宮古島での医療活動を考え始めたとき、移動式の診療形態と連動した電子カルテを検討しました。それが現在の電子カルテ「ドクターゴン訪問診療システム」です。

 元になったのは、私が東京女子医大に勤務していたときに作ったシステムです。これは、救命救急センターの入院台帳と手術台帳などを電子化しただけのものでした。理想は、外来も含めた患者データの一括管理でしたが、何しろ巨大病院である上、それまでのデータは全て手書きでしたから、統合するのは困難でした。そこで、ドクターゴン訪問診療システムでは、患者さんの情報を一括管理できるようにしたのです。

 今までの医療は基本的に、風邪でもけがでも、具合の悪い患者さん本人が病院に出向いて受診しなければなりません。高齢者や重病者ほど医療へのアクセスが難しい状況になっていて、患者ニーズに合った医療とはとても言えません。その結果、救命救急センターには、症状が悪化した慢性疾患患者が頻繁に搬送されているのです。

ノートパソコンを常に持ち歩き、電子カルテで患者データを管理している。

 宮古島では、97年時点で65歳以上の高齢者は人口の25%を超えており、慢性疾患の罹患率も全国平均より高い状態でした。それだけに、症状が悪化する前に診療できる体制が必要だと思いました。

 最初は、キャンピングカーを改造して、団地や街角など人の集まりやすい場所に車を停めて診察しようと考えました。ところが法律では、診療行為は届け出をした医療機関内で行わなければならず、会社や学校、人の集まるところでみだりに診察してはいけないこととされています。

 検討を重ねた末、往診または訪問診療が、私の目指す医療に近い形態だという結論に至りました。ICUで使っている機器の多くが小型化が進んでおり、車に積める機材でかなりの診療ができることも分かりました。

 電子カルテでは、まずパソコンに患者さんの名前、住所、生年月日を入力する患者記録を作りました。さらに、処置や処方の記録とそのコピー機能、医療費の計算、処方箋書式のファクス送信機能などを付け加えていきました。これが電子カルテ「ドクターゴン訪問診療システム」の原形です。

患者の生活に合わせた医療のあり方を第一に考えている。

 現在は、これよりかなり進んだシステムになり、スタッフが増えても交代しても、全ての情報をリアルタイムで診療所のパソコンの画面で確認できる上、処方箋や診療情報提供書などを必要な施設に迅速に送ることもできます。次回訪問予定時刻も、すぐに調整、確認できます。

 また、ほぼ100%院外処方のため、高齢の患者さんが自分で調剤薬局に行けない場合、処方箋を当院から薬局にファクスで送信。薬局では私たちの診療後に薬剤師が患者さんを訪問し、薬を渡すだけでなく、薬をきちんと飲んでいるかどうか確認してくれています。飲めていない場合も、どうすればよいかを患者さんや家族と相談して、服薬コンプライアンスの向上につなげています。

 こうした仕事の効率化は、一人では病院に通えない患者さんのニーズに柔軟に対応できる医療の実現、つまり患者さんの生活に医療の形態を合わせることになるのです。とても大切なことだと考えています。

余計な治療はしない、でも徴候は見逃さない
 日常診療で心がけているのは、余計な検査や治療はしないこと、でも決して重要な徴候は見逃さないことです。

 検査をやりすぎると、数値に振り回されて、患者さんがどういう状態なのかが逆に見えにくくなります。検査結果にだまされる、ということです。薬の処方も慎重にしています。患者さんの今の生活に、何が必要なのかを見極め、なるべく少ない薬でQOLを維持することが大事です。

 私はもともと外科医であり、救命ICU医でもあるので、在宅でもある程度の小手術はできますが、それをやるかどうかは、患者さんや家族の意向を十分にくんでから決めています。

「患者さんと接するスタッフの話は重要です」と語る泰川氏。情報交換はこまめに行う。

 一方で、いつもと違うちょっとした変化には、特に注意しています。訪問看護師やケアマネジャー、薬剤師など、患者さんと接するスタッフの話は重要な情報です。少しでもおかしいと感じたら、迷うことなく訪問して検査し、処置、治療を行います。

 これらを実現するには、患者さんや家族と目線の高さを合わせることが欠かせません。幸か不幸か、勉強の成績が悪かったせいか、私は子供のときから、いろいろな人間と交流しながら(いたずらも含め)育ってきました。この世の中には多様な人が多様な考えを持って、多様な暮らしをしていることを、肌で理解しています。

 そうした私の背景が、恐らく患者さんや家族にも伝わるのでしょう。私は医者としてではなく、まず人として「いい人」と思われ、それが診療にいい影響を及ぼしていると自負しています。