宮城県で地域医療情報連携システム構築を構想、など報告

ヘルスケア・イノベーション・フォーラム 第10回事例研究部会開催

 香川大学や四国経済産業局を中心に、地域医療の高度化や個人の健康状態の向上支援と健康関連産業の育成を図る産学官共同フォーラム「ヘルスケア・イノベーション・フォーラム」。その第10回事例研究部会が、9月12日に独立行政法人産業技術総合研究所 臨海副都心センターで行われた。今回も、東日本大震災後の医療プロジェクトについて、健康情報活用について、日本の医療プロジェクトのグローバル展開についてなど、幅広いテーマの研究や取り組みが発表された。

東京医科歯科大学教授の田中博氏

 第10回事例研究部会は、東日本大震災後の医療プロジェクト報告からスタートした。「災害時および復興後の医療IT体制のグランドデザイン」というタイトルで演壇に立ったのは、地域医療福祉情報連絡協議会会長で東京医科歯科大学教授の田中博氏だ。

 田中氏は宮城県を中心に医療支援にあたっているが、今回の震災で医療のIT化が重要であることを再認識したという。津波で紙のカルテが流され、医療現場に大混乱が生じた。ここから平常時に戻るには「単なる“復旧”ではなく、IT化をベースに綿密な地域医療計画を立てた上で理想的な“復興”をめざすことが大事」と田中氏は語る。ここで必要となるのは、「全県域を対象に、地域医療連携体制のきちんとグランドデザインを描くこと」(田中氏)。

●地域医療情報連携構築、Web会議システムの利用可能性などを報告

 現在構想されているのは、階層的な地域医療情報連携システムの構築だ。宮城県を例にとると、全県域レベルとして東北大学を第一次階層に置き、第二次階層では、石巻拡大医療圏、気仙沼医療県など5~6の医療圏ごとに中核病院を指定する。第三次階層は町村レベルで、公立の中小規模病院、診療所、仮設のサポートセンターケア圏が属する。

 次に、災害に強靭な地域医療情報連携を実現する。医療圏には必ず中核医療情報センター(中核病院が担ってもよい)を設置し、電子カルテ上の医療情報を病院の枠を超えて蓄積する。中小規模病院は個々に電子カルテシステムを構築してもいいが、必ず標準化された診療情報を中核医療情報センターにも、VPNなどのネットワーク経由で冗長化する。民間診療所に関しては、データもアプリケーションも自らは持たず、ASP・SaaSモデルで電子カルテを共有するのが理想という。また、この最上位層にクラウド技術を利用した全圏域値域医療情報センターを設置。各医療圏中核病院の診療情報を集積し、災害時は中核病院と連携させるという。

 田中氏は、「その第一歩として被災沿岸地域で小規模な連携試行を行い、その後は公的助成も得ながら徐々に適用範囲を拡張していく」と説明。これと並行して、地域医療関係者間の人的ネットワーク形成も積極的に進めていきたい考えを示した。

●周産期電子カルテシステムが震災で威力を発揮、タイやブルネイでも利用開始

 続いて「震災で威力を発揮した『いーはとーぶ』」と題して、香川大学瀬戸内圏研究センター特任教授の原量宏氏が講演を行った。「いーはとーぶ」とは、岩手県で利用されている新周産期医療情報システムで、香川大学を中心に開発された。インターネットを利用したクラウド型を採用しており、医療機関間・市町村で幅広く医療情報を共有している。妊娠届出情報、妊婦台帳管理、健診情報、分娩情報などを保持しており、岩手県内の40ある分娩施設のすべてと、35町村のうち23町村が加入している。

香川大学瀬戸内圏研究センター特任教授の原量宏氏

 今回の東日本大震災で、同県陸前高田市は津波により甚大な被害を受け、病院や市役所の機能を失ってしまった。しかし、妊婦情報に関しては、「いーはとーぶ」のサーバーにすべてが残っていたため、岩手県立大船渡病院でこのデータを利用して全妊婦の安否・避難状況を把握し、適切な保健指導に当たったという。原氏は「『いーはとーぶ』は10年以上の歴史があり、綿密な計画のもとに発展させてきたシステム。それが今度の震災で確かに役立つことが証明された。接続すればすぐに使えることも大きなメリット。適用をさらに拡大していきたい」と参加者にアピールした。

 原氏の講演内で、大船渡病院と香川大学でテレビ会議が行われた様子が報告されたが、このテレビ会議システムに関する調査報告が続いて行われた。香川大学医学部附属病院 医療情報部特命助教の山肩大祐氏による「電子カルテ機能統合型TV会議システム ドクターコム利用の検討と課題」である。

 ドクターコムは、既存のWeb型テレビ会議システムに、香川県で開発・運用している電子カルテシステムを統合したもの。もともと、病院間や病院と患者間のコミュニケーション向上とコスト・時間削減が開発の主要な目的だった。しかし、大規模災害時において、被災地に対する遠隔医療インフラとしての役割を担う期待が高まった。その可能性について調査するため、山肩氏は東日本大震災後の4月後半、被災地を中心に岩手県内の6カ所で現地調査を行った。

