あの手この手の工夫でIT化に適応するクリニック、実際の体験を院長自ら紹介

クリニックITフォーラム 2011

 12月11日、メディプラザ主催「クリニックITフォーラム 2011」が、日本科学未来館で開催された。会場では、IT化を検討するクリニックを対象に、ひと足先にIT化を進めてきた先進的クリニックの事例発表が行われた。

麻布医院 院長 高橋弘氏

 最初に登壇したのは、メディプラザ統括マネジャー 大西大輔氏。同氏は、「医療IT最新事情 医療ITの今と未来を探る」と題し、医療の世界における電子カルテ導入の歴史を振り返った。1995年に電子カルテシステムが誕生、1999年に法令で認められた。厚生労働省は、2006年には6割の病院が導入すると見積ったが、2011年現在導入率はまだ約20%にとどまっている。大西氏は、「当初のスピードでは進んではいないものの、今後毎年5%の病院が導入していくとすると、5年後には45%が利用することになる」と、近い将来の本格的な電子カルテ普及時代の到来を予測した。

 IT導入のポイントとして、大西氏は「患者、スタッフ、地域、未来、承継」という5つの項目を挙げた。「クリニック運営の効率化やデータ管理、患者の満足度向上、地域連携、次世代へのバトンタッチを考えると、IT化の流れは必然。電子カルテは医師の負担が大きいという声も根強いが、紙のカルテを残してもいいし、メディカルクラークを育成して操作してもらう方法もある。iPadなど最新端末を利用すれば、今までになく丁寧な病状や治療法の説明が可能になる」と解説した。

●システム選択で最重要なのは「アフターサービス」

 クリニックのIT化実践事例では、トップバッターとして東京・麻布医院 院長 高橋弘氏が演壇に立ち、診療所の運営責任者という立場から講演した。高橋氏の場合、IT化の大きな目的は、都心の限られたスペースを有効活用すること。X線フィルムの電子化に関して、知恵を絞った。撮影と同時にデジタル化し、ネットワークを通じて診察室へ画像データを送信するが、バックアップ分を含めデータ全体をハードディスクに収納している。そのほか、院内外の検査情報管理、予約管理システム、ホームページでの情報発信などにも力を入れてきた。

 同氏は「導入する際に必ずこれらの点をチェックしてほしい」と詳細に項目を挙げた。「診療/検査予約機能があるか、それがWeb予約システムなどと連携できるか、詳細を記述可能な予約票が発行できるか」「医事会計システム機能があるか」「2号用紙や処方箋が自然な思考の流れに沿って作成できるようになっているか」「登録可能な薬剤数は必要十分か」「複数事業者の臨床検査情報取得に対応しているか、必要項目を選んでコピー&ペーストが行えるか」「病名入力を行うための文字変換機能が優れているか」「患者のサマリー情報が作成できるか」「自由診療カルテの作成は簡単か」「価格は機能に見合っているか」などといった点が重要だという。

 ただ、現時点の電子カルテシステムがまだまだ発展途上であることも認識しておくべき、と付け加えた。同院で導入したシステムはときおり突然フリーズすることがあり、その現象が発生するそれまでに入力したデータは消失し、再入力を余儀なくされるという。「患者が目の前にいるのに、システムが動かないから診察ができないというのは話にならない。電子カルテシステムを選択する上で最も重視するべき点は、事業者のアフターサービス体制。それもサポートセンターなどでの対応はだめで、販売を担当した本人が導入後もサポートし続けることを約束し、何かあったら飛んできて対応してくれる企業を選ぶことが肝心」と、高橋氏は自身の経験から得たアドバイスを真摯に来場者に提供していた。

●患者と向き合う診療実現に役立つ携帯情報端末

習志野台整形外科内科 院長 宮川一郎氏

 続いて、千葉・習志野台整形外科内科 院長 宮川一郎氏が登場。同氏は、インフォームドチョイスを実現するためのツールとしてiPadに着目した。インフォームドチョイスとは、インフォームドコンセプトより一歩進んだ概念。医師が患者に治療の方向性を伝えて納得してもらうだけにとどまらず、チーム医療の中に患者に入ってもらい、患者自身が自らの治療のあり方を選択する概念である。iPadを媒介することでそれが可能になるのでは、と同氏は考えたという。

