【医療情報学会】発生源がバイタル計測・自動記録するシステムの実験成果を発表:京大附属病院

第15回日本医療情報学会春季学術大会

 千葉県美浜区の幕張メッセで開催された第15回日本医療情報学会春季学術大会で、京都大学医学部附属病院医療情報部の黒田知宏氏が、コンティニュア対応機器とBluetoothによる相対位置計測を利用した「発生源がバイタル計測・記録するセンサーネットワークシステムの試作」に関する研究を発表した。

 京大医学部附属病院では、2005年に電子カルテシステムの導入と同時に、ベッドサイドに端末を持ち込んでバイタルデータや看護記録を入力する、いわゆる発生源入力の手法を取り入れてきた。ベッドサイドでの発生源入力は、メモしたデータをナースセンターに戻って端末に入力する二重の手間や、その際に起こりがちな転記ミスをなくすために取り入れたものだ。

 だが黒田氏は、「どんな端末を使おうと、患者ごとにIDを入力して患者カルテ(温度板など)を呼び出して計測データを入力する手間は同じ。病棟看護師の端末操作時間は、1日平均4.6時間にも及んでいる。“看護師業務=入力業務”と言っていいほど」と看護師の業務実態を指摘。情報発生源であるバイタル計測装置が自動的に測定データを病院情報システムに書き込むシステムを構想し、それを提案・試作・評価するために実施した実証実験だと述べた。

京都大学医学部附属病院の黒田知宏氏らが構築したセンサーネットワークの実証実験システム

 ITを活用した位置を特定する仕組みの1つとして、無線LANを使った位置計測がある。すでに無線LANを配備していた同病院では、この方法なら既存設備を利用できるため低コストで構築できるが、実際には電波状況の細かい計測・調整が必要であったり、無線LANのAP(アクセスポイント)の過密配置が必要であったりする。しかも、計測精度が必ずしも高くないという。

 そこで、実証実験では「電波強度履歴から最近傍電波灯台(AP)を推定して位置計測する、Bluetooth型の相対位置計測装置を利用することが適切と考えた」(黒田氏)。計測したバイタルデータを病院情報システムに転送する方法には、Bluetoothなどの利用により計測装置とバックエンドのシステムとの相互運用を可能にするコンティニュア対応の血圧計と体温計(プロトタイプ)を用いた。

 実際には、各ベッドにBluetooth型のロケーション計測基地局(電波灯台)を設置し、Bluetoothのデバイス検出機能を利用した近接位置計測によって、基地局との位置関係から計測患者を特定する。コンティニュア対応の体温計、血圧計で計測したデータは、センサーネットワーク基地局を介して転送する。これにより、患者・計測時刻・測定値を、計測とほぼ同時に自動的に病院情報システムに記録する仕組みだ。

 Bluetoothモジュールは1つだけで、受信したデータはロケーション計測基地局とセンサーネットワーク基地局に振り分けられる。計測したデータは自動的に転送されるが、そのデータが正しいかどうか確認するプロセスを設けるため、「簡単なWebインタフェースを作成し、計測データが正しければチェックボタンを、間違っていれば(手動で)編集して転送するという仕組みを導入した」(黒田氏)。

 稼働率が90%を超えている病棟で患者を対象に実験をするにはリスクが高いため、実験は看護師を主体に実施した。22人の看護師に看護師役と患者役を演じ分けてもらい、透析室のベッドで数人の患者が寝ていると仮定。実施者側と患者側双方の主観的評価を取得するために、役割を交代して評価した。実験では、(1)従来プロセスと同様に測定後端末で手動データ入力、(2)実証実験のシステムを使って測定と同時にデータ転送、という2つの方法を体験させ、アンケートとヒアリングで結果をサイクリック一対比較法(試料数と同数回の一対比較を行って全試料の順列付けと分散分析ができる手法)で分析・評価した。

 評価結果は、「血圧・体温計測それぞれに費やされる全体平均所要時間(準備・計測・転送・転記)は、従来方法とシステム利用との変化はなかった。それに対して端末作業時間は、データ転送エラーのために時間がかかってしまった3例を除き、平均53秒から25秒へと半分以下に削減できた。実験システムによる方法は、非常に効果的だととらえている」(黒田氏)という。

 また、安全性については、従来方法で5件の転記エラーが発生したのに対し、システムによる転送エラーはまったく発生しなかった。一方で、位置計測エラーは12件発生した。「透析室という狭い空間で実験を行ったため、条件的に厳しかった。位置計測では、どの電波灯台が近いかを伝搬状況の過去履歴から推定している。空間が狭いため、システムが確実な位置特定ができないことが、エラーにつながった」(黒田氏)。

 こうした評価を踏まえて黒田氏は、計測1回で1分の時短効率があると推定し、その場合人件費換算で年間1.7億円分に相当すると指摘した(同病院の場合)。一方、位置計測エラーが発生した点について、「システムが自信を持って患者を特定していないことに起因しており、その自信の有無がユーザー(看護師)に伝わるようなインタフェースを開発することが重要だろう。システムとユーザーの『もたれ合い』の構造から、『助け合い』の環境を構築していくことが大切だ」と述べた。

(増田 克善=日経メディカルオンライン/デジタルヘルスOnline委嘱ライター)

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