私は、日本の臨床現場に超音波診断装置が登場したころから、診察に用いてきました。当初は超音波ビームを手動で操作していました。やがて機械的にスキャンできるようになりましたが、今では考えられないほど原始的な装置でした。画像も、超音波を発信した瞬間に反射(反響)してくる信号を白か黒で表示するだけで、濃淡のない画像をその都度目視していました。従って、診断対象となるのは、動きの少ない腹部の臓器だけでした。

 その後、反射信号のデジタル化など新しい技術が驚くほどの早さで実用化され、グレースケールで濃淡が表示されるようになりました。ドプラモードによって心筋や心臓の弁など動きの速いものも画像化できるようになり、それらの画像は動画として保存可能になりました。

松尾氏は、血管エコー検査だけでなく、問診、聴診、血液検査、血圧測定などの結果を加味して診断している。

 こうしたエコーの進歩を常に見てきた私は、それを血管の状態を観察することに応用したいと思っていました。エコーなら、例えば、頸動脈のIMT(内膜中膜複合体厚)やプラークの有無など、血管の状態をそのまま見ることができます。心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントのリスクを評価する上で、患者さんの頸動脈をエコーで診察し、動脈硬化など血管病変を早期に発見することは、発症予防、早期治療に有用です。実際、血圧や血液検査の結果が正常な場合でも、エコーで頸動脈を見ると、プラークが付着しているケースは数多く経験してきました。

 松尾循環器科クリニックを開業した私は、自院でこうした診療を実践する一方、後述するように「血管無侵襲診断セミナー」などを通じて血管エコーの普及のために全国を駆け巡ってきました。しかし、開業10年目を迎え、60歳となって体力的な問題も考慮し、2010年に、妻の美由起(院長)が大阪府八尾市で開業している松尾クリニックに経営を統合しました。在宅医療を軸に地域医療に力を注ぐ松尾クリニックで、むしろ私の専門性が貢献できると考えたからです。

 現在は、週3日は松尾クリニックで、週2日は吹田市江坂に開設した「松尾血管超音波研究室」で診療と研究に当たっています。

専門医の診断をバックアップ
 超音波診断法の進歩によって、血管エコー診断ができるようになったからといって、それだけで患者さんの状態を把握することはできません。問診、聴診、血液検査や血圧測定など、一連の診察の中に取り入れてこそ、血管エコーはその有用性が高まり、患者さんの全身の状態を俯瞰することができます。循環器の専門医の診断をバックアップするのがエコーの役割であり、私たち脈管専門医の役割でもあります。

 そう考えたからこそ、私は血管エコー診断を行う医師や技師、看護師の技術向上のために、血管無侵襲診断セミナーを継続的に開催してきました。座学ではなく、実際に血管エコー診断を体験することによって、1人でも多くの医療者が、動脈硬化に由来する動脈疾患、血栓と関連する静脈疾患などを早期に把握できるようになることを目指しています。