【第30回医療情報学連合大会】PHRへの取り組みは実証基盤の構築段階に

徳島文理大学香川薬学部の飯原なおみ氏

 第30回医療情報学連合大会では、PHR(Personal Health Record)/ EHR(Electronic Health Record)への取り組みが数多く発表された。「自治体が挑戦するPHR」というテーマで開催されたシンポジウムでは、さまざまな視点からPHRへの取り組みの実状が明らかにされた。

 ワークショップの冒頭で、香川大学瀬戸内圏研究センター特任教授の原量宏氏が、PHR/EHRの意義について語った。その中で同氏は「どこに行っても自分の健康情報、診療所情報を参照でき、活用できる基盤となるPHR/EHRは、個々の医療機関や健康関連機関が最適化しているだけでは不十分で、全体が1つになってシームレスな総合病院のイメージを作る必要がある」と述べた。続いて、「単に基幹病院の電子カルテが参照できるだけで地域連携システムと称するケースもあるが、さまざまな機関のデータがきちんとデータセンターに集約され、それがEHR/PHRとして利用できる基盤でなければならない」と主張した。

●薬歴情報を中心としたPHR構想の実践:徳島文理大学香川薬学部

 徳島文理大学香川薬学部の飯原なおみ氏は、PHR構想の1つとして進めている電子処方せんネットワークシステムと、それを利用した電子お薬手帳について発表した。かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)のデータセンターを利用して病院と薬局が連携するシステムで、香川大学医学部附属病院が中心となって開発した。

 仕組みは、同病院の医師が電子カルテシステムでオーダーした処方せんに対し、外来患者は院外処方せんコーナーに置かれたタッチパネル式機器で院外処方せんの電子化に同意すると、患者基本情報や処方データなどが地域連携サーバーを介してK-MIXのデータセンターに伝送・保存される。薬局の薬剤師はHPKI(ヘルスケア公開鍵基盤)で電子認証して、データを参照できるのに加えて、処方内容や後発医薬品への変更、副作用発現状況の報告などができる。

 「単に処方せんを電子化して薬局に伝送するだけでなく、薬局の薬剤師の能力を活用したいと考えて、病名や検査データ、患者のアレルギー情報、医師のコメントなども参照できるようにした。また、医師からの一方向でなく、用量の間違いや通常と異なる用法などがあった際に、医師に疑義照会するとともに処方変更や後発品への変更、薬剤師が患者の副作用を発見したときの連絡など、従来はFAXなどで行っていたことをオンライン化して双方向でのやり取りを可能にした」(飯原氏)と述べ、調剤薬局で得られた情報を医療機関にフィードバックできる意義を強調した。

 こうしたK-MIX上に保存された個人の薬歴管理情報を、患者自身がPCやスマートフォン、携帯電話で閲覧できるようにしたのが「電子お薬手帳」である。薬歴情報を他の医療機関で提示できるのはもちろん、患者の服薬時間に合わせてデバイスにメッセージを表示させる、服薬状況を入力する、服薬事の体調・健康状態を入力する、などが可能。こうしたアクションを服薬日記としてデータセンターで管理することで、薬を中心としたPHRとして保存・活用しようという目的がある。

 飯原氏は、なぜ薬のデータをPHRと考えるのかという点について、「患者の副作用やアレルギー反応の履歴などを患者・医師・薬剤師で情報共有することにより、患者の安全が保てると考えている。電子化された副作用カード、アレルギーカードなどを医療機関や薬局で利用できる環境が整う」と述べた。今後は、電子処方せんネットワークを拡大させるための課題を探っていくという。

●交通系ICカードを個人認証に用いた地域医療情報ハブの実証:香川大学医学部

 香川大学医学部附属病院の山肩大祐氏は、かがわeヘルスケアコンソーシアムによる医療情報ハブ「かがわeヘルスケアバンク」推進プロジェクトでのPHRへの取り組みと、バス乗務員管理(健康管理)の実証実験の概要を報告した。同プロジェクトは、2008年度の「健康情報活用基盤構築のための標準化及び実証事業」で公募採択されたものである。

 山肩氏は、PHR促進における課題は「PHRのためのデータとして何を入れるか、そのデータにアクセスするときの安全性をどう確保するか、収集・蓄積したデータをどう活用するかの3点が重要になる」と指摘。それらを探るために、バス乗務員の継続的な健康管理を実施した。

香川大学医学部附属病院の山肩大祐氏

 データセンターのeヘルスケアバンク(データベース)には、K-MIX上の診療情報や処方情報だけでなく、企業健保の健診情報も取り込んでいる。さらに、社員個人の健康管理の面から外部のスポーツクラブと連携。今回eヘルスケアバンクには取り込まなかったものの、その情報も利用した。それらの情報へのアクセス手法として、高松琴平電気鉄道(ことでん)が運用する交通系ICカード「IruCaカード」を活用。カードによる個人認証とパスワードで安全性を確保するとともに、生活に密着した利便性を提供した。

