H7N2はヒトα2-6に結合しやすくなっていた

 プレパンデミクワクチンについて、賛否両論の議論が展開されている中、「H7型ウイルスが世界的に大流行する可能性のあるウイルスに近づいている」という論文が発表された。プレパンデミックワクチンでターゲットにしているのは、A/H5N1型の鳥インフルエンザウイルス。ヒト感染例が多発しているため、H5N1型は新型インフルエンザの第一候補と考えられてきたが、H7型も無視してはいけない存在に浮上した。



 5月末、Proceedings of the National Academy of Sciencesという科学雑誌のweb版に、一つの論文が掲載された(1)。米疾病対策センター(CDC)の研究チームが発表したもので、鳥インフルエンザのうち、H7型も警戒しなければならないという内容だった。CDCは、6月10日付でプレスリリースを発表するほどの念の入れようだ(2)。

 ひるがえって日本国内の状況をみると、プレパンデミックワクチンについての議論が熱を帯びていた。H5N1型鳥インフルエンザウイルスをターゲットにしたワクチンで、6400人の医療あるいは検疫関係者に対して臨床試験が行われる段取りになっている。そこにきて、H7型を監視すべきという論文は、大切なことを思い出させてくれた。

 それは、「H5N1型は新型インフルエンザウイルスの候補の一つであるが、すべてではない」という事実だ。確かに、インドネシアを筆頭に鳥インフルエンザのヒト感染例が多発しているし、一方で鳥類間ではH5N1型が蔓延しつつあるという情報にも事欠かない。H5N1型を新型インフルエンザ対策の対象に据えるのは、当然であり間違ってはいないだろう。ただ、「H5N1だけではない」という警戒は解いてはならないのだ。

 論文では、2002年以来発生しているH7型鳥インフルエンザウイルスに焦点を当て、その動向を追跡した。H7型は、ユーロ・アジア系統と北米系統が確認されており、オランダや英国などではヒト感染例も発生していた。しかし、H7型のヒト感染例では、自己限定的な結膜炎が特徴で、ヒト−ヒト感染が容易に起こっているとはいえない状況だった。H5N1型がいわゆる「行き止まり感染」に留まっているが、H7型も同じような状況にあった。

 ところが、H7型ウイルスとヒト細胞のレセプターとの関係を調べたところ、北米系統である2004年にカナダで分離されたH7N3型ウイルスと2002年から2003年にかけて米国北東部で分離されたH7N2型ウイルスは、ヒトの気管上皮細胞にあるα2-6というレセプターと結合しやすくなっていた。また、このうちニューヨークで、ある男性から分離された低病原性H7N2型ウイルス株を使って、フェレットへの感染性を調べたところ、上気道で効率的に複製し、直接接触で感染力があることが確かめられたという。

 鳥インフルエンザH5N1型では、このような傾向はまだ認められておらず、H7型が一歩先んじた格好だ。

 そもそも、なぜ鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染するのか−−。ヒトのインフルエンザが結合するレセプターはα2-6と呼ばれるもので、ヒトの上気道や肺などの上皮細胞に多く見られる。しかし、鳥インフルエンザウイルスが結合するのはα2-3で、ヒトの細胞には確認されていなかった。ところが、論文(Shinya et, al,2006、3)によると、ヒトの肺の細胞にα2-3があることが分かり、H5N1型がヒトに感染する機序の一端が明らかになった。

 H5N1型については、α2-3だけでなくα2-6にも結合しやすくなってはじめて、ヒト−ヒト感染が容易に起こる段階に突入すると考えられている。なぜならα2-6は上気道に多く、ここで増殖しやすくなるということは、咳やくしゃみなどで容易に多量のウイルスが口から飛び出すことを意味する。それだけ他のヒトが感染する機会が増える。

 今回H7型に、α2-6への結合力が増強しているという事実が見つかったことで、新型インフルエンザのサーベイランスにおいてはH7型が主役級に躍り出たといえる。環境省はこの秋から、全国で鳥インフルエンザの調査を行う方針を固めた。H5N1型の感染の広がりがきっかけだが、H7型も意識してもらいたいものだ。

 また、対策の面では、H5型だけではなくH7型も強く意識しなければならないことを教えている。H5型あるいはH7型であっても、またはほかの亜型のどれにでも対応できる対策を、まずは充実すべきではないだろうか。

(三和護=日経メディカル別冊)

■関連情報
(1)Contemporary North American influenza H7 viruses possess human receptor specificity: Implications for virus transmissibility(Published online on May 27, 2008, 10.1073/pnas.0801259105)
(2)CDCのリリース.CDC Finds Some Bird Flu Strains have Acquired Properties that Might Enhance Potential to Infect Humans
(3)Shinya et, al,2006.Avian flu: Influenza virus receptors in the human airway