救急隊員により運び込まれた患者の容態は重く、医師は入院治療を決断。患者はベッドごと感染症室へ運ばれていった−−。しかし、記者が感染症室にたどり着いたときには既に患者は死亡。死後処置が行われ、閉鎖できるビニール袋で遺体を包みこむ作業が行われていた(写真)。別室では、家族の精神的な痛みへの対応とともに、2次感染拡大を防ぐための説明が続く。ビニール袋に包まれた遺体の顔は見える状態にあり、感染防止と患者や家族への配慮という両面での訓練が強く意識されていた。

閉鎖できるビニール袋で遺体を包みこむ(宮古島での訓練から)

 「患者様は新型インフルエンザの重篤化が原因でお亡くなりになられました。職員一同、残念な思いで一杯です。心よりご冥福をお祈り申し上げます」。

 この1文で始まる説明書が手元にある。今回の訓練で、新型インフルエンザで死亡した息子の両親に対して提示されたものだ。続いて、表1に示したような感染防止のための注意点が説明されていく。

表1 新型インフルエンザ流行時、ご遺体搬送についての注意点(宮古病院)

 新型インフルエンザによる感染拡大防止のため、ご遺体の搬送時に注意点があります。ご協力いただきますようお願い申し上げます。
1)ご遺体について
 ご遺体にそのまま接することで新型インフルエンザの感染が予想されます。病院の方でご遺体にビニールを巻かせて頂きます。ビニールをとらないようご注意下さい。
 ビニールの上から手を触れる場合は、手袋の着用が必要です。
 手袋を脱いだ後はすぐ、手洗いか手指消毒を行ってください。また脱いだ手袋は所定のゴミ袋にお入れください。
 病院から出た後については、別紙(表2、文末)をご参照ください。
2)ご家族の健康状態
 患者様から既に感染している可能性があります。ご家族で発熱がないか十分にご注意ください。発熱、症状出現時には発熱相談センターに相談の上、発熱外来(夜間休日診療所、宮古病院)を直ちに受診してください。有症時は面会をはじめ、宮古病院内への立ち入りはご遠慮ください。また外出はお控えください。

ビニール袋に包まれた息子(訓練ではダミー人形)の顔を覗き込む両親(左端)

 父親役を務めた市職員は、時折涙を浮かべた様子で、息子の遺体とともに感染症室から病院地下1階の慰安室へ移動していった。

 訓練後の検討会では、救急車で宮古病院へ搬送されるまでの間「家族としてはまだかまだかとイライラした」と発言。この間に、医療関係者からの説明(あるいは声がけ)があれば、少しでも安心したかもしれないと指摘した。

 また、訓練とはいえ息子を失った悲しみにくれた心情を吐露。「家族待合室にいたら、医師がやってきて息子が亡くなったことを告げた。ぜひ面会をと求めたところ、2次感染の危険性を説明してくれた。マスクや手袋が必要なことは理解できた。ただビニール袋に包まれた息子(訓練ではダミー人形)の顔を見たら、無性に悲しい気持ちになってしまった」。

訓練の模様を参観する人々

 想像してみていただきたい。映画などに出てくる遺体袋は、チャックを閉めてしまえば、あとは袋に付けられたラベルで個体を識別することになる。ただし、日本では「故人とのお別れ」の場が必要となる。表1、2に出てくるように、新型インフルエンザによる死亡であっても、そのため自分も感染の可能性があったとしても、「顔を見てお別れしたい」という心情が強いのだ。面会を求めた父親の行動がその一例だろう。

 なぜビニール袋だったのかの答えは、「顔をみたい」という家族らの心情をおもんばかってのことだった。感染防止と患者家族等への配慮がここに凝縮されている。

 なお、このビニール袋を使った遺体袋は、今回の訓練に参加した諸機関が知恵を出し合って開発したもので、宮古島のオリジナル製品であった。メンバーの一人は、「身近なものでたくさんあって使いやすいものを探した結果、ビニールハウスに使うビニールにたどり着いた。今の形にするまで2年ぐらい頭を悩ました」と話している。「2年かけて」という言葉からは、新型インフルエンザに挑む強い決意がうかがえる。

