診療の目的は「その人を幸せにすること」と当然のように考える善晴氏は、治療だけでなく、生活の質を改善することにも力を入れている。「そのためには、その人と家庭を知ることが大事になってきます」と善晴氏。これまでどんな生活を送ってきたのか、夫や妻、あるいは親、子ども、孫と一緒にどんな暮らしをしているのか、などを知って初めて、患者が何を求めているのかが理解でき、その人が毎日を過ごす上で望む支援が可能になるという。

 また、訪問診療を継続していくうちに、外来に通院してくる患者や家族の姿からは知ることができない多くのことにも気づかされたという。「例えば、患者本人が毎日の生活を続けるのが困難になってきていること、介護しているご家族が苦労していたり疲労していることなど、診察室では聞けない、あるいは本人が話せない様々な暮らしぶりが見えてきます」(善晴氏)。これらの情報は、「その人を幸せにする」方法を検討する上で大切だと考えている。

「患者さんの生活の質を改善するには、その人と家庭を知ることが大切」との考えから、福田善晴氏は患者の診療に当たっている。

 その一方、診療所に入院する患者が、少しでも心地良く療養できるように気配りもしている。例えば、3階の食堂には大きな窓と高い天井を設け、明るい雰囲気にした。「勤務医時代、食事が病室に配膳され、そこで冷めかけた食事をする患者の姿を見るのが悲しかった」という福田氏。「温かい食事を病室ではなく、食堂で食べてもらう」ことにこだわり、当時としては斬新なデザインのぜいたくな空間を作った。「おカネを生まないスペースが診療所や介護施設のあちこちにありますね」と福田氏は笑うが、これらは患者や利用者の望みを聞いて作ってきたものばかりだ。

 「満足してもらおうと思ってやってきたら、こうなっただけ。結果的に、革新的なことを他より先んじて取り入れることになりました。施設のハード面、運営のソフト面、いずれも良いものだと自負しています」と、にこやかな表情ながら、福田氏は自信を見せる。

高知市北部に密着してサービスを充実
 通所介護サービスの事業所を2000年に開設し、これにより、外来、入院、在宅の医療と介護のサービスを一通り整えることができた。しかし、開業から数年が経つと、自宅で暮らしたい希望を持ちながら、在宅生活が困難になる高齢者が増えてきた。そこで「自宅と同じように暮らせる老人ホームを作ろう」と考え、社会福祉法人秦ダイヤライフ福祉会を設立し、特別養護老人ホーム「あざみの里」を開設した。あざみの里は、四国で初めて個室・ユニットケアの体制を取り入れた特養で、入所者を10人以下のグループに分け、家庭的な雰囲気の中でケアを行う施設だ。

 入所者の生活の自立を支える施設を作ったのには理由がある。診療所を開業後、ある特養の嘱託医をしていた善晴氏は、診察日になると、60人もの入所者が車椅子で診察室の前に並ぶ様子を見て驚いた。そこで、診察は入所者の部屋で行うことにしたという。さらに、食事や入浴のときも、そのたびに入所者が列を作っている光景を見て、「自分の望む時間に食事を摂ったり、風呂に入ったりすることはできないのだろうか」と疑問を感じたという。「あざみの里」の開設を決めてからは、各地の個室・ユニットケアの特養を見学し、設計に取り入れた。

 秦ダイヤライフ福祉会には、特養のほか、有料老人ホーム、小規模多機能ホームなど8つの施設があり、大和会とともに、幅広い事業を展開することになった。しかし善晴氏は、今後さらに事業を積極的に拡大することは考えていないという。「自分の目が届く範囲は狭いので、施設は高知市の北部に限定します。“家族”をどこまでも増やすことはできないし、小さな『しあわせ村』を作れればよいと考えています」と善晴氏は語る。

 「手広く事業を広げているように見られますが、全ては、患者さんや入所者、家族など地域の人の声を聞き、それに対応してきただけです。新しいことをやろうとするたびに不安も生まれますが、なぜか、これまではうまくいきました」と善晴氏は照れながら振り返る。そして「これからも地域の人たちが望む生き方を支えていきたいです」と控えめに抱負を語った。