【第30回医療情報学連合大会】地域医療連携の多様な実態が明らかに

 第30回医療情報学連合大会では、地域医療連携に関して共同企画やワークショップ、一般口演の各種セッションで、全国各地で実施されているさまざまな事例が報告された。地域医療連携ネットワークの利用状況や継続性、その実質的な効果などプロジェクトによって差異が生じており、多くの課題が明らかにされた。発表された事例の中から、主なケースをレポートする。

●診療情報の標準化進展、長期保存の仕組み整備が成果:森町病院(静岡県)

 公立森町病院(静岡県)の城崎俊典氏は、同県中東遠医療圏(袋井市・掛川市・菊川市・磐田市・御前崎市・森町)における静岡版電子カルテシステム・電子紹介状CDの利用状況について発表した。

公立森町病院の城崎俊典氏

 静岡版電子カルテシステムは、2005年に静岡県が5社のベンダーからなるJV(ジョイントベンチャー)に開発を委託して開発されたもの。城崎氏は「名称からペーパーレスの電子カルテを想像させるが、実態は標準化された診療情報を利用した紹介状と定型文書の電子化による医療情報連携の仕組み。そこに厚労省の委託で開発されたSS-MIX(Standardized Structured Medical Information eXchange)による標準化ストレージを導入したもの」と説明した。

 仕組みは、各病院のHIS(病院情報システム)から、処方・検査・注射・病名などの患者の診療情報を、HL7形式のソケット通信を使って標準化ストレージによるHIS情報ゲートウェイ(データベース)に蓄積し、そのデータを紹介状管理システムで紹介状CDを作成する。CDに関してはCDA R2とHL7、DICOMの標準規格で作成しており、電子化された紹介状、処方一覧、検査一覧、DICOMビューアが格納されている。

 城崎氏は2010年3月末まで袋井市民病院に勤務していたため、利用状況のデータは同病院のものを紹介した。それによると、2006年から運用を開始から現在までに作成された紹介状CDは、診療情報提供料(機砲鮖残蠅靴審依茲任虜鄒枚数は通算76枚で、診療情報提供料(機冒澗里0.5%程度。同退院時加算を算定時に作成したのは19枚、全体の1.0%だった。しかし、2008年に同病院がPACSを整備してフィルムレスに移行してからは、DICOM画像のみのCD作成・配布が急激に増加。通算776枚で、診療情報提供料(機忙残蠢澗里4.3%となった。こうした調査結果を踏まえ、静岡県版電子カルテシステム運用の評価を城崎氏は、「結果的にはそれほど利用されていないのが実状だが、各医療機関で診療情報の標準化が進んだことと、診療情報の長期保存の体制整備ができたことが大きな成果だ」と述べた。

 続いて城崎氏は、同システムの標準化ストレージを使った応用編として、指紋認証型USBメモリーを活用した災害時向け診療情報蓄積・閲覧システムを紹介した。患者が医療機関に訪れる度に、標準化した診療情報を指紋認証型USBメモリーに追記記録して、それを患者個人が保持する。それによって、災害時の救護所などでもPCが1台あれば、当該患者の情報を迅速に把握できる。「診療情報が迅速に閲覧でき、過去の検査歴・処方歴がわかれば災害時に診療活動に役立つ。加えてセキュリティに関しては、災害時ということを考慮すれば指紋認証で十分、というアンケート結果を得た」とし、災害に対応における標準化した診療情報の有効性を指摘した。

●利用しやすい地域連携パスシステムと治療知識共有が重要:香川大学医学部附属病院

 香川大学医学部附属病院の山肩大祐氏は、かがわ遠隔医療ネットワーク(K-MIX)を活用した、現在開発中の糖尿病地域連携クリティカルパスシステムについて発表した。同医学部では、糖尿病克服プロジェクト「チーム香川」が活動しており、糖尿病患者の減少・改善を目的として県内の医療機関が連携する取り組みを推進している。その中で糖尿病の連携治療のツールとして、地域連携クリティカルパスシステムを開発している。

