新型インフルエンザ対策は、どのように進めたらいいのか−−。具体的な対策を立てるための手掛かりを求めている医療機関が少なくない。そこで3回にわたって、北里大学医学部衛生学公衆衛生学の和田耕治氏らがまとめた医療機関向けのチェックリストをお届けする。今回は、「新型インフルエンザ対策計画の構成要素」の中から、特に流行時の医療従事を過労から守ると言う視点で紹介する。

 医療施設等における感染対策ガイドライン(厚生労働省ホームページに掲載)を読み込んだ人は多いに違いない。和田氏らは、医療施設等における感染対策ガイドラインを参考にしつつ、米国疾病予防センター(CDC)がまとめた医療機関向けのチェックリストから、「流行時に医療従事者を感染と過労から守る」という視点でまとめた項目をピックアップした。

 新型インフルエンザに対峙する上で、まず重要になるのは情報提供。職員だけでなく患者にも、感染予防策の基礎知識を提供する必要がある。医療従事者は特にハイリスクな立場であるため、十分な感染予防策の基礎知識を持たないと、職員の中には不安から出勤しなくなるという危険性をはらんでいる。

 医療従事者に対しては、それぞれの病院が自らの職員を守る方策を示す必要がある。それは具体的な準備をともなってはじめて説得力を持つ。表1の「感染拡大を予防するために、職員や患者に情報提供する」の目的は、職員の病院に対する信頼感を高めること。その具体的な方策が並んでいるのに気づかれるだろう。

表1 感染拡大を予防するために、職員や患者に情報提供する

□ 新型インフルエンザの感染対策を職員に教育する責任者を決め、教育を行う(例;受講の機会を提供する、職員の出席記録管理する)。
 (責任者の氏名、所属、連絡先を記入すること)
 氏名      所属      連絡先
□ 通信教育(例;eラーニング)や地域(例;保健所や病院主催)での教育情報を得て、職員を参加させる。
□ 職員の教育には、標準的予防策、保護具の着用、互いに距離を保つこと、咳エチケットも含む。
□ 患者やその家族を対象にした新型インフルエンザ対策の資料(例;ポスター、パンフレット)や医療施設の訪問者や見舞いの人に対する方針が示されている。
□ 医療機関での新型インフルエンザの状況に関し、院内の職員に伝達する責任者が決まっている(第一責任者およびバックアップの氏名、所属、連絡先を記入すること)。
  第一責任者:氏名   所属   連絡先
  バックアップ:氏名   所属   連絡先
□ 流行時の従業員の不安や恐怖感を予め想定する。また、状況に応じて適切な情報提供を行う。

 和田氏は、日本では保護具に関する教育が行き届いていないと警鐘を鳴らす。例えば、マスクを正確に着用できているのか、N95マスクのフィットテストやユーザーシールチェックは誰でもができるのだろうか。別の視点から問うなら、N95マスクは顔の形によって合わない人がいるのを知っているかどうか、ということになる。

 職員教育の中に、保護具の着用が含まれているのは、職員を守るための道具を使いこなすことの重要性を訴えている。

 情報の提供の次は、感染予防策の徹底を図ること。表2は、そのチェックポイントを記している。和田氏は、感染予防策の基本として、(1)患者との接触機会を減らす工夫(飛沫感染予防のため2m以内に近づかない)、(2)「頻繁な手洗い」、(3)「保護具の正しい使用」の3点を挙げる。それぞれをどのような方法で具体化したらいのかを示したのが表2のチェックポイントといえる。