 また、2009年に行われたある調査の中で、患者が行きたくない病院として「医師や病院のコミュニケーション能力不足」という回答がが意外に多いことを知り、「この点を改善することで、満足度向上が図れるのではないかと推測した」(宮川氏)。

 これまで同氏は、iPadを使ってさまざまな取り組みを行ってきた。まずはクリニックの受付にiPadを複数台設置し、整形外科という診療科の紹介や病気の説明を動画で流した。オンデマンドのデジタルサイネージである。当初、利用者は子供たちが中心だったが、最近では年配者もアクセスするようになってきたという。

 2つめは、問診票のアプリ化である。今までは紙の問診票で患者から取得した情報をデジタル化するのに苦労していたが、患者自身にiPadのタッチパネルで入力してもらうことで簡単にデジタル化が実現。電子カルテに取り込んだり、データ分析のためにテキスト保存したり、画面をそのままPDFとして保存したりと、さまざまな面で利便性が高まった。「アプリ化は、現在紙で運用している他の評価票にも応用可能だ」と宮川氏は語る。

 3つめは、患者に対して病状や治療方法を動画で分かりやすく説明するもの。そのためのソフトウエアとして、同氏はOsiriXというオープンソースのPACS ビューワーを活用している。言葉や二次元の絵で説明するのに比べて、「わかりやすくて、見やすくて、手術などに対する患者の不安も、多少なりとも取り除けると思う」(宮川氏)。そのほか、iPadに標準で搭載されている地図アプリやWebブラウザも、患者と情報を共有するのに有効だという。

 iPadは、患者との距離を縮めるのにも役立つという。これまでPCを基点に90度の角度で患者と対峙していたのに比べて、iPadなら肩を並べて画面を見られるからだ。「単に病気を発見して治療するだけではなく、患者にきちんと説明していくこともわれわれ医師の重要な仕事の一つ。それもただ説明するだけではだめで、これからは理解してもらう方法に心をくだく必要がある」と宮川氏は指摘する。

●電子カルテは必須、患者と向き合うためクラークを活用

藤原ENTクリニック 院長 藤原久郎氏

 3つめの事例は、長崎・藤原ENTクリニック 院長 藤原久郎氏から発表された。同院は20年の歴史を持つ耳鼻咽喉科の診療所で(11月19日に一時的に閉院)、電子カルテシステムは10年の導入実績があり、その間1度ベンダーを変更するリプレースを行っている。

 藤原氏自身は、現状の電子カルテシステムに対して、高い評価を与えていないようだ。それは現在の電子カルテシステムが、厳格な真正性や一画面一カルテという規範にしばられていること、内科から端を発しているために耳鼻咽喉科の要望がうまく盛り込まれていないこと、医師の負担が大きいこと、などを理由として挙げた。

 しかし、いったん入れたら紙の時代には戻れず、10年間電子カルテシステムと格闘してきた。そうした中で、藤原氏が見出した現実解は、メモカルテという形で紙の運用を少し残し、同時に電子カルテ入力をメディカルクラークにサポートしてもらう方法だった。

 「電子カルテの導入でこれに神経が行ってしまうあまり、『先生は私の話をよく聞いてくれなくなった』というクレームが出てしまった。一方、メディカルクラークは診断書作成代行や医療事務を担当していたが、そのような仕事だけではモチベーションが上がらず、勉強もしない。そこで、電子カルテ入力を手伝ってもらうことを考えた」(藤原氏)。

 実践した結果、同氏は再び患者に向きあえるようになったという。優秀なメディカルクラークは、病気だけでなく患者の精神状態や家族環境などにまで配慮し、その情報をクリニック全体で共有するように努めたので、院全体のモチベーションが向上した。講演のあと、同氏が診察する際にクラークが電子カルテ入力サポートをするデモが行われた。患者の言葉からキーワードを抽出して的確に記録していく様子は非常にスムーズで、電子カルテを活用する方策の一つとして有効だと感じた。

(吉田 育代=委嘱ライター)

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