「ゴーグルが雲って見えにくい」と看護師(訓練から)

 5月29日午後3時過ぎ。沖縄県宮古島市で2時間近くに渡って繰り広げられた新型インフルエンザ対策の大規模訓練が終わった。3時45分。宮古病院の会議室には参加者らが次々と戻ってきた。訓練をやりっぱなしにせず、参加者らが課題を出し合い、それを共有し、対策の向上につなげるための検討会が始まった。

 訓練は、日本国内でヒト-ヒト感染が確認され、大きな集団発生が起こった段階であるフェーズ5Bを想定。発熱外来での対応や患者搬送および遺体搬送など、実践さながらの訓練が繰り広げられた。

 見学者も含め100人以上が参加した訓練は、ほぼ予定通りに終了した(参照;当日スケジュール、pdf)。ハプニングといえば、霊安室が実際に使用されていたことか。訓練では、重症者が死亡、遺体を感染症室から霊安室へ移送。そこで宮古市の職員が遺体を引き取り、診断書と身元確認情報を照合し、死亡診断書を受け取って、遺族対応をした後、遺体安置所へ運んでゆく(車に乗せるまで)という想定だった。が、実際に霊安室が使われていたため、訓練は遺体のダミーを霊安室に運んだところで打ち切りとなった。

写真1 訓練後に開かれた検討会

■ 訓練の締めくくりに検討会を開催

 検討会では、反省の弁をはじめ、患者役の職員への賞賛、患者から見た問題点など、様々な意見や感想が交わされた(写真1)。以下、訓練中に拾った声も含め、だれもが経験すると思われる点を中心に課題をピックアップした。

 休日・夜間診療所で診療に当たった医師は、軽症の患者を診察したとき「失敗があった」と打ち明けた。軽症の患者にはタミフルを渡し、外出しないようにと告げ帰宅させる手順だった。その患者から「悪化したらどうしたらいいですか」と質問された。「また(休日・夜間診療所に)来て下さいと言ってしまった。宮古病院の発熱外来へ行ってくださいと言うべきところだった」。普段の診療とトリアージ診療の違いは、訓練で初めて実感できるものかもしれない。

 救急隊員からは、N95マスクをしたままの状態で各機関と携帯電話で連絡をとらなければならなかった苦労が報告された。これに対しては、連絡を受けた看護師から「声が聞き取りにくかった」との指摘があった。通常の会話とN95マスクを装着したときの会話は異なることを気に留めておくべきだ。

 中等症の患者を診た医師は、付き添ってきた家族への説明が重要と感じたと話した。発症していない家族に、「余計な不安を与えないように接するにはどうしたらよいのかが課題だ」。宮古病院では、「新型インフルエンザについての注意点:宮古病院発熱外来」(表1)を用意し、診断や治療ばかりか感染拡大防止にも協力するよう求めている。すでに感染している可能性がある家族への説明は、より慎重にならざるを得ない。

表1 新型インフルエンザについての注意点:宮古病院発熱外来

現在沖縄県内で新型インフルエンザが流行しています。診断、治療および感染拡大防止にご協力ください。
新型インフルエンザとは
毎年流行するインフルエンザに比べ、重症となることがあります。症状は発熱、咳、頭痛、筋肉痛があります。息苦しいときはすぐ病院を受診してください。
診断:鼻腔の検査(簡易キット)を行います。確定診断は衛生研究所に検体を送ります。
治療:タミフル(オセルタミビル)を使用します。使用の注意点(別紙;pdf)をご参照ください。
予防接種:予防接種による予防が可能とされています。新型インフルエンザワクチン接種の機会がありましたら、積極的にご考慮ください。
帰宅後の注意点(帰宅の方)
今回、症状が軽度ですので、帰宅して自宅で様子を見ることとなりました。新型インフルエンザの場合、帰宅後に症状が悪化する可能性があります。水分を飲まない、意識がおかしい、呼吸が苦しいなど重症の兆しがありましたらすぐ病院を受診してください。
ご家族の健康状態
患者様からすでに感染している可能性があります。ご家族で発熱がないか十分ご注意ください。発熱、症状出現時には発熱相談センターに相談の上、発熱外来(休日・夜間診療所、宮古病院)を直ちに受診してください。有症時は面会をはじめ宮古病院への立ち入りはご遠慮ください。また外出はお控えください。
ご不明な点がありましたら下記にご連絡ください。
発熱相談センター(           )
宮古病院(               )
                                       宮古病院 病院長

