重症者を運び込む救急隊員ら(宮古島での訓練から)

 死亡数103人、入院者数329人、外来受診者数1万4841人。新型インフルエンザの流行があった場合の宮古島での推定値だ。この圧倒されそうな数の患者に対して、限界のある医療資源をどのようにつぎ込み、いかにしてパンデミックを乗り切るか−−。宮古病院の発熱外来では、流行期間を8週間として算定した数値を前提に、トリアージ診療の訓練が展開された。

 まず状況を振り返ると、訓練は、フェーズ5Bの段階で、宮古島内でも流行が始まった流行初期を想定していた。宮古病院と近隣に位置する休日・夜間診療所の双方に発熱外来を設置済みで、そこに、通常のインフルエンザなのか新型なのか分からない患者が次々と訪れるという設定だった。

 第一波となる患者らが受診したのは14時15分ごろ。4人の患者が相次いで発熱外来にやってきた。

 発熱外来の場所は、宮古病院の入口を正面に見て左側のC2病棟の2階(図1)。入口が階段になっている難点はあったが、他の患者との導線が極力重ならないようにし、汚染区域を限局するには「これが現在とれるベストの選択」(宮古病院感染対策チームの森博威氏)だったという。「室外にテントを張り発熱外来を設置する案は何度か議論されているが、医療関係者の連絡、連携の問題のほか、雨のときの対応が難しいこともあり、今の形になっている」(森氏)。

図1 発熱外来の場所は、宮古病院の入口を正面に見て左側のC2病棟の2階

宮古島の新型インフルエンザ対策に挑む沖縄県立宮古病院

 ここで、宮古病院の新型インフルエンザ対策マニュアルをもとに、発熱外来の医療体制を確認しておきたい。

 発熱外来は、救急外来や通常外来と完全に区別される。発熱患者が通常外来や救急外来を訪れたときは受診を断り、発熱外来へ誘導する。日中の外来は全科の診療を最低限とし、処方のみあるいは緊急疾患のみの対応に切り替えられる。これらはすべて、新型インフルエンザへの対応に病院の人員を集中させるための措置だ。ここで重要になるのは、患者への情報提供で、発熱がある患者は発熱外来を受診するよう徹底する。

 トリアージでは、症状にあわせ「緑」「黄」「赤」のラベルが使用される。「緑」は軽症、「黄」は中等症、「赤」は重症の患者となる。これは、全日本トライアスロン宮古島大会や大規模な災害時に宮古病院がとっているトリアージ法を応用したもの。日頃から慣れ親しんでいる方法を採用することで、パンデミック時にも混乱を抑え冷静に対応できると考えた。今回の訓練では、実施者だけでなく参観者らもトリアージの流れを確認することに重きがあったため、あらかじめラベルで重症度が分かるように設定されていた。

 軽症と判断された患者(緑のラベル)に対しては、診察の後、オセルタミビル(タミフル)の処方セット(治療分の薬と説明書など)を渡し、すぐ帰宅させる。ただし、流行初期では迅速診断キットおよび福祉保健所提出分の検査を実施する。

 中等症の患者(黄のラベル)は、受付の奥に設置された新型インフルエンザ外来(ベッド5床)で経過観察を行う。

 重症の場合(赤のラベル)は、病棟入院となる。患者数が少ない段階では渡り廊下でつながる隣り病棟の3階にある感染症室と結核室(合計8床)を使用する。患者が増えてきた段階で、3E病棟(45床)を新型インフルエンザ病棟とし入院治療に当たる。なお、慢性期に入った入院患者については、地元医師会や民間病院に転院の協力を依頼する段取りとなっている。

■ 日勤は医師3人、看護師4人、事務1人で1時間に15〜20人に対応

 人員に目を向けると、日勤、準夜、深夜体制で回すために各部署で調整することを前提に、以下のような体制を組む。原則として日勤では、受付は事務1人、看護師1人で対応し、診療は軽症者、中等症者、重症者の3チームに分け、それぞれ医師1人、看護師1人で対応する。

