動脈硬化性疾患の改訂ガイドラインに沿えば、“無駄”な治療を控えることができる一方、LDL-Cが140〜179mg/dLの女性では薬物治療が必要な例もあり、どう対応したらよいか難しいことがあります。ここでは、頸動脈エコーを活用した私の試みを紹介します。

 先ほど述べたように、私は動脈硬化の進展抑制の因子として脂肪酸に注目し、危険因子のある人の血液検査では必ず測定しています。LDLやHDLなどのリポ蛋白は、アポ蛋白、コレステロールエステル、リン脂質、中性脂肪などで構成されています。そのうちコレステロールエステル比率が最も高いのがLDLです。そして、コレステロールエステルやリン脂質の脂肪酸の主成分は、リノール酸、アラキドン酸などのω6系不飽和脂肪酸や、魚に含まれるEPAやドコサヘキサエン酸(DHA)などの ω3系不飽和脂肪酸です。

田中氏は頸動脈エコーの結果や血圧、LDL-Cなどを基に、患者の治療方針を検討する。

 こうしたことから、魚をよく摂取する日本人では、LDL-Cが高くても、ω3系不飽和脂肪酸が多いため、プラーク形成が促進されず、動脈硬化が進まないと考えられます。そして実際に当院で頸動脈エコーの結果と血清脂質、脂肪酸の関係を見たところ、非高血圧の女性でLDL-Cと正の相関があったのは、リノール酸とEPAだったのです。

高血圧かどうかがプラーク形成に大きく影響
 また私は、頸動脈エコーの結果と年齢、血圧、LDL-Cなどとの関係を、55〜69歳の女性について調べました。頸動脈エコーでは、頸動脈球部と内頸動脈の間の最大肥厚部と、総頸動脈の最大肥厚部の2カ所を測定します(最大IMT)。

 まず血圧との関係を調べた結果、総頸動脈最大IMTについては、非高血圧症で1mm以上の人は少なく、高血圧症では1mm以上の人が多いこと、頸動脈球部最大IMTについては非高血圧症でも1.6mm以上の人がいるので注意が必要であること、高血圧症では年齢に関係なく1.6mm以上の人がいることが分かりました。

 次に、LDL-Cと総頸動脈最大IMTとの関係を調べると、非高血圧症では1mm以上は少なく、高血圧症でも1mm以上の症例の出現とLDL-Cの値とは関係がないことが認められました。ところが、LDL-Cと頸動脈球部の最大IMTの関係を見ると、非高血圧症でもLDL-Cが180mg/dLを超えると1.6mm以上のプラークが急増していることが判明しました。

 そのため私は、非高血圧の女性の場合は、LDL-C 180mg/dL以上を目安に治療を開始しています。一方、高血圧の女性では、LDL-Cの値にかかわらず、1.6mm以上のプラークが認められることから、この人たちにはスタチンを投与しています。

 またその後、対象年齢を45〜69歳の女性に広げて検討したところ、高血圧症では年齢に関係なく、1.6mm以上のプラークが認められました。この結果から、高血圧かどうかがプラークの形成に大きく影響していること、若年者でもプラークを持つ人がいることなどが分かりました。

 頸動脈エコーを活用すれば、改訂ガイドラインでカテゴリーIとIIに入る女性のうち、治療が必要な人を選択できると考えられます。また、LDL-Cが 140〜179mg/dLの女性の管理にも、頸動脈エコーは有用と思われます。

 もちろん、これらの検査結果だけに頼るのではなく、患者さんをきちんと診ること、そしてその人の生活背景を把握した上での生活指導や治療を行うことが重要であることは言うまでもありません。