佐賀県武雄市のニコークリニックは、内科、循環器科、皮膚科の外来診療に加え、在宅診療にも力を入れている。理事長の田中裕幸氏は「循環器疾患には性差がある」との持論から、「女性のコレステロールと動脈硬化を考えるクリニック」を特色として打ち出し、診療に頸動脈エコーを活用している。

 私は、もともと開業志向ではありませんでした。勤務医としてキャリアを重ねる中で、家族も含めた人生設計を考え直し、開業に踏み切りました。クリニックの開設に当たっては、出身地の佐賀の地域特性、手持ちの資金などから診療の特色や対象とする患者層などを検討しました。

ニコークリニック
1994年に、理事長の田中裕幸氏の出身地である佐賀県武雄市に開設。内科、循環器科、皮膚科の外来診療に加え、在宅診療を手がけている。
写真:諸石 信(他の写真も)

 出身大学は長崎大ですが、将来は生まれ育った佐賀で仕事をする可能性もあると考え、卒業後は九州大学の皮膚科に入局しました。その後は、学生時代の友人のつてで久留米大の第三内科(循環器科)に8年半ほど勤務しました。

 さらに、市中病院で循環器科医として経験を積み、1994年、40歳のときに武雄市に開業しました。診療所開業医に必要と思われる皮膚科の知識と技術を身に付けるため、開業直前に、佐賀県立病院好生館の皮膚科で改めて研修も受けました。

 私は開業後もずっと勉強を続けてきました。医師は医師国家試験に合格した後も、専門医制度などにより、生涯、勉強を続ける必要があります。年を取ればその分、医師としての経験は積めますが、知識はどんどん古くなります。何もしないと、知識が抜け落ちてしまうのです。

田中裕幸(たなか・ひろゆき)氏
1978年に長崎大学医学部を卒業。九州大学皮膚科に入局後、久留米大学第三内科、大牟田市立病院循環器科医長、春陽会上村病院循環器科医長を経て、1994年に佐賀県武雄市でニコークリニックを開業。2000年に法人化し、理事長に就任。

 ですから、臨床だけでなく最新の医学にも興味を持ち、英文雑誌を読むなど、新しい知識を常に吸収するようにしています。勤務医時代にももちろん勉強しましたが、これは大学医局での処世術という側面がありました。今は、患者さんのために勉強しています。

学会の高脂血症診療ガイドラインに疑問抱く
 こうして得た知識と、日々の診療から得た患者さんのデータを基に考察した成果は、論文として発表してきました。もともとは日本動脈硬化学会の高脂血症診療ガイドラインの基準となるコレステロール値について疑いを持ったのがきっかけです。

 最初の論文は、2000年に武雄杵島臨床医学誌に投稿した 「女性に対する脂質低下療法による冠動脈疾患予防にエビデンスはあるか」です。当時の高脂血症診療ガイドラインでは、年齢の危険因子が男性は45歳 、女性は閉経後とされ、薬物療法の対象は、危険因子のない場合の総コレステロール値240mg/dL以上などとなっていました。

 しかし、スタチンによる臨床試験の結果や、米国心臓協会/米国心臓学会(AHA/ACC)の冠動脈危険因子に関する報告書を検討すると、年齢の危険因子は男性55歳、女性65歳であり、女性に薬物療法を開始する際の総コレステロール値は260mg/dL以上でよい可能性がありました。そこで私は論文の中で、学会のガイドラインは、女性の高脂血症治療にエビデンスを持っておらず、 医療の現場を混乱させるだけでなく、医療保険制度を破綻させる可能性すらある、と述べたのです。反響は大きく、『日経メディカル』にも取り上げられました。

 開業当初は、地域の人たちの健康を守るために幅広い領域の診療を行うことを心がけていましたが、こうした経緯から、性差を考えた医療の重要性を改めて認識するようになりました。そして、ホームページにも掲げているように「女性のコレステロールと動脈硬化を考える」ことを強く意識して、患者さんに向き合っています。実地医療の積み重ねが、専門性を高めたといえます。