災害時における医療情報ネットワークの意義を再確認――JAMINAセミナー2011

JAMINA理事長田中博氏の講演より

 NPO法人 日本医療情報ネットワーク協会(JAMINA)は4月21日、東京都内で第8回JAMINAセミナーを開催した。今年の同セミナーは東日本大震災から間もないこともあり、災害時における医療情報ネットワークのあり方についての講演はもちろん、OECD/NEAのCRPPH(放射線防護・公衆衛生委員会)の活動の1つであるISOE(職業被ばく情報システム)委員会による講演も行われた。

 セミナー開催の挨拶に立った日本医療情報ネットワーク協会理事長の田中博氏(東京医科歯科大学大学院生命情報科学教育部・疾患生命科学研究部教授)は、「震災後間もないため開催延期も考えたが、今こそ医療ICTの必要性をあらためて訴えたい、と考えて予定通りの開催を決めた。目指している日本版EHRのすべての機能をとは言わないが、少なくとも患者データのサマリーを電子化して安全な場所に保管する情報インフラを構築する必要がある」と強調した。

●患者データの電子化推進は必須、クラウド活用の災害対策を提言

 東日本大震災では、紙カルテを津波で流されて患者情報を消失、院内の電子カルテサーバーが被災してデータを消失、などの被害を受けた医療機関が多数あった。「震災直後の災害救急医療は救急ボランティアなどで凌ぐことも可能だが、1カ月ほど経過すると慢性期患者への治療を強化しなければならない。ところが、服用していた薬がわからない患者がほとんどで、治療もままならないのが実状だ。これまで10年間、生涯にわたる電子的な医療記録を持つことの重要性を説き続けてきたが、状況はわずかに進展したのみ。これを機に、病院完結型の医療から地域包括的な医療体制への変革と、日本版EHR導入の重要性をもう一度訴えていきたい」(田中氏)と述べた。

 続いて登壇したJAMINA副理事長の水島洋氏(東京医科歯科大学大学院疾患生命科学研究部特任教授)は、「東日本大震災における医療情報ネットワークの役割」と題して講演。震災直後の対応(応急)、震災後の対応(復興)、震災へ対応(予防)という3つの段階での医療情報ネットワークの役割、あり方について述べた。

JAMINA副理事長の水島洋氏の講演資料から

 水島氏は、震災直後に活動を開始した地震医療ネットワークに参加した学生や被災地の医療支援に当たった薬剤師の報告などを紹介しながら、情報ネットワークの重要性を訴えた。「医療支援に当たった医師では、すべての疾患に対応できない。どこに対応できる医療リソースがあるのか分からず、専門医に相談するにしても通信手段が機能不全で対応できないケースが頻発した。医薬品でも、どこでどのような医薬品が調達できるのか情報がない。結局、通信手段としてのネットワーク確保が大きな課題となる。警察では震災直後でも特殊なネットワークで通信を確保しているが、医療用に同様なネットワーク回線を構築するべきだ」(水島氏)と指摘した。

 また、水島氏は震災後の対応と震災への対応における医療情報ネットワークのあり方として、クラウドコンピューティング技術の活用を推進すべきと提言した。被災地には随時多数の医療関係者が出入りし、各地の災害医療拠点だけでなく、多くの避難所でも活動する。また、被災者も避難所を移動することも多く、どこでも患者の医療情報を参照できる環境が必要になる。「とりあえず、紙カルテに記録してスキャンした情報、患者別経時的な電子記録をクラウド上にアップし、どこでも参照できる簡易的なシステムを立ち上げることが必要。CRMシステム(顧客管理システム)のような感覚の応急システム構築が可能なのではないか」と、災害時におけるクラウド活用の有用性を強調した。

 第1セッションのJAMINA講演では、このほかJAMINA副理事長の辰巳治之氏(札幌医科大学大学院 医学研究科生体情報形態学教授)が、同氏が掲げる戦略的防衛医療構想の基礎になるものとして、「『情報薬』の分類とその応用」と題して講演した。

 続く第2セッションでは、経済産業省商務情報政策局医療・福祉機器産業室室長 竹上嗣郎氏、内閣官房情報通信技術(IT)担当室内閣参事官 野口聡氏、総務省情報流通行政局情報流通振興課情報流通高度化推進室室長 吉田恭子氏、厚生労働省医政局研究開発振興課医療技術情報推進室室長補佐 野口貴史氏の各氏が、各省庁の医療情報化への取り組み状況について報告した(詳細はこちらへ)。

●データの遠隔地保存が妊婦健診や出産対応に大いに役立つ

 「他業界に学ぶ院内危機管理のヒント」と題した第3セッションでは、全日本空輸(ANA)客室本部グループ品質推進部課長の矢野淳子氏が航空会社の安全への取り組みを、IAEA(国際原子力機関),OECD/NEA ISOE委員会の第7代議長 水町渉氏が福島第一原子力発電所から放出される放射線に関して、IAEAと日本の基準の違いや放射能漏れに至った原因などについて説明した。IAEAのISOE委員会は、世界の原子力発電所の詳細についてのネットワークを持ち、世界最大の被曝関係のデータベースを運用し、原子力のクリーン化に取り組む委員会。

 水島氏は講演の中で、「地震発生により福島第1原発は非常停止し、崩壊熱を取るための水を循環させるラインが非常用電源で稼働していた。55分後の大津波により(発電機による)非常用電源がすべて消失したが、3号機などはバッテリーで動いており、8時間にわたって水は循環していた。これが止まったら、ともかく冷却用の水を注入することが絶対命令であり、原発にかかわる人間の常識。今回、非常用電源が停止して8時間後に速やかに水の注入をしなかったことが、大事故につながった最大のミスだ」と指摘した。

 医療分野における各団体の取り組みについては、医療情報システム開発センター研究開発部首席研究員の山田恒夫氏が「自治体が挑戦するPHR」と題して、保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)運営会議議長の富田茂氏が「医療IT化におけるJAHISの現況と今後について」というテーマで講演した。

 山田氏は、岩手県遠野市の周産期医療から始まる市民の健康管理をサポートする電子手帳、沖縄県金武町の日常活動モニタリング、鹿児島県奄美群島の3地区で実施されている実証事業について、それぞれ概要を説明した。特に遠野市の事業においては、「岩手県の周産期電子カルテネットワーク『イーハトーブ』のサーバーは、内陸部にある盛岡市の岩手医科大学に置かれていたため、今回の大震災の被害を免れた。大船渡市や陸前高田市など大変な被害に遭われた地区の妊婦さんは、母子手帳を消失してもイーハトーブの健診データを元に避難先の病院で引き続き健診を受け、出産もできた。また、消失した母子手帳をサーバーのデータに基づいて再発行できるなど、(ネットワークが)非常に役に立った」と述べ、周産期医療ネットワークが災害時にも有効に機能したことを強調した。

(増田 克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)

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