 システム開発においては、診療経過の入力の簡略化が重要であるため、プルダウンメニューよる選択方式を採用し、入力項目・内容も極力少なくすることを方針としている。また、パスを利用する診療所は一般医が多いことを考慮し、各項目に注釈などを付けて糖尿病治療に関する知識を提供している。

 「開発の中心が大学の専門医であり、その意見が強く反映されているため、一般医からは項目が煩雑であるという意見が出てくる。病院の専門医で登録する情報と、診療所の一般医の方が入力する情報で、粒度を変える必要があると考えている。ユーザーインターフェースも、専門医用と一般医用の2種類を用意する必要があるのでは」(山肩氏)。また、診療所での検査結果は検査会社からデータを受けるため、そのデータを直接連携パスシステムに投入できる仕組みや、レセコンと連携する仕組みに対する要望もあり、今後の検討課題に挙がっている。

 山肩氏は、「今後本格的に糖尿病地域連携パスがシステム運用される段階になると、現在の病診連携機能に加えて、(病院同士の)病病連携機能も必要になってくるだろう。さらに、情報連携の仕組みができたとしても、病院側の専門医にとって、連携相手の医師が糖尿病治療に関してどれほどの知識を持っているかわからないため、治療のための知識共有をどう推進するか、という問題が生じる。安心して紹介できる体制の構築が重要になってくる」と指摘した。

●異なるベンダーの地域連携システム同士を接続:あじさいネット(長崎県)

長崎大学病院医療情報部の松本武浩氏

 全国各地で展開されているITを利用した地域医療連携ネットワークの中で、実際の運用で成功しているケースとして最も注目されるのが長崎県のあじさいネットだ。同地域医療連携ネットワークについては今大会の中でも、さまざまな視点からいくつもの発表が行われた。

 長崎大学病院医療情報部の松本武浩氏は、同県大村市から始まった地域医療連携に長崎市の医療機関が参加して拡大してきた状況、異なるベンダーの電子カルテシステムが混在する環境での地域医療IT連携、システム利用環境の進化などについて報告した。2004年に長崎医療センターが大村市で始めたあじさいネットは、運用開始5年後には連携施設数が60を超え、総連携数は約7000件に達した。2009年4月には長崎市が同ネットに参加し、現在では診療情報提供施設12施設、連携先診療所は166施設に達し、連携患者は1万4000人を超えている。

 連携施設数の増加、規模拡大に伴ってシステム的な課題も出てきた。当初は情報提供施設が公開用サーバーを構築し、それぞれの連携先医が直接公開用サーバーにログインしていた。ところが、情報提供施設が増加したことにより、それぞれのシステムにログインする操作や、全施設のID/パスワード管理の煩雑性が問題になった。そこで2010年4月からポータルサイトを構築し、ポータルにログインすれば各情報提供施設のリスト表示されるようなシングル・サインオン形式を導入した。

 加えて、同一患者が複数の医療機関にかかっている場合、それら複数病院の情報を1つの画面で一元管理したいとのニーズに対応するため、分散型の地域連携サーバーを導入し、診療情報の一元表示を実現した。この地域連携サーバーは、NECの電子カルテシステムを利用している病院グループはID-Linkを、富士通の電子カルテシステムを利用している病院グループはHOPE/地域連携で運用している。現在、両地域連携サーバーを相互接続して、全病院の診療情報を同じ画面で一元表示できる環境を構築。2011年1〜2月の本格運用を目指してテスト運用を行っている。

 松本氏は6年間のITによる地域医療連携に取り組んできた評価として、「参加医療機関にとって、あじさいネットは日常診療の一部として定着し、使えないと診療業務がストップしてしまうという診療所の医師がたくさんいる。アンケート調査からも診療に役に立っており、地域医療の質向上に貢献していると考えられる」と述べた。