 その結果、「避難所においてもNPO法人などにより仮設無線LAN環境が提供されており、そうした場所ではドクターコムは利用可能だった。また仮設住宅も避難所に隣接した場所に建設されるケースが多く、引き続き利用は可能と予想している」(山肩氏)。ドクターコムは近い将来スマートフォンでも利用可能になる予定で、これを踏まえて患者の自宅を訪問する看護師や保健師によるシステム運用なども検討していく。

 香川大学で開発された新周産期電子カルテシステムは、海外でも活用され始めている。それを「海外医療連携−東南アジアプロジェクト−」と題して発表したのは、ミトラ代表取締役の尾形優子氏である。

 尾形氏は実際、ブルネイとタイのチェンマイを訪問して、現地の状況を視察してきた。経済的に裕福なブルネイでは最近糖尿病患者が増えており、妊婦においても例外ではない。また医師は欧米の医療教育を受けていて、アジア人に関する医療知識が十分とは言えない状況にある。「こうした背景から、日本で開発されたシステムは妊婦管理に非常に役立つと訴えかけられた」と尾形氏は述懐する。

 タイのチェンマイでは、モバイル型の胎児心拍検出装置を診療所に置き、医療スタッフがこれを使って胎児の様子を検査。データをタイ中部の大学附属病院へ送って、病院の専門医が遠隔で診断する計画だ。12月にシステムを導入し、来年1~3月にかけて実証実験を行う予定。現在、ミトラではシステムの英語化を急ピッチで進めている。

●血圧や体重の管理など健康情報活用ビジネスも着実に進展

 健康情報の活用という視点からも広告があった。オムロンヘルスケア健康サービス事業統括部の金岡秀信氏が、「オムロンの新健康管理サービス WellnessLINK」について講演した。「本当は血圧を“測る”だけでは不十分で、“下げる”ことに貢献する重要さに気づいた」と、金岡氏は語り、それがWellnessLINKという無料のWebサービス(データの長期保管など一部は有料)をスタートさせた理由だと説明した。
 

オムロンヘルスケア健康サービス事業統括部の金岡秀信氏

 血圧計や体温計、体組成計のデータを、Felica搭載の携帯電話やUSBメモリー経由で転送。データ管理と表示、アドバイスを行う。会員のモチベーション持続のため、さまざまなイベントも企画する。「将来、十分な数の会員が集まれば、日本人の血圧傾向など統計として有意な情報も見えてくるはず」と金岡氏は期待を込める。今後は、フィーチャーフォン、PC、スマートフォンとデバイスの特性に合わせて提供情報を出し分けるなど、このサービスを健康管理プラットフォームとして発展させることを目指すという。

 健康維持という点では体重管理も大きな問題だ。「健康管理のための体形・歩行シミュレーション技術」という演題で、産業技術総合研究所 デジタルヒューマン工学研究センター センター長 持丸正明氏が登壇した。同センターでは、健康サービス産業活性化のために、“続けさせる”サービスを提供することが重要だと考えている。そこで注力しているのがシミュレーション技術の活用だ。

 一つは、20の人体寸法から3次元体形を復元する体形シミュレーション。本人に提示して行動変容を迫る。ある実験プロジェクトでは、女性は配偶者、男性は子供に“魅力的でない”といわれると気になるという結果が出た。このシミュレーション技術や人体データは、フィットネスクラブやアパレルメーカーの衣装ボディ作成に活用されているという。

 もう一つは、歩行シミュレーション技術だ。センターで蓄積した詳細歩行データベースにより、ユーザーのトレッドミル(走行や歩行を行う健康器具)とロードセル(荷重変換機)利用での歩行状況を推定。下肢関節の負担、姿勢の美しさ、転倒リスクを評価すると同時に、アドバイスを提示する。これは歩行評価サービスや専用ウエア、専用サンダルの販売に活かされている。

 「“続けさせる”ためには、科学的アプローチが必要。当センターでは、社会心理学で確立された意識変容モデルを参考に、歩く、身につけるといった自己満足度の高い手法、小刻みな達成感など効果的な報酬、効果的なコミュニティ支援といった3つのサポートが重要だと考えている」と持丸氏は締めくくった。

 続いてコナミスポーツ&ライフ商品開発部プロデューサーの森谷路子氏が、フィットネスクラブを活用したリハビリ患者の運動機会創出の取り組みを、「経産省『医療・介護等関連分野における規制改革・産業創出調査研究事業』での取り組み内容について」と題して報告した。

 これは、急性期を脱してリハビリが必要な患者を、リハビリメニューを病院に提示してもらいながら、フィットネスクラブ側で運動指導に当たるというもの。昨年京都で1回目の取り組みが行われた。30人を対象に1回40分のマンツーマン指導を、週1回で全8回実施。その結果、当初の目標どおり機能維持が図られたという。これとは別に、比較的健康な年配者を対象にした、グループ指導による運動教室も実施。これも定量、定性的に効果が表れた。今年は同様の試みを、大阪や愛知でも開催する。森谷氏は「比較的な健康な年配者向けの運動教室に関しては、外部の事業者と連携して認知症予防指導なども盛り込みながらビジネス化をめざす」と今後の展望を語った。

(吉田 育代=委嘱ライター)

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