在宅医療では、患者さんの様子をきめ細かく診ることが求められます。特に、重症の方、癌の末期の方などは、ちょっとしたバイタルサインの変化や話し方、表情、家族の話などに注意を払います。

患者が胸や腹部に痛みがあると訴えれば、すぐにVscanでチェックしている。

 そうした私たちの診療では、Vscanはモニターとして有用です。小さくて軽いので、往診かばんの中でも邪魔になりませんし、起動が速いので患者さんを待たせることもありません。画像も鮮明です。

 胸や腹部に違和感や痛みがあると患者さんの訴えがあれば、すぐにVscanで胸水、腹水の確認ができますし、尿の排泄がいつもと違う場合には膀胱の様子もスキャンできます。心臓の具合が悪い患者さんは、心エコーによって心臓の動き、弁の動き、大きさなどを必ずチェックしています。

 私ではなく、当クリニックの別の医師が経験した症例ですが、70歳代の男性患者さんで重度の慢性心不全のケースがありました。SpO2がいつもより低下していて、聴診したところ、胸水貯留が疑われました。そこでVscanで検査したところ、かなりの胸水がたまっていることが確認されたので、すぐに循環器科への入院となり、深刻な事態には至りませんでした。

 頻尿を訴える患者さんの場合は、膀胱の残尿量をVscanで調べ、残尿量が少なければ蓄尿障害の薬剤を処方するなど、素早い対応ができます。また、肝炎ウイルスによる慢性肝炎の場合は、肝癌の有無を訪問診療の場でVscanを使ってチェックするなど、次の一手を打つかどうかを判断することが可能です。

「患者さんと家族が納得して選び取ったことを、全身全霊をかけて支援したい」と永井氏は考えている。

在宅医療の重要性を訴える宣言文を学会で発信
 高齢化が進み、多死社会を迎える今、在宅医療はますます重要性を増しています。そこで、私が大会長を務めた今年3月の第15回日本在宅医学会大会では、主文と5項目の内容からなる「終末期の医療と介護に関する松山宣言」を発信しました。ここに、私の在宅医療への思いが全て込められています。以下にその内容を記します。

 『多死社会を迎え、避けられない死から目を背けず、患者にとっての幸せや生き方に向き合う医療と介護を提供しよう』

(1)住み慣れた自宅や施設で最期を自然に迎える選択肢があることを提案しよう。
(2)治すことができない病や死にゆく病に、本人や家族が向き合える医療と介護を提供しよう。
(3)本人や家族が生き抜く道筋を自由に選び、自分らしく生きるために、苦しさを緩和し、 心地よさを維持できるよう、多面的な医療と介護を提供しよう。
(4)最期まで、本人が自分らしく生ききることができるよう適切な医療と介護を提供し、本人や家族と共に歩んでいこう。
(5)周囲の意見だけで選択肢を決定せず、本人の生き方や希望にしっかりと向き合って今後の方針を選択しよう。

 私が在宅医療を続けているのは、国が推進しているからでも、高齢者が増えているからでもありません。そこに私を必要とする患者さんや家族がいるからです。そしていつか再び、僻地の診療所の医者になり、一つの地域を丸ごと診たいとひそかに考えています。それが私の医者としての原点だからです。