 訓練では、日勤の体制で、次々と来院する患者の診療に当たった。

 人員面について森氏は、新型インフルエンザ流行時の宮古島における推定死亡者数(表1)などをもとに弾き出した。推定外来受診者数1万4000人を想定流行期間の8週間(56日)で割ると、1日の平均受診者数は平均250人となる。つまり、1時間に10人来院することになる。


 表1 新型インフルエンザ流行時の宮古島における推定死亡者数等

  推定死亡数   103人
  推定入院者数  329人
  推定外来受診者数 1万4841人

  ※流行期間を8週間として算定

 ただし、現実の救急外来を参考にすると、日勤から準夜にかけて人が多くなり深夜は減る傾向にあるため、日勤から準夜にかけては、1時間当たり25人程度と予想。このうち夜間・休日診療所の発熱外来で10人は診てもらえるとすると、宮古病院では少なくとも1時間に15人の患者に対応せざるをえない。

 「15人の内訳は、軽症者11人、中等症者3人、重症者1人と見込んでいる」と話す森氏は、宮古病院の日勤の体制では1時間に15〜20人に対応可能と見る。今回の訓練では、この目標値を達成できるかどうかも重要な課題の一つだった。

 ここで、平面図(図2)を見ながら、発熱外来での患者の動きを追ってみたい。

図2 発熱外来の平面図(丸数字は以下の写真と対応)

 患者は階段を上り新型インフルエンザ外来の受付(写真1)にたどり着く。すぐ右横は患者家族の控え室になっていた。

 受付では事務員1人、看護師1人が対応。患者の背景情報を把握しバイタルサインをとり、「緑」「黄」「赤」のトリナージを行う。

 「緑」(軽症)の場合は受付隣りの診察コーナー(写真2)へ。「黄」(中等症)の場合はさらに奥のベッドへ誘導され、そこで中等症を担当する医師の診察を受ける(写真3)。

 医療関係者は全員、防護服(外科用ガウン)に身を包み、手袋、ゴーグル、N95マスクなどを装着。自らが感染する危険に配慮しつつ、診療に当たっていた。なお、今回の訓練では、プレパンデミック・ワクチンの接種や抗インフルエンザ薬の予防投与は、組み込まれていない。

 14時40分前。サイレンの音が近づいてくる。まず管理車両が宮古病院に到着(写真4)。救急隊員が救急車両の消毒、汚染物の処理などに使う機材を運び出す。その後5分ほどたった頃、救急車が重症患者を搬送してきた。

 この時、ささいなハプニングが発生。来院患者の家族なのであろうか。駐車場から車を出し、救急車が止まるはずのスペースで切り返そうとしていた。このままでは、救急車の進入を邪魔することにもなりかねない。

 機転を利かした訓練スタッフが、切り返さずそのまま出口に向うよう指示。無事、救急車が到着前に走り去った。車の誘導などは今回の訓練では組み込まれていなかったが、車が主たる移動手段である宮古島の事情を考えると、救急車両の進入を妨げないよう、駐車場の車を誘導する必要性は高いと思われた。これも今後の課題の一つであろう。

 14時40分ごろ。救急車が到着。4人の救急隊員が手際よく重症者運び出し(写真5)、難関である階段を担いで上り、発熱外来へ搬送した。

 物々しい雰囲気の中、重症者は受付奥のベッドへ運ばれ、直ちに診察が行われた(写真6)。放射線技師が駆けつけ、胸部のエックス線写真を撮った(ポータブルを使用予定、訓練では使用せず)。

 患者の容態は重く、医師は入院治療を判断。患者はベッドごと感染症室へ運ばれていった。

(次回は、重症者の死亡から遺体安置所への移動までをリポートする予定)

(三和護=日経メディカル別冊)


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