生涯にわたってデータを記録していくPHRが必要

地域医療福祉情報連携協議会第3回シンポジウム地域医療福祉情報連携協議会第3回シンポジウム

パネルディスカッションの様子

 2月4日、東京医科歯科大学 M&Dタワーで行われた地域医療福祉情報連携協議会の第3回シンポジウム第2部は、「放射線と健康リスクをいかに考えるか?」と題してパネルディスカッションが行われた。

 パネリストとして、福島医科大学 副理事長 竹之下誠一氏、飯館村 村長 菅野典雄氏、元朝日ジャーナル編集長 下村満子氏、東京医科歯科大学大学院 疾患生命科学研究部 教授 田中博氏の4氏が参加。フジテレビ 反町理氏をモデレーターに、昨年3月11日から福島の経験した日々を振り返るとともに、福島の今後と日本人のめざす道について活発な議論が展開された。

医療ITは住民の健康にどんな貢献ができるか

 飯舘村村長である菅野氏にとって、東日本大震災からの11カ月は文字通り苦難の日々だったという。生活リスクより健康リスクを考えるべきと避難を強いられ、村を離れることを余儀なくされた。現在、村民の9割弱が村から1時間弱の拠点に住まいを構えているが、世帯数は1700から2700に増えた。なんらかの事情で一緒に暮らせない世帯の分離が発生しているからだ。仕事を持っているのは村民の6割強という状況で、「復興計画を立案中だが、帰村できそうなのは村民の7割程度。これでは村の復興にならない」と菅野氏は嘆く。
 
 一方、下村氏は震災直前に郷里福島で立ち上げた「生き方塾」が、震災後「生きるとは何か」を考える格好の場になったという。この一年、福島の人たちと向き合ってきた塾で目の当たりにしたのは、自分は安全圏に身を置きながら無責任にネガティブ情報を発信し続けるメディアの姿だった。「ここで生きていく人たちを、そこまで追いつめてどうするのか」と同氏は憤る。菅野氏も「飯舘村より放射線量が高かった」「甲状腺がんリスクが飯舘村では何百人に一人」などといった報道が毎日のように流れ、メディアとは戦いの連続だったという。
 
 「福島県立医科大学は、今回の震災で災害対策本部のような役割を果たした」と竹之下氏は振り返る。県庁では、職員を県内各地に派遣したこともあって、全容把握が困難だった。しかし同大学は、人も情報も集中したため、統制を取りやすかった。「日本全国から災害医療、被ばく医療の専門家も大勢支援にかけつけ、オールジャパンで治療体制を確立できた。今や全県民200万人が病気になっても、全員ここで治療するという意気込みに満ちている。世界に誇れる復興モデルが出来上がりつつある」と現状を語る。

 「医療という観点から見て今回の震災における痛恨事は、津波でカルテを流され、医療の記録が失われてしまったことだ」と発言したのは田中氏だ。医療データを電子化してサーバーでの保管を進めれば、今回のようなデータ喪失は起こらないという。「福島県では、これに加えて、被ばくの影響を調査するため県民の健康を長期的に追いかけていきたい。それには、生涯にわたってデータを記録していく必要がある。これが欧米のようなPHR(Personal Health Record)の仕組みを立ち上げる契機になれば」と期待を語った。
 
 話題が放射線量の基準をどう考えるかに移ると、竹之下氏は“ミリシーベルト”という専門用語での説明が混乱を招いていると指摘した。「大気中の放射線量という観点でいえば、今より1980年代の東京の方がずっと高かった。発がんとの関係をいうなら、たばこを止める方がよほどリスクを下げられる。放射線量は相対評価で考えたい」(竹之下氏)。
 
 飯舘村はこれにもずっと悩まされてきた、と菅野氏は心情を吐露する。「危ないと書く方が売れるから、そういう本がたくさん出回る。日本人はすぐ白か黒かの二元論で語ろうとするが、世の中にはグレーなこともある。国は世間の目が基準になっているようだが、ブレないでくれといいたい。除染するから安心しろといいながら、あとで農作物を買い上げるという。数字とテーブルだけで決めるのではなく、ふるさとや家族、田畑、家畜を思うわれわれの心を入れてほしい。自治体にも裁量権が欲しい。権限と財源が欲しいからいうのではない。われわれは当事者なのだ」と同氏は訴えた。下村氏も「政府は自分が責められない方法ばかり考え、メディアは責めてばかりいる」と菅野氏に深く同意する。

転換期を迎えたという認識を日本全体で持ってほしい

 下村氏は、当地で「福島から逃げるべきか」という相談をよく受けるという。「同じ環境にいても、インフルエンザになる人とならない人がいる。病気になるかどうかは、その人の体力やメンタルも大きく関係する。怖れてばかりで、心がネガティブになるのは良くない。200万の福島県民が全員で逃げられる場所などないし、逃げてもストレスがゼロになるとは限らない。だから、『私があなたなら、どうしたらここで楽しく暮らせるかを考える。その方が結果的に長生きするような気がする』と答えている」(下村氏)

 福島のこれから、というトピックスでは、竹之下氏が“福島から世界へ”という構想を披露した。「福島では、世界に例のない復興プロセスが日々進んでいる。これ直接世界へタイムラグなく発信していきたい。情報発信特区や薬事法特区のような形で認可を受け、ニュースや画像診断情報などの最新医療データを提供できたらと思う」と語る。
 
 福島の今後は日本の今後、と訴えたのは菅野氏だ。「これまで日本人は快適さを求めて足し算の生活をしてきたが、そろそろ引き算で幸せや豊かさを考える時期に来ているのではないか。福島だけではなく、日本の全国民が大きな転換期を迎えていることを認識してほしい。この大災害で福島だけが苦しんで終わりというのでは、あまりに空しい。リスクコミュニケーションや放射能の勉強をしっかりして、みんなで知恵を出しあって、次世代も世界から尊敬される国を目指さなければ」と強い口調で言葉を結んだ。
 
 下村氏は、震災から1年の今年3月11日、「HUMANBAND on Route 3.11」というプロジェクトを計画している。これは、同日の日の出の時刻に福島に集まり、できるかぎり海沿いに並んで手をつなぎ、太陽に向かって復興を誓いながら鎮魂するというもの。「福島のために何かしたいという方はぜひ参加を」と出席者に呼びかけていた(詳細はhttp://www.humanband.jp/を参照)。

(吉田 育代=フリーライター)

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