男性と女性には生物学上の性差があることは当然ですが、食事などの生活習慣にも違いがあります。そうした男女の違いを踏まえた診療が重要だと考えています。

 性差については、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」で、「わが国の冠動脈疾患発症率は欧米に比べて極めて低い」と明記した上で、「リスクを決定しているものとして、性別と年齢が極めて大きな寄与度を持っている」「絶対リスクを用いることにより、性別や年齢の問題は解消できる」としています。

 また疾患のガイドラインは、病気の兆候を早く見つけ、治療も早めに開始することを目的としていると思われがちですが、開業医にとっては、いかに無駄な治療を行わないかの目安として重要です。

田中氏は「男性と女性には食事などの生活習慣に違いがある」との考えに基づき、患者へのきめ細かい生活指導や治療を行う。

 この動脈硬化性疾患の改訂ガイドラインは、NIPPON DATA 80に基づく10年間の冠動脈疾患による死亡確率(絶対リスク)を、動脈硬化性疾患の一次予防の管理区分に導入した点が特徴です。さらに、一次予防では「LDLコレステロール(LDL-C)が180mg/dL以上を持続する場合は、薬物療法を考慮する」と記載され、180mg/dL未満者への不要な治療を排除する意図が込められました。また、2007年版では55〜59歳の女性はLDL-Cの管理目標が140mg/dL未満となっていましたが、これも160mg/dLに緩和されました。

 これらの改訂の背景となったのは、同じLDL-Cのレベルでも、欧米人に比べ日本人は冠動脈疾患の発症が少ないだけでなく、動脈硬化が進行していないことです。これは、私が現場で診療して実感し、主張してきたことでもあります。

 絶対リスクが導入された改訂ガイドラインを臨床現場に反映すれば、一次予防でカテゴリーI(絶対リスク0.5%未満)の女性では、LDL-Cが160〜179mg/dLの人への投薬は控えられます。また、2007年版ではカテゴリーIIだった女性がカテゴリーIに下がれば、服薬中止も可能になりました。

LDL-Cが高く、脂肪酸が低い人には「魚を食べるように」
 一方、一次予防では、生活習慣の改善を行うことが最初に求められていますが、この生活習慣の指導内容にも男性と女性では違いがあります。私は血液検査で脂肪酸の推移を調べ、非高血圧の女性(45〜69歳)では、LDL-Cとエイコサペンタエン酸(EPA)、リノール酸が正の相関にあることを見いだしました。従って、LDL-Cが高く、EPAが低い人には「魚を食べるように」と指導しています。

 ところが実際には、魚を食べているのに、EPAが高くならない女性が少なくありません。そこで調理法を聞くと、女性は魚を調理する際、フライパンに植物油をひいて炒めるように焼く方が多く、これがEPAの摂取が減る一因と考えられます。ω3系不飽和脂肪酸(EPAなど)も、ω6系(リノール酸など)も同じ酵素で代謝されることから、リノール酸を多く摂取することでEPAへの変換が少なくなると考えられるからです。このように食材だけでなく調理法にも性差があり、こうした細かい点への配慮も患者指導では大切です。