表2 医療機関での感染予防を徹底する

□ 新型インフルエンザに感染した可能性のある患者と接する際、医療従事者に標準予防策と飛沫感染予防策を徹底する。
□ すべての職員に感染予防策、他人との接触機会を必要最低限にすること、保護具装着、などの実務的な教育を行う。
□ エアロゾルが発生する手技(例;気管支鏡、気管支挿管、痰の吸引)を行う場合は、N95またはそれ以上のマスクの使用を徹底する。新型インフルエンザウイルス感染が確定した、またはその可能性のある患者への処置時にもN95マスクの装着を徹底する。
□ 咳をしている患者にマスクの提供や咳エチケットを指示する。
□ 新型インフルエンザ感染が確定した、または疑われる患者を施設内の指定された箇所または場所に集める。
□ 感染予防に関する勧告の更新や、新型インフルエンザ専門家会議、WHO、CDCのサイトを定期的に確認し、対策の更新を行う。
□ 感染予防手順の実施状況をモニターし、徹底する。
□ 感染患者の対応をする医療従事者を特定して、十分なトレーニングを行う。
□ 医療従事者が家に帰ることが難しい場合に滞在できる場所を確保する。

表3 医療機関内の患者や医療従事者の新型インフルエンザの感染サーベイランスを行う

□ 新型インフルエンザのサーベイランスの準備として、季節性インフルエンザ流行時期に、感染が疑われる症状を示す患者や医療従事者を対象にサーベイランスを試行する。
□ 日本国内または医療機関の周辺地域で新型インフルエンザウイルスの流行が報告された場合、医療機関での感染者のサーベイランスを報告すべき保健所や県の責任者などが特定されている。
  報告先:氏名     所属    連絡先
□ 入院患者、ボランティア、職員にインフルエンザ様症状の患者が出た場合の報告に関して手順が作成されている(例;週ごとまたは日ごとのインフルエンザ様症状を呈する患者、職員の数の報告)。
□ 新型インフルエンザウイルスに感染したおそれのある入院患者および職員の診断について、手順が示されている。
□ 救急外来に訪れた新型インフルエンザ感染の可能性がある患者、ほかの医療機関からの感染の可能性のある患者の転院、または入院のために紹介された感染の対応に関する手順が作成されている。その手順には、感染の可能性のある患者の基準、診断に必要な検査、必要な感染対策、治療、感染管理者に伝える手順が含まれる。

 相手を知り、そのための防御策を習熟した後は、敵である新型インフルエンザの動きを迅速に把握する手段を持つことに行き着く。表3は、この目的の基に挙がったチェックポイントである。「準備として、季節性インフルエンザ流行時期に、感染が疑われる症状を示す患者や医療従事者を対象にサーベイランスを試行する」と記されているが、今年の季節性インフルエンザ流行から手がけたいところだ。

表4 医療機関の職員の健康管理を行う

□ 職員は流行時、体調不良やインフルエンザ様の症状があるときには出勤しないようにする。
□ 流行時、体調不良などの症状のある職員の病欠を認める方針を持つ。
さらに次の項目についても検討する。
□ 職務中にインフルエンザ様症状を呈した職員の扱い。
□ 感染した職員に伝染性がなくなるまでの間、自宅に留まらせること。
□ 治療後の職場復帰の方針。
□ 発病した家族のケアをしなければならない職員の扱い。
□ 学校などの教育機関が閉鎖した場合、子どものケアをしなければならない職員の扱い。
□ 新型インフルエンザ様の症状がある場合に出勤せずに医療機関に報告するシステム(例;電話による報告)を作る。
□ 流行時における職員のメンタルヘルスサポートを提供する。
□ 職員の毎年の季節性インフルエンザ予防接種歴を記録するシステムを作る。
□ 流行時に、季節性インフルエンザの合併症に罹るリスクの高い職員(例;妊婦、免疫不全者、65歳以上の職員)の管理に関するプラン。例えば、これらの職員を休職扱いにする、職場を変えるなどの方法も含む。

 表4は、「新型インフルエンザ対策計画の構成要素」の中でも重要な部類に入るチェックポイントだ。防御体制という視点でいうなら、これこそが職員の命を守り、かつ医療機関の使命を全うするための行動目標となる。ここに挙げられている項目ごとに、職員を交えて議論する機会をぜひ持つべきではないだろうか。