遺体が運び出される様子を見守る参観者ら

 表1や表2に示した説明書は、まだ改良の余地を残したもの。宮古病院では、今回の訓練も踏まえて作り直していく方針だ。

 (次回は訓練後の検討会の模様と抽出された課題をまとめます)

(三和護=日経メディカル別冊)


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表2 新型インフルエンザ発生時における遺体の火葬・埋葬について(案、宮古病院)

1.はじめに
 新型インフルエンザにより亡くなられた方のご遺体については、ご遺族及び関係者への2次感染を防ぐ目的から、第2章以降で記載する方法により火葬、埋葬を行います。ご遺族の方においては、公衆衛生の確保のため、何卒ご理解をお願いします。
2.ご遺体の葬儀・火葬・埋葬
 (1)新型インフルエンザにより亡くなられた方のご遺体は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)及び「墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)」に基づき、速やかに火葬に付されます。
 (2)新型インフルエンザにより亡くなられた方のご遺体は、ご遺族及び関係者への2次感染を防ぐ目的から、自宅へは搬送せず、病院から直接火葬場へ搬送し、火葬に付されます。そのため、自宅での通夜及び告別式は実施できません。故人とのお別れについては、火葬場にてお願いします。
 (3)ご遺骨については、火葬に付した後に、その場でご家族にお引き渡しいたします。
 (4)火葬場の能力、設備、稼働状況等の事情により、速やかに火葬が行えないときは、ご遺体を一時的に遺体安置所(市立体育館等)に安置し、火葬が実施できる環境が整い次第、火葬を行います。この場合も、自宅での通夜及び告別式はできません。故人とのお別れについては、遺体安置所または火葬場で行います(その時の状況により決定されます)。
 (5)上記(4)によるご遺体の安置から○○時間が経過した後も、火葬場の能力、設備、稼働状況等の事情により、火葬が行えなかった場合は、市が指定する埋葬場所に一時埋葬を行います。埋葬されたご遺体は、○週間が経過した後、改めて火葬(?)を行います。この場合も、自宅での通夜及び告別式はできません。故人とのお別れについては、遺体安置所または埋葬場で行います(その時の状況により決定されます)。
3.遺体の搬送
 (1)火葬場または遺体安置所へのご遺体の搬送については、2次感染防止の観点から、市の職員が、市の搬送者により行います。*ご家族の方は同乗できません。
 (2)ご家族、お知り合いの方については、自家用車等により、火葬場または遺体安置所への移動をお願いします。
4.葬儀社への手配等について *検討中
5.故人とのお別れについて
 (1)章2の(2)、(4)及び(5)で記述したとおり、故人とのお別れについては、火葬場、遺体安置所または埋葬場でお願いします。
 (2)2次感染防止の観点から、故人とのお別れの際に、故人に直接手を触れることはご遠慮ください。故人に触れる場合は、市が提供するマスク、手袋等を装着してください。ただし、在庫数の不足等により、マスク、手袋等が確保できない場合は、故人との接触をご遠慮していただく場合があります。*直接、ご遺体に触れない場合は、マスク、手袋等は不要です。
 (3)故人とのお別れに参加される方の人数については、火葬場、遺体安置所及び埋葬場所の広さの関係上、○名以内になるようご協力をお願いします。
 (4)他に火葬、埋葬されるご遺体が多数ある場合は、個人とのお別れの時間を制限させていただくことがあります。
5.関係機関の連絡先について
 宮古島市総務課 ・・・・・・(担当部署の電話番号)
 宮古福祉保健所 ・・・・・・(担当部署の電話番号)
 宮古病院    ・・・・・・(担当部署の電話番号)