 実際の実証実験では、JR四国バスなどの協力を得た。同社社員の日々の健康管理を目的として、毎朝の朝礼後に行う乗車前点呼時に乗務員の自己申告による健康状態の確認にeヘルスケアバンクシステムを利用。「継続して乗務員の健康状態を知ることができ、利用効果が高い」という評価を得たという。

 実証実験を踏まえて山肩氏は、「PHRとして取り込む情報の1つに医療機関の診療情報があるが、そのすべてを取り込んでしまうと利用目的がぼやけてしまう危険性があり、ある程度データのターゲットを絞る必要がある。生活習慣病のような慢性疾患に関わる情報を扱うことが効果的と考える」と述べ、糖尿病地域連携情報などの地域医療連携データと、どのように連携していくべきか考える必要があると指摘した。

 また、PHRの利用目的の1つに個人の健康増進があるが、「民間サービスとして考える場合と自治体サービスとして考える場合がある。自治体サービスとして提供するのであれば、その地域の基盤とすることが重要なポイントであり、すでにある医療連携基盤とどう連携させるかが課題。さらに、PHRの効果的、継続的な利用を促進するために、簡便な入力インタフェースや収集する情報の取捨選択が必要になる」と強調した。

●自治体が主体に推進するPHRの実状:遠野市(岩手県)、奄美群島(鹿児島県)

 自治体および関連団体が推進するPHRからは、岩手県の遠野市と鹿児島県の奄美群島広域事務組合の2つのケースを紹介したい。なお、両発表とも国際医学情報センターが代理発表した。

 まず、総務省地域ICT利活用モデル事業として実施している、生涯を通じた住民の医療・健康管理の実現を目指した「遠野型すこやかネットワーク」。この構想は、住民の生涯にわたる健康づくりと自立した生活を支援するために、それぞれに応じた健康・福祉の情報をインターネットなどの通信を利用して、自己管理可能な体制を整備するもの。同県の周産期電子カルテネットワーク「イーハトーブ)の情報をベースにした「すこやか親子電子手帳」を起点として、就学期における「すこやか子育て電子手帳」、成人期での「すこやか健康増進電子手帳」、高齢者の「すこやか長寿電子手帳」という仕組みを利活用する。

 すこやか電子手帳のシステム基盤は、周産期電子カルテネットワーク、自治体が運営する健康福祉管理情報システム、将来的には電子化した学校の健診結果のデータなどと連携し、それぞれの電子手帳向けにポータルサイトを構築し、個人の健康情報や健康づくりのための情報を提供する。

 利用者情報の登録は、例えば親子電子手帳の場合、自治体から母子手帳が発行された際にイーハトーブへの参加同意を取り付け、母子手帳番号をユニーク番号として利用者基本情報を自治体がシステム基盤に一元的に登録する。医療機関などで登録する負担がなくなり、診療情報は自治体にフィードバックされるため、保健師なども情報を利用して妊娠中および産後のさまざまなケアに役立てることができるという。

 それぞれの電子手帳ポータルはPC版とモバイル版(携帯電話などの利用)を用意しているが、長寿電子手帳に限っては、高齢者はPCを操作する機会が少ないことから、モバイル版のみを提供。毎朝の携帯へのおはようメールにポータルのURLを付記して、そこから容易にアクセスできるよう工夫されている。

 鹿児島県の奄美群島広域事務組合が推進しているプロジェクトは、奄美群島におけるICT健康・医療・介護支援による体験・長期滞在型観光/交流産業推進事業の中で展開する疾病・介護予防対策。島民が、ICTを利活用した健康維持や健康増進を享受することができるようにすることが目的である。加えて、将来は観光客への体験・長期滞在型の健康増進や疾病予防、介護予防を含めたICT利活用の観光サービス商品を提供できるように、奄美電子健康手帳を構築する構想もある。

 大きな特徴は、行動変容に基づいた疾病予防、介護予防を住民自らがセルフコントロールしながら継続して実施でできるよう、コンテンツ群が提供されていること。疾病予防については、住民の健診結果を蓄積しているEHRサーバーから、データを取り込んでレーダーチャート化し、それを基に保健師が目標設定してその中で可能なことを自ら設定・実施していく。

 各自治体、組織の取り組みは、PHRをどうとらえるか、何を目的にどのような情報を提供するか、さまざまな視点がある。多くが実証基盤の構築を行っている段階で、住民のメリットの享受や成果は、まだまだ先になる。成功させるためには、プロジェクトの評価・検証と継続性が重要になるだろう。

(増田克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)

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