表5 流行時に極端に増加する医療機関への需要に対応する

(1)人材手配
□ 職員が、家族または個人の状況により、出勤が不可能になる何らかの事情(例;学校閉鎖、高齢者ケア、交通機関、政府による命令)があり、出勤できなくなることを想定する。
□ 医療機関の運営を継続させるための人材配置を検討する。
□ 近隣の大学で医学、看護学などを学ぶ学生の活用を検討する。
□ 応援を要請する基準を明確にする。
□ 医療機関が人員不足に陥った際、ボランティアの活用を計画する。また、ボランティアに必要なトレーニングを緊急で行うことを検討する。
□ 地域の医療機関と人材応援に関する協定を結ぶ。
□ 人材配置に関する計画には、医療従事者の過労を防ぎつつ、休みがとれるよう交代勤務を導入することが検討されている。
□ 流行の間、職員の状況やさまざまなニーズを把握する責任者が決定している(責任者およびバックアップの氏名、所属、連絡先を記入すること)。
  責任者:氏名   所属   連絡先
  バックアップ:氏名   所属   連絡先
(2)医薬品や必需品の確保
□ 流行期間中(約2カ月続くことを想定する)に必要となる医薬品や医療機器(例;静脈注射用ポンプ、人工呼吸器など)や感染防護具(例;マスク、ガウン、手袋、手の消毒剤など)の量を推定する。
□ 医療機器(例;人工呼吸器)や医薬品(例;抗ウイルス剤や抗菌薬)の数に限りがあり、配分しなければならない事態に陥った際、使用する患者の優先順位を検討する。
□ 備蓄品に関して地域の関連部署と取り決めをする。
□ 医療機器、薬、必要なサービス(例;クリーニング、清掃、食事サービス)の代替委託先のリストを作成する。
□ 院内の検査室機能の維持と、検体発送を必要とする検査の優先順位に関する計画がある。また、院内検査室のバックアップの体制を検討する。

 パンデミックの恐ろしさは、「量」に起因する。医療機関にとって、日常診療では考えられない数の患者が押し寄せることにどうやって対応するかが問われる。その基本は、人と物。職員の不足を想定し、その対策を練っておくことは、医療機関の機能を維持する上で、とても重要となる。物の方は、必要な品目をリストアップするだけでなく、医療機関ごとに異なる量を見極め、その確保策を決めておくことを求めている。重要なのは、流行期間が「約2カ月」と想定できる点だろう。しかしながら流行の波は2、3回来ることも考慮した対策が必要である。

 予防策としては、プレパンデミックワクチンの接種と、抗ウイルス剤の予防投与が挙げられよう(表6)。どちらもパンデミックワクチンが開発されるまでの「つなぎ」的な位置付けではある。数に限りがある以上、なんらかの優先順位を定めなければならないという課題が待っている。入手可能性にあわせた医療機関としての行動を定める上で、欠かせないチェックポイントとなる。

表6 プレパンデミックワクチン、抗ウイルス剤に関する計画を行う

□ 流行時に、プレパンデミックワクチンや抗ウイルス剤の使用、入手可能性、配布に関する最新の情報を入手する体制を作る。
□ 新型インフルエンザ流行時に職員へのプレパンデミックワクチンの数が限られている場合もあり、医療機関の業務継続に欠かせない職員にプレパンデミックワクチン接種を優先することを想定する。
□ 患者へのプレパンデミックワクチン接種を提供する可能性を想定する。
□ 患者に対する抗ウイルス剤を使った予防投与または治療を行うことを想定する。
□ 職員に対する抗ウイルス剤を使った予防投与または治療を行うことを想定する。

 次回は、医療機関の事業継続に必要な外部とのコミュニケーションをとる体制、トリアージの具体策、地域の中での医療機関の役割などのチェックポイントを紹介する。

(三和護、日経メディカル別冊)

■参考文献
1)和田耕治.医療機関に必要な新型インフルエンザ対策第1回目.Mebio 25 (5)140-145.2008
2)和田耕治.医療機関に必要な新型インフルエンザ対策第2回目.Mebio 25 (6)14-19.2008
3)和田耕治.医療機関に必要な新型インフルエンザ対策第3回目.Mebio 25 (7)122-127.2008