時間との戦いである救急・災害医療の進化に不可欠なIT

GEMITSアライアンスパートナーズ主催市民フォーラム

岐阜大学大学院医学系研究科教授でGEMAP会長である小倉真治氏

 3月11日、東京商工会議所東商ホールで、GEMITSアライアンスパートナーズ(GEMAP) 主催の「平時から災害時に耐え得る医療を目指して〜病院前から病院内まで情報通信技術が支援する〜」と題した市民フォーラムが開催された。

 GEMITSとは、救急医療における全体最適化である「Right patient to the right hospital」を基本理念とし、岐阜大学を中心とした産学連携事業体が国の事業との連携を図り、救急医療体制システム構築を進めるプロジェクト。GEMITSアライアンスパートナーズは、救急医療の全体最適化を目指すGEMITSの構築と、各地域に存在する医療・健康情報のシステムとオープンな連携を目指すと同時に、市民・医療・健康機関が利活用できるアプリケーションの整備・開発推進を行っている。

●人材、搬送手段、情報伝達手段の充実が重要

MEDICAとAndroid端末

 総務省制作統括官 佐藤文俊氏、内閣官房情報通信技術担当室 内閣参事官 有倉陽司氏の挨拶に続いて、岐阜大学大学院医学系研究科教授でGEMAP会長である小倉真治氏が基調講演を行った。

 「救急医療、災害医療の共通項は“時間との戦い”。時間がないからこそ、支援のためにITが必要だ」と小倉氏は語る。「Right patient to the right hospital」、つまり、患者を最適な病院へ届けるには、患者の病状と病院の設備や受け入れ体制をしっかりマッチングさせる必要がある。しかし、都市部では、複数ある候補の中から病院を絞りこむのに時間がかかっている。一方郡部では、病院自体が少ないためすぐ決まるものの、その病院が患者にとって必ずしも最適ではないケースが生じているという。

 「場所に届けるのではなく人に届ける、と最初に言ったのは私。これを実現するために、救急から医療に関わる人材、搬送手段、情報伝達手段の三点の充実が欠かせない」と小倉氏は主張する。

 これまで、患者に関する情報は病院に属するという考え方が強く、患者情報の共有は進まなかった。そのため、重複検査や重複投薬など患者にとって不都合な事態が生じている。そこで、患者に関する情報は患者が所有して、それをどの病院でも活用できるようにしようという「どこでもMy病院」構想が、内閣官房、総務省、厚生労働省、経済産業省など関係省庁連携のもと進行中だ。

 GEMITSでも、MEDICAと呼ばれるICカードを患者が携帯する試みを行っている。そのカードに、アレルギーの有無、薬物治療の有無、現病歴・治療歴などを記録し、救急搬送の際、救急隊が持つAndroid端末でそれらの情報を読みこみ、時間的に早く、質的に確実な情報を収集しようというものだ。GEMITSによると、MEDICA使用によって意識が正常でない患者について、情報取得の正確さが向上するという実験結果が得られているという。現在、岐阜県内では9000人以上がMEDICAを携帯している。

 一方、災害医療では、東日本大震災の発生時、GEMITSはDMAT(災害医療派遣チーム)として、岩手県大船渡市・釜石市に入った。そこで実感したのは、指揮系統、情報発信、連絡手段の不備だったという。小倉氏は「GEMITSのドクターヘリは、日本で初めて地上に患者情報を送る機器を搭載しており、大きな効力を発揮した。これもGEMITSでは病院間情報連携の一環と認識している。GEMITSメディカルシステムは、平時から災害時まで幅広く活用可能。宮城県、福島県にも提案中だ」と締めくくった。

 続くパネルディスカッションでは、昭和大学医学部 救急医学講座 教授 有賀徹氏、東京医科歯科大学大学院 疾患生命化学研究部 教授 田中博氏、東北大学大学院 医学系研究科 教授 冨永悌二氏、公益財団法人 東京防災救急協会 専務理事 野口英一氏の4氏がパネリストとして登場。小倉氏をモデレータとして「災害時を想定した医療のあり方」をテーマに議論を展開した。具体的には4氏がまずそれぞれに提言を行い、その後各氏の提言について小倉氏を交えて自由に意見交換するという形で進行した。

 有賀氏が訴求したのは、災害時医療に行われるトリアージの平時医療への導入である。近年は、救急搬送される患者の半数近くが、軽症あるいは治療後数時間で帰宅できる程度の症状であるという。そこで、救急隊と病院が同じトリアージの尺度を共有し、体系だった問診の後にステータスを決定、「低緊急度レベルなら受け入れられる」「緊急でないから自力で病院へ行ってもらおう」と優先順位をつけながら意思決定を行えば、医療の最適化が図れるとした。

●期待は大きいものの、現状は限界もあるIT

パネルディスカッション風景

 田中氏は、病院完結型医療から地域連携型医療への転換について提言した。地域連携型医療で日常生活圏、2次医療圏、全県域と階層を設け、クラウドなどITを活用してそれら階層間を間断なく結びながら、災害に強い地域包括ケアを構築することを訴えた。

 東北大学の冨永氏は、「震災直後通信手段が遮断され、状況がなかなか把握できなかった」と当時を振り返った。一連の経験を踏まえて、現在東北大学は東北メディカルメガバンク事業を立ち上げている。この東北メディカルメガバンクとは、患者・住民の生体情報と診療情報、診療サンプル保管を三世代コホートにわたって一元管理するというもの。冨永氏は「日本の医療改革と臨床医学研究振興に必須の基盤になる」と語った。

 救急隊が真に必要とする情報を明らかにしたのは野口氏である。東京消防局では、救急搬送活動時、基本的には、日々病院が受け入れ可能状況を入力する救急医療情報システムの情報に基づいて、搬送病院を決定することになっている。「現実にはシステム上の情報だけでは不十分。病院決定には“少々無理してでも受け入れてくれる医師がいるか”“その病院で治療不可能な場合転送体制が整っているか”、といった救急隊員の経験情報が欠かせない」と吐露した。

 意見交換では、平時医療トリアージのIT化は可能か、災害現場でスムーズに動くためDMATの指揮系統はどうあるべきか、救急医療で迅速に受け入れ病院を決定するにはITを含め現状の体制をどう改善すべきか、といった話題で議論が白熱。一方で、モデレータである小倉氏、パネリストとともに、「高レベルの救急医療を実現するには、市民のコミットメントとコスト負担も不可欠」と聴衆に理解を求めていた。

(吉田 育代=フリーライター)

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