 また、長崎医療センターの木村博典氏は、あじさいネットにおける双方向性連携による情報共有という視点で発表を行った。同地域連携ネットワークでは、2009年9月に地域連携システムを刷新した際に、Web紹介状、地域連携メールの各機能を実装、さらに地域連携パスが運用可能なシステムへと移行し、双方向連携による情報共有を可能にした。

 Web紹介状は、診療所のあじさいネット端末から直接、長崎医療センターの電子カルテシステムへ紹介状を送信できるもの。診療所での検査結果や画像、自院の電子カルテシステムで作成した文書等を添付した送信も可能である。「当院は、システムで事前に紹介状を参照できるため、患者さんが受診する前に検査オーダーの準備が可能になり、スムーズな受け入れができるようになった」(木村氏)という。一方地域連携メールは、あじさいネットのVPN環境下で、セキュリティが確保されたネットワークで利用可能なメール機能であるため、個人情報を含んだメールをセキュアに送受信できる。医師間の医療相談、患者の状況報告、薬局からの処方せん照会、服薬情報の提供などに利用されている。

 木村氏は、この2つの新機能の利用状況に関しても言及。Web紹介状は、運用開始から2010年10月末までに、10施設、10人のかかりつけ医によって利用されており、累積紹介状作成件数は502件。2010年3月以降、急激に増加し、現在は毎月50件前後のWeb紹介状が送信されているという。また、地域連携メールについては、2010年2月〜8月21日までで、106件の送受信があった。診療所から長崎医療センターへの送信パターンが56%と最も多く、逆方向は返信という形で利用が進んでいる。診療所間でのメール送受信も、散見されるようになったという。

 木村氏は、双方向連携機能の運用における問題点として「Web紹介状の患者基本情報入力は手作業で行う必要があるが、自院で電子カルテを運用している医師は二重登録をしなければならないため、業務量が増大する。添付ファイルを利用して転記作業を軽減する方法が有効だと考えているが、ウイルス感染のリスクが増大するため十分なセキュリティ対策が重要だ」と指摘した。

 また、一方向連携では情報提供側の基幹病院の医師は地域連携のメリットを感じることが少なかったとされるが、双方向連携機能により、「かかりつけ医の貴重な診療情報がタイムリーに供給されるようになり、基幹病院の医師も地域連携のメリットが高まったと考えている」と述べた。

(増田克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)

ページの先頭へ戻る

関連記事

Information PR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. インフルエンザの早い流行で浮かぶ5つの懸念 リポート◎AH3先行、低年齢でAH1pdmも、外来での重症化… FBシェア数:188
  2. 味方ゼロ? 誰にも言えない病院経営の修羅場 裴 英洙の「今のままでいいんですか?」 FBシェア数:147
  3. インフルエンザ流行入り、A香港型が中心 寄稿◎2016/17シーズンのインフルエンザ診療の要点 FBシェア数:67
  4. 男性医師は何歳で結婚すべきか、ゆるく考えた 独身外科医のこじらせ恋愛論 FBシェア数:158
  5. 心不全による下肢浮腫に悩む87歳女性への対応 青島周一の「これで解決!ポリファーマシー」 FBシェア数:31
  6. わいせつ容疑の外科医、初公判で無罪を主張 「乳腺科医のプライドにかけて無罪を主張します」 FBシェア数:660
  7. ピコ太郎はどこまで世界に通用しているのか? 安部正敏の「肌と皮膚の隅で」 FBシェア数:1
  8. 開業日未定でも開業スタッフ確保の秘術 原田文子の「レッツ ENJOY ライフ」 FBシェア数:93
  9. 梅毒の流行が止まらず、11カ月で4000人を突破 パンデミックに挑む:トピックス FBシェア数:381
  10. 「スマホ老眼」を放置すると近視になる! 記者の眼 FBシェア数:97