超音波診断装置で精査しようとすると時間がかかります。例えば、腹部を全てエコーで検査しようとすると、私のようなベテランでも10〜15分は必要です。そのため実際には、腹痛を訴える患者さんが来た場合、全ての人にエコー検査を行う必要性はありません。ただ、問診や聴診、触診、打診だけだと、よく分からないことも少なからずあります。

 こうしたケースで有用なのが、起動時間が速いVscanです。疑わしいと思った部位にだけ、すばやくプローブを当てて画像をチェックできます。救急医療で、お腹の中や心臓周囲、胸の中に出血があるかどうかを確認する超音波検査(FAST)を、通常の診察の一部に組み込めるわけです。血尿があれば、腎や膀胱を即座にスキャンできます。

疑わしいと思った部位があれば、通常は検査室でエコー検査(上)を行うが、起動時間が速いVscanを診察室で使うこともある。

 このように、胸痛、腹痛、腹部の張りなどがある場合、Vscanで検査すれば、胸水、腹腔内出血、腹水、膀胱の膨らみなどが把握でき、精査すべきか、直ちに処置すべきか、経過を見るか、という振り分けができます。

 当院では、訪問診療に向かう医師と看護師がVscan を1台ずつ携行しており、機動性の高い診断装置だと評価しています。私も、訪問診療でVscanによるエコー検査を行った次のような症例を経験しています。

 この患者は、肺炎を繰り返す、下半身麻痺のある高齢の男性です。尿量減少がしばしば認められることが過去に何回かあり、そのたびに腎前性か、腎性か、腎後性かの鑑別に苦慮していました。

 その日は夜遅い時間に家族から連絡が入りました。発熱と尿量減少、腹部膨満があるということです。しかし、下半身麻痺のため、腹部の訴えの原因がよく分からず、腸管ガスか、腹水か、尿閉に伴う膀胱充満なのか、家族の話だけでは不明確でした。そこですぐに往診し、Vscanで腹部のエコー検査をしました。

 その結果、膀胱内に導尿カテーテルのバルーンを確認し、尿は少量しか認められず、水腎症もありませんでした。腸管内ガスの増加を認めましたが、腸の動きなどには異常がなく、腹水も認めませんでした。腎前性の尿量減少であることから、点滴を増量し、経過を見たところ、尿量の増加を認め、バイタルも安定していきました。

 尿量減少への対処は、腎前性か腎性か腎後性かで根本的に異なります。重篤なショックなど腎前性の場合は緊急処置が欠かせず、腎性の場合は腎機能の評価も必要になってきます。腎後性の場合は尿路系の評価が必要で、こうした鑑別の際に、Vscanによる評価も参考になると考えています。

 私は、血管・循環器の診療を得意分野としていますが、地域医療で求められているのは、総合的に診療し、患者さんが納得のいく質の高い診療を提供することです。その実現のため、血管・循環器という専門領域での技術を向上させるとともに、例えば超音波診断装置なら心臓や血管だけでなく、腹部など全身をスキャンし、的確な診察を行えるよう、研さんを積んでいます。将来は地域の人々から「具合が悪くなっても、松尾クリニックに行けば何とかなる」と言われるよう、私の診療技術を生かしていきたいと思っています。