【震災復興】南三陸町で血圧管理の遠隔医療支援がスタート

写真1 避難所に設置された据え置き型血圧計

 宮城県の南三陸町は、3月11日の東日本大震災で、町の平地部分の大半が津波の被害を受けた。今なお町内外で人口の3分の1に当たる約6000人が避難生活を続けており、うち3000人以上が避難所暮らしを余儀なくされている。

 こうした中で懸念されるのが、住民の慢性疾患の管理だ。強いストレスに曝される避難生活で、心血管疾患の大きなリスクとなる高血圧のコントロールが不良になっている被災者は少なくないと見られている。しかし、現地の医療スタッフはごく限られており、ハイリスク者の発見やきめ細かな管理までは手が回らないのが実情だ。

 そこで、被災者に渡した血圧計や避難所に設置した血圧計(写真1)から、現地と外部の医療機関にデータを送り、遠隔医療支援を実施しようという新たな試みが進められている。

 システム導入と遠隔医療支援を主導しているのは、自治医科大学循環器内科主任教授の苅尾七臣氏ら。南三陸町では、南三陸町全体の医療を統括している南三陸町医療統括本部責任者の西澤匡史氏がプロジェクトを進めている。西澤氏は、同町の唯一の病院だった公立志津川病院で内科診療部長の任にあった。

写真2 南三陸町医療統括本部責任者の西澤匡史氏

 南三陸町では、仮設診療所と、約600人の被災者を収容している同町最大の避難所である南三陸ホテル観洋に、データ送信機能を備えた据え置き型の血圧計を1台ずつ設置した。また、診療所の受診者に対し、個人用の家庭血圧計を配布している。

 プロジェクトで使用している血圧計は、インテルなどが提唱し、健康・医療情報の国際的な共通伝送規格となっているコンティニュア規格に準拠した製品(エー・アンド・デイ製)を用いている。

 据え置き型は、携帯電話のデータ通信機能を用いて測定したデータを自動送信できる。個人用血圧計もブルートゥース通信機能を搭載しており、対象者が診療所を受診した際、診療所のパソコンにデータを自動転送できる。どちらを使う場合でも、個人の認証は、あらかじめ対象者に渡しておいたカードで行う。多くの避難者に対応しなければならない現地の医療スタッフが、名簿の照合や血圧データの聞き取り、書き写し、データ入力、送信などに時間を割く必要はない。

 本システムを被災地側で導入した西澤匡史氏(写真2)に、背景となる医療や被災者の状況と、導入への期待を聞いた。

――医療提供の現状は。
西澤 南三陸町内には公立志津川病院(写真3)と6軒の民間診療所がありましたが、すべて壊滅し、地域医療拠点が失われました。震災後は、現地の医療スタッフと、全国から派遣されてきた医療支援チームが支えてきました。4月18日にはイスラエルの医療支援チームが残してくれた資材をもとに仮設診療所を開設できました(写真4)。しかし、地域外からの医療提供は、いずれは期待できなくなりますので、今は医療支援をお断りし、通常の医療への移行を進めています。

写真3 南三陸町唯一の病院だった公立志津川病院

 
――血圧コントロール不良の主な原因は何ですか。
西澤 津波によって、住民の健康管理に必要なカルテやお薬手帳が消失し、血圧など慢性疾患のコントロールが一からやり直しになってしまいました。被災者の中には、震災から2カ月以上経った現在でも血圧コントロールが不十分な方がいます。これは薬が不十分というだけでなく、避難生活のストレスが血圧上昇につながっていると考えられます。このため、震災前と同じように薬が手に入るようになっても、依然として血圧が高い状態が続いている人が多いのが実情です。

――血圧遠隔管理への期待は。
西澤 現在でも3000人以上が避難所で生活しています。この地区は仮設住宅を建てる土地が非常に少なく、避難所生活が長引くことが予想されるので、血圧のコントロールは最優先すべきだと考えていました。そのような状況で苅尾先生から画期的な遠隔診療支援システムの提案がありましたので、喜んで参加することにしました。

――測定の現状を教えてください。
西澤 5月25日現在で90人の被災者を登録しています。貸し出し用の血圧計も約200台の提供を受け、登録数を増やしている段階です。

写真4 南三陸町の拠点であるベイサイドアリーナに設置された仮設診療所

――血圧管理は地元の医師だけでは対応できないのでしょうか。
西澤 地元では、被災者を支える医師がひどく不足しています。そのため、慢性疾患の処方は最短でも1カ月処方が必要です。しかし、食事や住環境が不安定な避難生活で1カ月以上の処方間隔は長く、コントロールが不十分になる例がみられます。こうした患者を放置することなく、できるだけ早く介入するためには、遠隔医療支援は有効だと考えられます。

――180mmHg以上の高血圧を対象にしていますが、現在の降圧基準に比べて高すぎませんか。
西澤 マンパワーの問題もあり、血圧管理の対象を収縮期血圧180mmHg以上としました。非常にリスクが高く、早期の治療を必要とする人をまず抽出して介入する目的です。こうした人々が治療で改善し、現場のスタッフに余裕が出てくれば、対象を160mmHg以上、あるいは140mmHg以上などと広げていくこともできます。

(中沢 真也=日経メディカル別冊)

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