過去のパンデミックと現在の大きな違いの1つは、インターネットによる情報提供ではないだろうか。2003年のSARSの流行時に、北京で日本大使館医務官だった勝田吉彰氏(近畿医療福祉大学)は、「ちぎっては投げ方式でこまめに情報提供をすることで、現地の日本人社会の不安を和らげた」と振り返る。新型インフルエンザが騒がれるようになってからは、このときの経験を元にブログを立ち上げ、日々情報を発信し続けている。

図1 「新型インフルエンザ・ウォッチング日記」の画面。親しみやすいデザインとなっている。

 ブログでの情報提供というと北海道小樽市で保健所長を務める外岡立人氏が運営している「鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報集」を思い出す人も少なくないだろう。鳥インフルエンザの流行状況、人への感染状況などをいち早く報じているほか、各国の非公式な情報にも気配りしており、新型インフルエンザの兆候を把握する上でも重要な情報源となっている。

 勝田氏は外岡氏の試みを評価しつつ、自らも何かできないかと考え、ブログを立ち上げた。名称は「新型インフルエンザ・ウォッチング日記」(図1)。2007年3月から運用を開始し、今年の6月19日時点で370回の情報発信を数えた。

 ブログでの情報配信で気を配っているのが、「その時点で分かっている事実をこまめに提供する」ことと「事実ではないうわさを拾い上げ否定すること」の2点だ。

 また、掲載する記事はできるだけ分かりやすい表現とし、たとえば専門用語は必要最小限とし、できるだけ平易に噛み砕いた内容とした。

 これまで配信した主な内容は、新型インフルエンザや鳥インフルエンザに関する医学論文や海外(アジア、欧州、米国、アフリカ、中近東)および国内の関連報道に自らのコメントを加えたものとなっている。

 たとえば最近では、「UAEが鳥インフルエンザ警戒アップ」 「タミフル耐性に困惑する南の国々」「医療現場のメンタルケア体制の検討を!(パンデミック)」などの記事がされている。

 ブログの効果は、ページビューの増加に現れている。週間のページビューは、立ち上げ当初は100〜200pvだったが、2008年の初めから急増し、2008年5月以降は5000pv/週前後で推移するようになったという。コメント欄への投稿も増え始め、「渡航先の感染情報を求めるもの」や「海外の情報を提供するもの」も目立つようになっている。

 ミャンマーを襲ったサイクロン、それに中国の四川大地震と、最近、大きな災害に見舞われたばかりだが、災害の直後から現地被災者らが自らブログで情報発信していた事例がある。まさに現場からの生々しい情報の数々は、災害の大きさ、被害状況の甚大さを伝えてくれた。また救済、救援のための情報を得るという意味でも貴重な情報源となっていた。

 新型インフルエンザの流行はまだ起こってはいない。しかし、いつかどこかでその兆候が出てくるはず。ブログは、その危険な兆候を感知する武器にもなる。同時に、ブログから配信される正しい情報は、パニックを食い止める力を持つだろうし、そうであることを期待したい。

 勝田氏は、国や関係機関の発表とは違った次元の情報を得ることができる点で、ブログは貴重な情報源になるとみている。「もっと多くの人が、ブログでの発信を試みてほしい」(勝田氏)ものだ。

(三和護、日経メディカル別冊)