センサー技術の標準化を目指すQoL-SN研究会、初のシンポジウム開催

横浜市立大学大学院医学研究科情報システム予防医学部門名誉教授・特任教授の杤久保修氏

 ICTの活用による生活の質(Quality of Life)の維持と改善を可能とする社会の実現に向けて、個人の健康情報管理システムにおけるセンサー技術やネットワーク技術、アプリケーション基盤の標準化を目指すQoL-SN(Quality of Life-Sensing Network)研究会が、2月1日、初のシンポジウムを開催した。

 同研究会は、センサー技術やネットワーク技術などを持つ民間企業27社と独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)で構成される。大学医学部や医療機関と連携しながら、日常生活で継続的に生体情報をはじめとする健康管理情報の変化を把握できる、ユビキタス小型センサー技術やネットワーク技術、それを利用したサービスの実現に向けて、技術基盤の確立を目指している。
 
●BANを活用した実用の標準インタフェースを開発

動作検証を実施予定の健康管理機器

 短距離無線通信方式「Body Area Network(BAN)」が、医療やヘルスケアなどの分野で利用が期待されている。その基本となる標準仕様IEEE802.15.6を主導している(バイス・チェアマンとセクレタリー)のが、NICTの医療支援ICTグループだ。同機構の研究推進部門標準化推進グループマネージャ 黒田正博氏は、「Bluetooth SIGやZigBeeアライアンスなど短距離無線ネットワークの業界団体が標準化を目指して活動しているが、住み分けを前提としないマルチスタンダードが多く見られるようになってきた。その結果、大きく複雑な仕様のソフトウエアとなり、運用費用も大きくなっている。IEEE802.15.6は機能選択ができる仕様で、QoL-SNの概念に則って目的に合った機能を選択できるという優位性がある」と指摘した。

 黒田氏は、QoL-SN研究会ではこのIEEE802.15.6をベースとしたBANの外部インタフェースの標準仕様にかかわる領域と、インターネットを利用した健康情報管理サービスのアプリケーション領域の2つの領域での標準化を進めていると説明。ウェアラブル健康機器の電池やセンサー、BAN、携帯端末などセンサーネットWG(ワーキンググループ)とアプリケーションWGで参加企業が活動していると述べた。

 また、現在BANに関わるQoL-SN MAC仕様ドラフトと、サービスプラットフォームの仕様となるPHR-PaaS(PHR-Platform as a Service)ドラフトの2010年11月版に基づいて機器の動作確認・検証を実施すると同時に、プラットフォームの試作を行っている。その評価を2011年2月版に反映し、実証実験システムに適用していく計画だという。

●医療・健康センサーがもたらす健康情報管理の革新に期待
 

既にBANに対応した医療・健康センサーの試作機。左端がアクセサリー型心電計

 シンポジウムでは、医療の視点から見た無線センサーネットワークへの期待について、研究会の副会長を務める横浜市立大学大学院医学研究科の名誉教授・特任教授 杤久保修氏とフクダ電子の開発本部機構・要素技術部次長 小山田直明氏が講演した。

 杤久保氏は、医療費のうち65歳以上の高齢者関連が今後、さらに増加することを指摘。健康長寿社会を創造していくために、関連システムのハード・ソフト両面の整備が必要だと述べた。特に脳血管障害の予防と要介護者減少を目標として、血液や血圧の評価・管理にICTを活用することの効果は大きく、ユビキタス型モニターによるデータ収集・解析とフィードバックシステム構築の重要性を指摘した。

 「24時間血圧を計測すると、その変動から10万個のデータが取得できる。実は1カ月に1回、病院などで検査した血圧データは300万個のデータの1つでしかなく、科学的な根拠は薄い。ユビキタス型センサーで収集するデータがいかに重要か、理解していただけるのではないか」と述べ、同氏がこれまで研究・試作開発してきた腕時計型加速度・心拍数記録計(ストレスタコメーター)、家庭における睡眠無呼吸モニター、携帯型耳孔内温度計、ペンダント型アクセサリー型多用途心電計などを紹介した。

 続いて、フクダ電子の小山田氏が、杤久保氏とともに開発したアクセサリー型心電計(試作品)について解説した。特徴は、ドライ電極による双極誘導型で、2.4GHz帯の無線方式(BAN)を使用、約24時間の連続送信が可能。機器本体(電池を含む)が約18グラム、電極が約17グラムと小型・軽量で、首からペンダントのように提げて装着する。

 小山田氏は、アクセサリー型心電計の開発を通して気づいたこととして、医療・健康用センサーに求められる要素を列挙した。「医療機器には安心・安全が第一に求められる。それに加えて医療・健康用センサーでは、小型・軽量であること、ケーブルレスであること、清掃が容易で状況に応じた電極交換が可能であること、などの利便性や快適性が重要になる」と強調した。

 シンポジウムではこのほか、日立マクセルの佐野健一氏によるウェアラブル健康機器用のコイン型リチウム二次電池の商品化、イノテックの澄田誠氏による医療・健康機器で使用される省電力無線LSIの開発、などの講演が行われた。

(増田 克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)

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