。医療機関ごとに、予想死亡者数をはじき出し、対処方法を計画しておかなければならない。

 今回で医療機関向けのチェックリストの紹介は最終回となるが、和田氏は、一医療機関でできることには限りがあるとした上で、「地域で一丸となって取り組む体制作りを急ぐべき」と締めくくった。

表5 流行時の医療機関の警備体制に関する計画を作る

□ 医療機関での混乱を避けるため警備員を登用する。
□ 外部からの職員やボランティアを動員した際は、院内で身元が確認できるようにする。
□ 患者の動線を秩序ある統制されたものにする。

表6 死亡した患者の対応手順を定める

□ 検死や死亡した患者の処理件数が急増した際の計画を定める。
□ 医療機関で、一時的に遺体安置書として使える場所があることを確認する。
□ 遺体の管理に関して地域の担当部署と協議する。
□ 地域の葬儀社も計画立案の討議に携わる。
□ 予想死亡者数に基づき、遺体を包むための布など必要物品の数を予測し準備する。

(三和護、日経メディカル別冊)

■参考文献
1)和田耕治.医療機関に必要な新型インフルエンザ対策第1回目.Mebio 25 (5)140-145.2008
2)和田耕治.医療機関に必要な新型インフルエンザ対策第2回目.Mebio 25 (6)14-19.2008
3)和田耕治.医療機関に必要な新型インフルエンザ対策第3回目.Mebio 25 (7)122-127.2008

■バックナンバー
【医療機関の対応】その1
「院長、これが新型対策のチェックリストです」
【医療機関の対策】その2
新型インフルエンザ対策計画の構成要素は