【HCIF】震災時の地域医療ネットワーク、電子処方せんプロジェクトについて報告

ヘルスケア・イノベーション・フォーラム第4回総会、第9回事例研究部会、第5回治験IT化部会

 ヘルスケア・イノベーション・フォーラム第4回総会、第9回事例研究部会、第5回治験IT化部会が、6月27日に香川県高松市で開催された。

 総会に続いて開かれた事例研究部会には、被災地で奮闘する岩手県立大船渡病院産婦人科の小笠原敏浩氏が、産婦人科のカルテ機能を持つ周産期医療情報ネットワーク「いーはーとーぶ」の現状紹介と題して、Web会議システムを介して報告した。

●内陸部のサーバーに残っていたデータを活用できた

 いーはとーぶは、安全で安心できる妊娠・出産・育児のために、岩手県内の医療機関や市町村の間をインターネット回線で結び、妊産婦の健診情報や診療情報を共有して、保健・医療関係者の綿密な連携を実現するシステム。現在県内分娩施設(40施設)の加入率は100%で、市町村加入率は66%(35市町村中23市町村加入)となっている。平成2009年4月から、運用を開始した。

岩手県立大船渡病院産婦人科の小笠原敏浩氏はWeb会議システムを介して参加した

 小笠原氏によると、大きな被害を受けた陸前高田市では、現地の中核的病院が被災して患者のデータが消失した。しかし妊婦情報については、盛岡市にあるいーはとーぶのサーバーにデータが残っていた。「これをプリントアウトして市役所機能を失った陸前高田市に提供するなど、診療に役立てることができた」(小笠原氏)と、地域連携システムは災害時でも有用な機能を持つと説明した。なお大船渡病院では、最低限の病院機能が保持されたため、震災後1か月間で32例の分娩に対応できたという。

 小笠原氏は「震災直後は外部との連絡が取れなかった。また、震災後も産婦人科外来機能は維持しているのに、通信がダウンしていたため情報発信できず、なかなか来院してもらえなかった」と説明し、今後の課題として災害に強い通信機能の整備を挙げた。

 後半に行われた第5回治験IT化部会では、厚生労働省 社会保障担当参事官室 室長補佐の中安一幸氏が、総務省による電子処方せんプロジェクトについて解説した。このプロジェクトは、総務省が厚生労働省、経済産業省と連携して実施する「健康情報活用基盤構築事業」の中で、処方せんの電子化について高松市で実証事業を行うもの。紙の処方せんと電子データを併用して、法的にも処方せんの完全電子化を進めるべきかどうかを見極めるのに加えて、安全性や費用対効果の検証を実施する目的がある。

●処方せんの電子化−処方・調剤・服薬情報の連携システムを実証実験

 システム面では、沖縄県浦添地域で行った健康情報活用基盤実証事業における「処方せんの電子化プロジェクト」の仕様を前提として、処方・調剤・服薬情報の連携システムを開発。処方せんの記述にはHL7 CDA R2に準拠したXMLを使用し、専用のASPサービスを用いる計画になっている。

厚生労働省 社会保障担当参事官室 室長補佐の中安一幸氏

 中安氏はまず、現状では医師の処方と薬局での調剤が違っていても医師が知るすべがないこと、患者が実際に服薬したかどうか確認する方法がないこと、を指摘。患者、医師、薬剤師の3点を結ぶ連携システムを作り、処方・調剤・服薬の情報が共有されるようにするのが狙いだと説明した。紙の処方せんで実現するのは極めて困難なので、紙に加えて電子データでのやり取りが必須となる。

 中安氏は「ペーパーレス化は第一の目的ではない。電子データとして送ることに意味がある」と指摘する。電子データであれば、処方箋を発行する際に、付帯情報(既往歴や検査結果、家族の既往歴など)を薬剤師と共有することが比較的容易に可能になる。「処方箋に掲載された情報だけの場合よりも、薬剤師の業務の質向上が見込め、単純な作業から薬剤師を解放できる」(中安氏)。患者に関しても「きちんと薬を飲んでいるかどうかが分かる“服薬コンプライアンス情報”が手に入るので、患者の飲み忘れを防ぐ効果が見込めるのに加えて、処方の際の参考情報として利用できる」(中安氏)。

 加えて、複数の医療機関にかかっている患者の薬の飲み合わせチェックが可能になる、後発医薬品(ジェネリック)への変更・粉末から錠剤に変更などの情報が、患者が再度診察に行く前にすぐに伝わる、など電子処方箋ネットワークのメリットを指摘。「将来こうしたデータが蓄積されれば、その地域での医療のトレンドを読むことができる貴重な情報源にもなり得る」と指摘した。
 
 もちろん問題もある。患者は自分の好きな薬局を選べるので、処方した医師が指定した特定の薬局にだけ情報を送るのは、特定の保険薬局への誘導禁止という規則に抵触する。「どこの薬局で調剤サービスを受けるかは患者の決めることで、その自由を阻害してはいけない」(中安氏)。

 そこで病院でネットワーク上に処方せんの情報を上げると、薬局で患者本人がICカードなどで自身の証明を行い、薬剤師がレセコンからネットワーク経由で問い合わせをして、証明されてから調剤作業に入る、という仕組みが必要になる。「BtoBのネットワークなので、患者には認証だけしてもらい、それ以外の操作は薬剤師が行うのがいいと思う」と中安氏。今後については「システムのリプレース時に相互運用を意識して刷新すれば、おおむね5年くらいの期間で基盤ができてくると考えている」と結んだ。

 徳島文理大学香川薬学部の飯原なおみ氏は、これまで香川県でPHR構想の1つとして進めてきた電子処方せんネットワークシステムと、その改良計画について報告した。このネットワークは、かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)のデータセンターを利用して病院と薬局が連携するシステムで、香川大学医学部附属病院が中心となって開発し、2010年11月から実証事業を続けている。今回、総務省の実証事業の母体となる試みである。

 今回の電子処方せんシステム改良は、いくつかの機能を追加・拡張する形で実施する。最大の変更が、レセプトコンピュータとの連動。「現在も処方せんデータは電子化されて送付されるが、レセコンに自動で反映できなかった。これを連動させれば、レセコンと調剤機器への処方情報の入力が不要になり、間違いも大きく減少する」と飯原氏は期待する。

 続いて後発医薬品(ジェネリック)対策。処方せん情報画面にジェネリックへの変更不可欄を設けると同時に、患者の基本情報欄にジェネリック希望欄を設ける。このほか、薬歴カレンダーへの用法・容量情報と特殊投与情報の追加表示機能、連携する病院や診療所の追加、入院処方や注射処方の共有化、オーダリングシステムを介しての処方の導入なども実施する計画だ。

(本間 康裕=医療とIT/デジタルヘルスOnline

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