■ 防護服装着での作業は慣れが必要

 防護服(PPE)の装着など感染防護については、いくつか注文がついた。その一つはゴーグル。訓練の日は湿度が高く、最高気温が30度を超える蒸し暑い日だった。訓練が始まってまもなく、ゴーグルが曇ってしまうとの訴えが相次いだ(冒頭の写真)。これについては、使用したゴーグルの種類によって曇ったものと曇らないものがあったことから、今後見直すこととなった。

 PPE装着については、訓練中「慣れていないのできつい」という声もあった。加えて、定期的に装着訓練を行い、PPE装着での作業に慣れる必要があるとの声も聞かれた。また、N95マスクの装着に誤りが見られたとの指摘があり、PPE装着手順の徹底を求める意見もあった。

 気になったのは大きな鏡があったら良かったという声。PPE装着については、他のメンバーに装着の状態をチェックしてもらっているが、自分でも確認できれば余計な心配はなくなるという提案だった。

写真2 患者役を務めた人からの指摘が相次いだ

■ 「汚いものとして扱われている気がした」

 今回の検討会では、訓練で患者役を務めた人からの指摘も重要だった(写真2)。

 55歳の女性役の人は、30歳の息子役の人と一緒に発熱外来を受診した。「びっくりした。物々しい雰囲気で怖かったし、不安だった」と第一印象を語った。血圧を測る器械がビニールで覆われていたため、「自分が汚いものとして扱われている気がした」とも。この女性は、防護服で立ち回る意味やビニールで覆っている理由を張り紙などで知らせて欲しいと訴えた。これは医療関係者側も必要性を感じている点だった。新型インフルエンザで最も恐ろしいのはパニックに陥ること。医療現場が混乱しないためにも、様々な局面で患者や家族への細やかな情報提供が必要となる。

 宮古島での訓練を取材して最も驚いた点は、宮古病院、休日・夜間診療所、宮古島市役所、消防本部の各機関の連携がスムーズだったことだ。全日本トライアスロン宮古島大会や大規模な災害などの経験を通じて、各機関の絆が深まっていたといえばそれまでだが、縦割りといわれる障壁が見当たらないのは、各機関の担当者同士の交流があるからなのだろう。

訓練を牽引してきた事務方の1人、宮古福祉保健所の鉢嶺亮氏

 検討会で出し切れなかった課題は、アンケートの形で収集した(表2)。こうしたアンケートを元に関係機関・部署が作成しているマニュアルを改良していくことになる。

 訓練を牽引してきた事務方の1人、宮古福祉保健所の鉢嶺亮氏(写真)は、「訓練を行うことで様々な課題が明らかになった。大事なのはその課題を解決するために何をすべきかを考えること」と自らに言い聞かせるかのように話していた。

(三和護=日経メディカル別冊)

表2 改善・検討すべき点(新型インフルエンザ対策想定訓練アンケートから主なもの)

