「日常的な超音波検査の必要性を震災で痛感」と岩手医大教授

日本超音波医学会と岩手県の連携による、東日本大震災被災地域の医療支援活動報告

 東京・霞が関の日本記者クラブで9月5日、GEヘルスケア・ジャパン主催によるメディアセミナーが開催された。今回は、今年3月に発生した東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県に焦点を当て、震災直後から今日まで日本超音波医学会と岩手県が連携してどのような医療活動を展開してきたか、その現場の姿が明らかにされた。

震災後医療の現場について講演する岩手医科大学医学部教授の小山耕太郎氏

 演壇に立ったのは、一連の活動で中心的な役割を果たしている岩手医科大学医学部教授の小山(おやま)耕太郎氏。岩手医科大学付属病院循環器医療センターで、小児科医師を務めている。

 この取り組みは一通の電子メールから始まった。3月15日、日本超音波医学会の理事長が全国の学会員に向けて「被災地の医療現場から要請があればすみやかに対応するよう、また東北は超音波専門医、検査士が少ない地方であるから互助・協力するよう」一斉同報を行った。それに応える形で、福島県立医科大学の教授が学会を通じてポータブル超音波診断装置の調達に動いた。3月18日には、第1弾が航空機で羽田から花巻空港へ届けられた。小山氏らがガソリンを工面して盛岡から車で空港へ向かい、それを引き取って戻ったという。

 その中に、GEヘルスケア・ジャパンが提供する小型で軽量のポータブル超音波診断装置 Vscan(ヴィースキャン)もあった。Vscanは、スマートフォンを縦に2つつないだような形状で、重量は390g程度。片手で持つことができ、携帯電話のようにアクションキーを片手の親指1本で操作する設計になっている。

 当時、岩手県沿岸地域の医療支援体制は、全国から駆けつけた災害派遣医療チーム、日本医師会災害医療チーム、医療団体や病院、大学の巡回医療が錯綜しており、混沌とした状態だった。そこで岩手医科大学が中心となり、岩手県、県医師会をはじめ官民一体の組織を構築。被災を免れた4つの拠点病院を軸とした岩手災害医療支援ネットワークを組織し、現在まで倒壊した山田町山田病院、大槌町大槌病院、陸前高田市の高田病院の機能を補完しながら診療にあたっている。小山氏は、ここで被災地域へ超音波診断装置送付を統括する職務を担っている。

 「当初、ポータブル超音波診断装置は、緊急を要する災害医療現場で多く必要になると考えられていた。しかし、実際に現地を訪れてみると、地震より津波による被害が圧倒的に大きく、生存者の慢性疾患治療、健康管理、衛生管理が活動の中心となった」と小山氏は述懐する。その慢性疾患治療の際、聴診を行って異常が感じられたときに、次段階のスクリーニングのために使われたのがVscanだった。

 具体的には、(1)胸部(大動脈、心臓、肺)で壁運動異常、心拡大、心肥大、弁逆流、弁狭窄、心嚢液貯留、胸水貯留、肺水腫、大動脈瘤などが疑われるケース、(2)腹部(肝臓、腎臓、脾臓、膀胱、腸管、大動脈)で腹水貯留、結石、嚢胞、壁肥厚、腸管拡張、排尿障害、大動脈瘤などが疑われるケース、(3)産婦人科では胎児、羊水の様子を知りたい場合、などに利用された。そこでなんらかの異常を確認した場合は、救急処置や精密検査といった次のアクションを取った。Vscanは、プライマリーケア・ツールとしての役割を果たしたわけだ。

 Vscanには、いくつか課題もある。小山氏によると、バッテリー寿命が連続使用1〜2時間と短いこと、電源関連に不具合を生じるケースがあること、基本的には体の小さな小児には向かないこと、などだ。

 日本超音波医学会・企業が提供した超音波診断装置は、現在Vscanを含めて20台が特に甚大な被害をこうむった山田町、大槌町、釜石市、大船渡市、陸前高田市の5カ所に配布されている。台数の限られた装置を最大限に有効活用するため、小山氏らは、一元管理、現場ニーズの詳細把握、最適機種の送付、送付後のきめこまかいフォローなどに配慮して運用を続けている。

 今日までの活動と経験から小山氏は、「平常時から超音波検査をもっと普及させることの重要性を痛感した」と語る。具体的には、医療過疎地域 東北地方での超音波専門医・検査士の養成、医師初期研修段階での超音波検査教育、プライマリーケアとしてのエコーの普及、医療機関へ出向けない高齢者などに検査自体が出向くポイント・オブ・ケアとしてのエコーの普及などだ。「このポイント・オブ・ケアを実現する上で、ポータブル超音波診断装置の進化には期待している」と小山氏は語る。

 今後、岩手県の地域医療再生のために求められるのは、保健、医療、福祉が密接に連携した地域包括ケアシステムの構築であるという。「これまでも、いわて情報ハイウェイを活用して岩手医科大学は遠隔医療を進めてきたが、これをさらに強化し、大小を問わず県の医療機関全体で情報とナレッジを幅広く共有し、住民の健康を守り育む体制を確立することが重要」と小山氏は締めくくった。

GEヘルスケア・ジャパン超音波本部本部長の多田荘一郎氏

 小山氏の講演に続いて、GEヘルスケア・ジャパン超音波本部本部長の多田荘一郎氏が補足説明を行った。実際にVscanを利用した医師から「聴診器にプラスして持ち歩く“お守り”のような存在」「急患を病院に搬送するか否かの判断に“安心”をもたらす」「被災地の状況が変化していく中で、高齢者へのプライマリーケアがより重要になってくる」などの声が寄せられているという。何より「リアルタイムで患者の体内を描出できる点が評価された」と多田氏は力説した。

 GEヘルスケア・ジャパンでも、東日本大震災を契機にあらためて浮かび上がった、少子高齢化、医師の偏在、厳しい医療財政といった当該地域の医療課題を重く受け止めているようだ。こうした問題の解決に向けて、無医地区での利用を想定した可搬性の高い医療機器の開発、遠隔診断支援システムの構築など、「地域医療連携支援ネットワークづくりに注力し、医療品質の向上、医療へのアクセス拡大、医療コストの削減に向けさらに努力していく」(多田氏)との意気込みを示した。

(吉田育代=委嘱ライター)

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