 診察器具の消毒はどれくらい必要か不明患者さんを遺体安置所に案内するときに廊下で家族に会わせていたので、別の場所にした方がよい。診療所での出入り口が一緒になっている。検査結果待ちの患者が、通路で待っている。そこを重症患者が診察に入るときに交差する。
 ・患者さんの待機場所の区別を明確にした方が良い。検査待ちの患者と重症患者が接触しないような区別。・各機関への連絡する携帯はカバーした方が良いのでは。防護服を着けたスタッフの行動範囲をはっきりした方がよい(脱ぐ場所など)看護師の役割見直し(救急車への連絡、投薬、バイタル、介助、処置)
 問診票記入の際に全ての患者、家族へのマスク着用を義務付ける必要がある。重症患者が来院した時点で、スタッフの意識が重症患者に集中したため、残された軽症患者の最終的な対応が手薄になっていた。患者及び家族への説明が詳しくされておらず、家族からの申し出でそのことが分かった。役割をきちんと認識してから対応すべきだと思った。患者を2回診察室に入れる(診察・説明)面倒さ。時間がかかる。
 次回は、市民代表などにも加わってもらったらもっと広がるのではないか。家族は不安な状況にあるので、どのようにすればそれから少しでも緩和出来るのか検討が必要。消毒、汚物の処理
 ・診療所から病院への救急搬送は有事の際には非現実的ではないか。自宅から病院搬送するなどに専念するべきでないか。・医療者の防御については不明な点が多い。防護服、脱衣時のコンタミ、その後の洗浄には中性洗剤を用いるべきなのか。発熱外来が蒸し暑く、働くスタッフは防護服を装着しているので熱中症を発症し易い環境と思われた(特に夏場)。発熱外来は空調の調整が出来る部屋をあてるのが良いと考えられた。応援ナースの立場なので、何をどこまで関わっていいのか、戸惑ってしまったので、もっと細かくマニュアル化をしなくてはと思った。
 キーパー等飲み物の用意が必要。警察と連携も軽症から重症の患者がいるケースでそれぞれの家族の控え室が同じというのは感染のリスクを考えるとどうかなと感じました。 
 PPE装着は何度でも繰り返すべき患者家族への対応PPEの脱ぎ方がまだ出来ていない。
 病院側のスタッフがいっぱいいる割には待ってくださいというのが前の待合い室なのか、廊下の椅子なのかとか、会計は薬をもらって後にするのかということが分からなくて戸惑った。患者が診察を受けた後どうなったか、説明が家族へ知らされなかった。患者本人の症状、対応の仕方など説明がない。新型か従来のインフルエンザかどうか検査に時間がかかるというのをきちんと説明して欲しかった。
 ゴーグルの改善。曇って見えなかった。PPEの脱衣、手袋の中に指を入れているケースが見られた。 
 処置ナースが必要だったのでは。発熱外来の入り口が階段で重症者の搬入が大変だと思いました。患者や家族の不安を打ち消すような明確情報開示がないように思う。・患者及び家族にはもう少しはっきりと的確な指示を出すべきかと思う。
 救急に不慣れな応援ナースの役割分担が不明瞭。病室から霊安室までの導線が長いこと。届出用紙、報告用紙の事務的事項は受付の段階で記入してもらってカルテと一緒に医師に回す方がベター。
  全員が防護服を着ており、だれに何を聞けば(料金の支払いとか)よいのか分からなかった。・救急診療所でのナースの役割分担必要。→患者さんの誘導案内は事務?・救急診療所のハード面での限界だが「受付→診療→一時待機→帰宅」について動線が交差せぬようにしなければと思う。

■関連資料
1)第2回宮古地区新型インフルエンザ対策想定訓練(流行初期〜中期対策) 当日スケジュール ver1.6(5/28) pdf

■バックナンバー
1)宮古島で新型インフルエンザ対策の大規模訓練(No.1)
フェーズ5Bを想定、発熱外来での対応や患者搬送を実施
2)宮古島で新型インフルエンザ対策の大規模訓練(No.2)
外来受診者1万4841人にどう対応するのか
3)宮古島で新型インフルエンザ対策の大規模訓練(No.3)
「患者様は新型インフルエンザの重篤化が原因で亡くなられました」